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その矢田くんと会った日から三日後、久しぶりに顔を合わせた航からやけにジッと見つめられている気がする。


「航久しぶり〜、どうしたの?なんかすごい見られてる気がしたんだけど。」


僕の隣には慎くん。この状況で自分から航に話しかけに行くか迷ったけど、あまりに視線を感じたから僕は話しかけてみることにした。


「や、ごめん。なんでもねえ。アキちゃん久しぶりだな、元気だった?」

「うん、元気だよ〜。あ、慎くん慎くん、高校からの友達の航。」


久しぶりの航との会話で、一歩後ろに下がっていた慎くんに思わず航を紹介しちゃった。


「おー、アキちゃんの友達?友岡 航でーす、よろしくねー。」


へらりと笑って自己紹介する航に、慎くんも少しだけ笑みを見せて会釈した。


「アキちゃん元気そうで良かったわ。あれから昇とは?」

「もうぜんぜん会ってないよ。多分もう僕に関わりたくないんじゃないかなぁ。」


僕、っていうか、航とか矢田くんにね。矢田くん敵に回すとめんどくさいしね。


「おーそっかそっか。でもなんかあったら俺に相談してな?」


航はそう言いながら、僕の頭に手を置いてグリグリ頭を撫でてきた。思わず顔が緩んでしまう。やっぱり航のことはいつまでも大好き。

今では随分大人っぽくなったよね。あれだけやんちゃな男の子だったのに、すっかり矢田くんに雰囲気が似てきたよ。揃いも揃ってかっこいいし、僕の自慢の友達。


「うん、ありがとー。相談するね。」


頭を撫でられながら航を見上げると、不意にバチっと航と目が合う。そしてジーっと数秒間航に見つめられ、僕は「ん?」と首を傾げた。


「…あぁ、だめだ、やっぱ気になる…。」

「え、なに?」


僕を見ながら航がぼそぼそなにか言っている。そして、次の瞬間航が僕の首に腕を回して、「ごめん、アキちゃんちょっと借りる。」と慎くんに声をかけたあと、僕を引き摺るように人気の無い隅の方へ移動した。


「お前さ、るいと会った?」


……ギクリ。

二人になった瞬間声色を変え、僕にそう問いかけてきた航。え、なに…、矢田くん僕と会ったこと航に言ったの?内緒だって言ったのに!


「えー、矢田くんに聞いたの?」


僕は不満気にそう言うと、僕の両頬を鷲掴むように顔を掴まれ、僕はみっともないアヒル唇になった。


「俺の友達が見たんだよ、るいとアキちゃんがスタバにいるとこ。るいはなんも言ってねえよ。」

「おーさっすが矢田くん。口堅い。」


そうだったんだ。航に聞かれるとすぐに話してしまいそうなイメージがあったけどますます矢田くんのこと見直したよ。


でもやっぱり航に内緒で会っちゃうのはダメだったかな。ごめんね、やましい事はなにも無いんだよ。それでも航は嫌だよね。不機嫌そうな顔をしている航に、僕はちょっと反省する。


「俺に言いたくないなら無理には聞かねえけど…。俺の友達はみんな悩みあったら俺じゃなくてるいに相談するよな。」


航はそう言って、さらに不機嫌そうにムスッとする。ごめんね航、僕そのムスッとしてる航の表情すごく好き。航は結構友達思いなとこあるよね。僕に相談して欲しかったのかな。


「恋愛相談だからね。前好きだった人には恥ずかしくて話せないよ。」


僕がそう言うと、航の不機嫌そうな表情はすぐに一変し、反応し辛そうにポカンと口を開けてぽりぽりとこめかみを掻いた。


「……そういうことなら仕方ねえけど。」

「それにね、矢田くんってやっぱ的確なアドバイスくれるよね。航に矢田くんレベルのアドバイスは無理だよ。矢田くんを誰だと思ってるの?学年首席の生徒会長様だよ?」


僕は生意気にもペラペラとそんな発言をすると、航は口角をニッと上げて、嬉しそうに笑いながら僕の肩をドンと押してきた。


「おい、るいの評価クソ上がってんじゃねえか。惚れんなよ!」

「えへへ、あの容姿ならうっかり惚れちゃいそうになるね。」


って言うのは冗談だけど、「絶対許さん。」と笑いながらもそう言ってくる航に僕も笑う。

自然な足取りで慎くんが待っているところまで戻ってきた僕らは、「じゃあまた」と言ってそこで別れた。


「慎くんごめんね、お待たせ。」

「すごい仲良さそうだな。」


慎くんに声をかけると、慎くんは立ち去って行く航の背を眺めながら口を開く。


「うん、仲良いよ〜。」


僕の大好きだった人。…って言うと、慎くんはどう受け取るだろう。やっぱり友達として好きって思うかな。…恋愛で、とは思わないよね。

難しいなあ、恋愛って。でも、わくわくしてる。


「頭とか撫でられてて、めっちゃ可愛がられてるじゃん。」


突如慎くんはそう言いながら、先程の航の真似をするように僕の頭を撫でてきた。

え、え、待って…どうしよう、いきなりそんなことされるとトキメキが止まらなくなる…!僕はそれだけで顔が沸騰しそうなくらい、熱くなってしまったのだった。

やばい、顔熱い、絶対赤い!
こんなんじゃ好きなの絶対バレる!


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