2 [ 145/172 ]

「僕の好きになった人、慎(しん)くんって言うんだけどね、僕は元々男の人を好きになっちゃう性格みたいで、慎くんにまずそこから言うべきなのかな?って最近すごく悩んでて…、矢田くんはどう思う?」


二人用の席に着いてホッと一息ついた後、僕はさっそく本題に入った。ズッ、と一口コーヒーを飲んだあと、矢田くんは悩むように「んー…」と声に出す。


「言ってどうする?だから慎くんのことも気になってます、とか言うつもりか?」

「言えたらいいな、と思ってる。」

「率直な俺の意見は、慎くんが自分から離れていく覚悟があるなら、俺は言ってみてもいいと思う。」


矢田くんのその意見に僕は何も言えずに黙り込む。慎くんが今僕から離れていかれると辛い。無理だ。バイト先でも大学でも楽しく過ごせているのは慎くんが居るからだ。


「無理、絶対無理…。」

「その覚悟がねえならやめた方がいいと思う。ぶっちゃけ同性にそういう対象にされて受け入れてもらえるかどうかって、人それぞれだし言ってみないとわかんねえしな。」

「…そうだよね。慎くんに嫌がられたら悲しいな。」


しんみりとした空気になって、沈黙の中ちまっとストローで生クリームを吸い込む。口の中に広がる甘い味を堪能していると、徐に矢田くんが口を開いた。


「でも俺の時がそうだったけど、いつ誰を好きになるかってわかんねえもんじゃん?自分の恋に異性とか同性とか関係ねえよ。だって“その人自身”が好きなんだから。当たり前のことだけどどうしても好き、伝えたい、って思った時に、伝えるべきだと俺は思う。」


真面目な顔をしてそう話す矢田くん。多分、自分と重ねて話してくれているのだろう。そんな矢田くんの言葉だからこそ、胸にしみる。


「タイミングって大事だと思う。」

「タイミングかぁ…。それは今じゃないってこと?」

「そこはアキちゃん次第だろ。俺には二人がどういう感じの親しさなのかわかんねえもん。」


そりゃそうだよね…。僕はちょっと、焦っていたのかもしれない。男の人が好きだって、いつ打ち明けよう、とかそんなことばっかり考えていた気がする。


「じゃあボディータッチとかどう思う?」


僕は好きな人の手とか、背中とか、髪に触れたい。僕からすれば真面目な質問なのに、矢田くんはそこでクスッと笑った。


「なに笑ってんの、真面目に聞いてるんだよ。」

「いいんじゃねえの、航の時もベッタベタベタベタ触ってたんだしアキちゃんの好きにすればいいじゃん。」

「うわ、ちょっと今の皮肉っぽ〜い。」


そう言い返すと、矢田くんはクスクス笑いながらコーヒーを飲む。高校時代の思い出の中にはあまり無かった矢田くんの笑い声と表情だ。

僕は時の流れを感じて、少し感慨深い気持ちになった。


でも矢田くんの言う通り。僕は好きだった人、航にベタベタ触りまくってたな。今更何を聞いてるんだろう、そりゃ矢田くんに笑われるよね。


「なんかいろいろ勇気出てきたよ。矢田くんありがとね。」

「別にいいよ。がんばって。」


ちょっと素っ気ない言い方だったけど、矢田くんは本気で僕を応援してくれているのだろう。


「うん、がんばる。矢田くんに恋愛相談してることは航には内緒ね。過去好きだった人にそういう話するのってちょっと恥ずかしいし。」

「ハハッ、了解。」


こうして僕と矢田くんは、コーヒーを飲み干したところで解散した。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -