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「なにお前ちょっとイメチェンしてんの?髪色暗くしたところでお前のヤンキー臭は消えねえよ?」


朝一顔を合わせた絢斗に、痛い突っ込みをされてしまった。そういう絢斗はキャラメルブラウンの髪にちょっとパーマなんかかけて洒落込んでいる。


「ヤンキー言うな。」


つーか俺からしてみれば絢斗の方がよっぽどヤンキーだ。


「ピアスは取らねえのかよ。」

「ピアスホールふさがるだろ。」

「そういうとこだろ!」

「じゃあ取った方がいいのか?」

「や、取らんでいいだろ。」


まあ絢斗ならそう言うと思った。俺が真面目に勉強とかしててもつまらなさそうに見てくるやつだから。


「無理して自分変えようとすんなよ。」

「べつに無理してねえけど。」

「あっそ。ならいいけど。」


絢斗は俺に対してはあまのじゃくなところがあるから、ひねくれたこと言ってきても裏では実は俺のこと心配してたりするし、なんだかんだで良き友人だと思う。

頭も顔も良いし、金持ちだし、絢斗が普通に生活していたら生徒にも支持され、問答無用で絢斗が生徒会長になっていただろう。けれど俺は、そんな絢斗とは多分友達にはなっていない。

エロくて、セックスが好きで、ちょっと常識はずれなことをして周りを困らせたりする、そんな絢斗が俺のずっと仲良くしてきた絢斗で、そんな絢斗のことを“変わってほしい”とは思わない。

口には出さねえけど絢斗も、俺のことをそんな風に思っているのかもしれない。


「つーか雄飛が生徒会長とか似合わなさすぎ。」

「だよな、俺もそう思う。」


入学当初は適当に高校生活楽しんで、卒業して、そのあとは就職とか適当な進路考えてて。まさか自分がこんな学校生活を送ってるなんて想像もつかないだろう。


「すっげーブーイングきそうだな。」

「ブーイングされてる雄飛とかクソうけんだけど!」

「ブーイングきたら航先輩風に『じゃあお前がやれ』って中指立てながら言ってやろうか。」


もしも航先輩が俺の立場なら、あの人は堂々とした態度で生意気にそんなことを言うだろう。とそんな想像をしながらふと思う。

矢田先輩が航先輩の影響をかなり受けているように、俺もわりと航先輩の影響受けてるな、と。あの人には俺の人生を狂わされている。あ、良い意味で。


「雄飛って航先輩のこと結構リスペクトしてるよな。」

「あー確かに。してるかも。てか航先輩と出会わなかったら今の俺はねえし。」

「あれ?それってつまり俺のおかげじゃね?最初に航先輩に目ぇつけたの俺だぜ?」


絢斗はそう言ってやたら得意げな顔をする。

まあ、言われてみればそうかもな。

人と人との繋がりに感謝だ。


先輩たちとの出会いが無ければ成し得ない経験ができることをありがたく感じながら、俺は生徒会長という立場を体験してみようと思う。





「なんか今日新しい生徒会長発表されるらしいぞ。」

「え、誰がやんの?春川くん?」

「まあそうだろうなぁ。」


体育館への道のりを歩きながら、生徒同士でされている会話はそんな内容ばかりだ。

この後、新生徒会長が全校集会で紹介されるのだが、僕は自分のことではないのに気持ちが落ち着かずそわそわした。


体育館へ集められた生徒たちは、古澤会長が舞台に立つと私語を止め、舞台上へ視線が集中する。


「こんにちは。今日は、生徒役員の交代をみんなにお知らせするために集まってもらいました。」


古澤会長はそう丁寧に話し始めて、一礼した。シンと静まる体育館で、古澤会長は落ち着いた口調で話を続ける。


「僕が一年の時の生徒会長はとても立派な人で、その次の生徒会長も立派な人で、正直僕には自信が全然無かったんですけど、それでもそんな僕に一年間ついてきてくれた仲間、後輩、生徒たちには感謝の気持ちでいっぱいです。生徒会長をやらせてもらい、ちょっとは自信がついたかなと思います。ありがとうございました。」


最後は少し震えていた気がする、古澤会長の声。自信なさげな印象が強かった古澤会長だったけど、僕にとって会長と言えば古澤会長で、少ししか一緒に活動はできなかったけど、先輩は十分立派だった。

その証拠に、体育館内にはパチパチとたくさんの拍手の音が鳴り響いた。古澤会長が思っている以上に、みんなは古澤会長のことを立派な人だと思っている、と、僕は思う。


「次の生徒会長は、二年Cクラス、宇野 雄飛に任せます。」


パチパチ、と拍手の音が少し鳴り止んだ後、マイク越しの古澤会長の声が、体育館内の空気を変えた。ざわ、ざわ、ざわ…と生徒たちが口々になにか言っている。舞台袖で、宇野先輩が苦笑した。


「雄飛」


舞台上で古澤会長からコソッと呼ばれた宇野先輩が、ゆたゆたと舞台中央へと向かう。

古澤会長の隣に並んだ宇野先輩は、腰に手を添え、もう片方の手は『参ったな』とでも言いたげな態度で、髪を触った。


「え、春川じゃねえの?」

「まじで…?てかCクラスって会長なれんの?」


生徒たちの反応に、舞台袖で僕の隣でその様子を眺めていた春川先輩が楽しそうに笑っている。

ポンポン、と肩を叩かれながら古澤会長と立ち位置を交代した宇野先輩がマイク前に立つ。


「二年Cクラスの宇野雄飛です。えー、と、縁あって生徒会長をやらせていただくことになりました。なんか、生徒会長になるのにクラスとか学力は関係無いらしいんで。まあ、俺なりの?やり方でやっていこうと思います。よろしくお願いします。」


パチ、パチ、とまばらではあるが拍手の音に安心するようにホッと息を吐く宇野先輩。それから次に、春川先輩が古澤会長に手招きされて舞台上に顔を出した。


「あ、副会長は俺?二年Sクラス春川絢斗でーっす。びっくり栗きんとんなんですけどぉ、まあ見ての通りヤンキーが生徒会長になってしまったんでえ、「ヤンキーじゃねえし!」くれぐれも目をつけられないようにみなさん気をつけてくださいねー。ハハッ!」


春川先輩の発言に、宇野先輩が盛大にツッコミを入れた。しかも自分の発言に何故か自分で笑っている春川先輩。かなり緩い自己紹介に一部では笑い声が上がった。


舞台上でも自由気ままな春川先輩に、体育館内の緊張感はすっかり無くなり、そんな空気のまま全校集会は終了した。


全校集会が終了した後も、「あの人が生徒会長って、びっくりしたな。」と会話をしている人がたくさんいた。


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