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「よお、雄飛久しぶり。」

「いや、そうでもなくないですか?てかこの前会いませんでした?」

「あれ?そうだっけ?」


僕の目の前で宇野先輩と会話している、この人はいったい誰なんだろう…?


ある日の放課後、生徒会室に突如その人たちは現れた。


「…うわ、矢田だ…。」


宇野先輩とは親しいようだが、春川先輩はどうやらそうでもなさそうで、嫌そうに少し距離を取っている。


「あ、三木、この人たちは元生徒会長と副会長なんだ。」

「あっ、そ、そうなんですね…、はじめまして、一年三木です。」


古澤会長に二人を紹介してもらい、僕はおずおずと二人に挨拶する。えらく美形な人でやたら迫力がある。数秒も目を合わせられず、無駄にキョロキョロと視線を彷徨わせてしまった。

もしかしたらこの人たちが、よく生徒たちのあいだで話題が出る噂の卒業生かもしれない。


「単刀直入に話すけど、雄飛、生徒会長はお前がやれよ。」

「……へっ!?」


えっ、すごい、ほんとに単刀直入すぎる。

元生徒会長、矢田さんの言葉に宇野先輩は、先輩からは聞いたこともないような素っ頓狂な声を出していた。


「いやいや、矢田先輩正気すか…?」

「正気正気。言っとくけど生徒会長になるのに学力は関係ねえよ?」

「いや…そうは言っても…。」

「勉強はできてもバカは山ほどいるしな。」


矢田さんはそう言いながら、ちらりと春川先輩に視線を向けた。その視線に気付いた春川先輩が「ちょっとお!」と声を上げる。


「俺のことバカって言いたげですね!?」

「まだなんも言ってねえけど自覚ありならまだ救いようがあるな。」

「ないですよそんな自覚は!」

「まあとにかく俺は雄飛が適任だと思ってる。学校生活で大事なのは勉学に励むこと。雄飛みたいなやつが生徒の模範となることで、周りは自ずとついてくると思う。あとはお前のやる気と自信がつけばバッチリなんだけど……」


うーん、と腕を組み、顎に手を当ててなにか考えてるような素振りを見せる。絵になるなぁこの人。…なんて僕はこの場では関係のないことを考えてしまう。


「あ、もしかしたら受験で有利になるんじゃね?」

「え、まじすか?」


真面目な話をしていたかと思いきや、突然ガラリと空気が変わり、砕けた感じの会話になった。


「お前こんなチャンスねえぞ?やっとけよ生徒会長。」


そう言って、ポンポン、と宇野先輩の肩を叩く矢田さん。


「えぇ…、なんかまんまと乗せられてる感はんぱねーんすけど…。」

「お前が生徒会長やってくれると俺も安心するんだけどなぁ。なぁ?どう思う?古澤?」

「はい、俺もそう思います。」


古澤会長まで同意することで、宇野先輩はますます困ったように、考えるように黙り込んだ。


「つーかさ、ぶっちゃけそんな深く考えることねえよ?生徒会長っつってもそんな大した存在でもねえし。逆にお前みたいなのが真面目に、普通にして、どしんと構えときゃ誰も逆らいはしねえだろ。」

「逆にってなんすか、逆にって。」

「いや、ほら、一見不真面目そうじゃん?お前。」


矢田さんは宇野先輩にそう言って、へらりと笑った。


「…航先輩みたいに言いますね。大丈夫すか?その言葉信用して。」

「ははっ、大丈夫大丈夫、それで文句言うやつがいたら俺が文句言ってやる。」

「まあそれは助かりますけど。」


…と、宇野先輩がそう言ったところで、矢田さんがパン、と一度手を鳴らしたあと、「ということで、」と口にし、「決まりましたねぇ古澤会長。」とお茶目に笑い、パチパチパチと拍手した。

すごいなぁ、前生徒会長…。なんか、有無を言わせない感じとか、オーラとかあるのにちょっといたずらっ子のような、少年感がある。


「なんか矢田会長、今友岡先輩乗り移ってません?ちょっと会わないあいだに友岡先輩に似てきた気がするんですけど…」

「うん、貴哉それ正解。」


一人拍手をしている矢田さんに、古澤会長が笑い混じりにそう口にするが、僕は話の意味がさっぱりわからない。

しかし、今日矢田さんと一緒に来ていた元副会長の真山さんが、古澤会長の言葉に大きく頷いていた。


「乗り移ってねえよ、だって今日航も一緒に来てるもん。」


にこにこと矢田さんが楽しそうにそう話す、ちょうどその時だった。

コンコン、と部屋の扉がノックされ、「失礼しまーす、話は進みましたかー。」とチラリとまた一人、私服の人が顔を覗かせた。

そしてその人の後ろでもう一人、部屋を覗き込みヒラヒラと手を振っている。


「うわ…なちも来てたんだ。言えよ。」


…え?

だれ?


後から来た私服の人物に、宇野先輩が反応を見せた。


「びっくりするかと思って〜。わあ、雄飛の制服姿なっつかしー、写真撮っとこ。」


この人たちも、宇野先輩の先輩かな。

親しげな様子が少し羨ましい。

僕も、宇野先輩ともっと仲良くなれるかな。


そんなことを思っていたときだ。

僕は、一緒に来ていた人の発言に耳を疑った。


「雄飛雄飛、なっちくんな、雄飛が浮気してねえか心配で見に来ちゃったんだよ。」

「あっバカ航!」

「は〜?なち俺のこと信用してねえんだ?」

「ちがうちがう!してる!してるぞ?!」


浮気…?えっと、どういう…?関係…?


「俺最近気付いたけどわりと一途だぞ?」

「わりと?」

「や、普通に一途。たぶん。」

「たぶん!?」


僕は、二人の会話から耳を背けたくなった。

この二人の会話から想定できること…


それは、二人が恋人同士であることだ。

宇野先輩、男の人いけるんだ…。


やばい、これはちょっと凹むなぁ……

もう少し僕が早く出会っていれば…なんて、無駄なことまで考えてしまう。


「ん?ミッキーどうした?腹でも痛い?」


ぼんやりしていたところで、暇そうにあくびをしていた春川先輩に声をかけられた。


「…あっ…いえ…。」


その春川先輩の声に、皆が僕に注目してしまった。


「あ、一年の子?」

「あ、そ、そうです…。」


やだなぁ…

生徒会がんばろうって思ってたのに…

宇野先輩目当てで入って、先輩に恋人が居たからって理由で生徒会やめるわけにはいかないし…。


「え、ミッキー腹痛いのか?大丈夫か?」


…でも、宇野先輩に優しい声をかけてもらえるのはやっぱり嬉しいし…。


「あ、だ、だいじょうぶです…!」


宇野先輩に恋人が居たとしても、僕はやっぱり、優しい先輩の近くで、生徒会役員をがんばりたい。

宇野先輩の、力になりたいと、複雑な心境だけど、そう思ったのだった。



「あ、なちくん、雄飛生徒会長で決まりだから。」

「ひょえぇ!??」


その後、矢田さんの報告にまったく想定していなかったのか、驚きの声を上げた宇野先輩の恋人。この人は、ぜんぜん、少しも、宇野先輩が生徒会長になるとは思わなかったのだろうか?

…僕なら、ちゃんと、宇野先輩が生徒会長に相応しい人物ってわかってるのに…。


ああ、嫉妬だ。

なんか…嫌だなぁ…こんな気持ちを抱くのは。


27. 後輩の、複雑な気持ち おわり


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