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出会った時の先輩の髪色は、今よりももっと明るかった。
耳にはキラリと光るピアスがついていて、近寄りがたい雰囲気で。そんな先輩を見て、同級生が『あの先輩怖い』と言っていたこともあったっけ。僕が高校に入学したての頃の話だ。
でも僕は、そんな周囲から恐れられている先輩に、助けられたことがある。些細なことで言いがかりをつけられ、上級生と揉めてしまったことがあった。
『そんなところに突っ立ってんな!邪魔なんだよ!どうしてくれんだよ、制服汚れちまったじゃねえか!』
『す、すみません…』
上級生が怖くてとりあえず謝るが、ぶつかってきたのはそっちからだ。ペットボトルに入ったジュースを飲みながら歩いてきたのは自分からだと言うのに、上級生が僕を責める。
『クリーニング代くらい出せやこら』
そう言いながら僕はガシッと髪の毛を掴まれた。すごく怖かった。怖くて何も言えずにいた。
そうしている時、僕と上級生との間に一人の生徒が割って入ってきたのだ。
『お前なにやってんだ?やめとけって。』
『ゲッ、…宇野。』
『カツアゲか?』
『ちげーよ、こいつがぶつかってきて制服汚れたんだっつの。』
『あーそりゃどんまいだな、早く乾かしてくれば?休み時間終わるぞ。』
『チッ、めんどくせーな。』
トン、と上級生の肩を押して、先を行くよう促す“うの”と呼ばれた人は、上級生が立ち去ったあと僕を見下ろし、先程上級生に掴まれた僕の髪を労わってくれるかのようにクシャッと撫でてきた。
『気を付けろよ、ああいうのはめんどくせーから。』
そう言ってふっと軽く笑い、立ち去るその人。太陽の光がその人の髪を照らし、やけに明るい髪色に見えたのが印象的だった。
うの、先輩。…か。かっこいいな……。
その日から宇野先輩は、僕の憧れの人だ。
それからは毎日、宇野先輩の姿を探す学校生活。
直接の関わりは持てないけど、噂とか友達から聞いた話とかで先輩のことはいくつか知る事ができた。
どうやら宇野先輩は、学園内でそこそこ有名人らしい。
生徒会役員をやっていて、かつてこの学校で有名だった生徒会長と仲が良かったためか周囲から一目置かれている存在だとか。
元はEクラスで、二年で成績を上げてCクラスになったとか、Sクラスでかっこいいと評判の春川先輩とは幼馴染みで仲良しだとか。この学校で宇野先輩の存在は結構大きく、わりとたくさん噂話が転がっていた。
「あ、宇野先輩だ…。やっぱめっちゃヤンキーっぽいよね、あの人…生徒会役員とか絶対嘘でしょ。」
移動教室のためクラスメイトと廊下を歩いていた時、体操服姿の宇野先輩とすれ違った。
くわっと眠そうに欠伸をしながら、ガシガシと髪を掻いている。ハーフパンツが少しだけ腰パンされていて、パンツの柄がちょっぴり見えていた。
コソッと聞こえないように僕に話しかけてくるクラスメイトに、僕は愛想笑いをする。
確かにヤンキーっぽいかもしれないけれど、髪色のせいか僕が初めて先輩を見た頃よりは随分落ち着いた雰囲気になったように思えた。先輩は、コロコロと髪色がよく変わるのだ。
僕はせっかくすれ違えたのだからと、振り向いて数秒間、ここぞとばかりに先輩の姿を目に焼き付ける。
パンツ見えてる…可愛い。
がっしりした背中がかっこいいな…
その身体に抱きつきたいな…なんて。
見ているだけで幸せだったけど、見ていたらどんどん欲が出てきちゃうな。どうしたら先輩に、近づけるだろう。
*
「…生徒会役員募集…?」
高校に入学して、部活動に入る生徒が多数いる中、僕はこれといって入りたい部活も無く、帰宅部だった。
ある日僕は、この学園の生徒会長、三年の古澤先輩がそんな貼り紙を校舎に貼っている姿を見つけた。
「…条件とかってあるんですか?」
僕は勇気を出して、古澤会長に声をかけてみる。もし僕が生徒会役員になれたら、宇野先輩に近付ける。そんな下心を抱きながら。
「あ、生徒会役員興味ある?去年までは会長と副会長が人気な人だったから入りたがる人多かったけどなんか最近は敬遠されがちなんだよなー。真面目にやってくれる人がいたら大歓迎なんだけど。」
古澤会長はぼやくようにだが、僕にそう話してくれた。古澤会長もいろんな人に慕われていて、十分人気ある人なのに、ちょっと自分に自信なさげな人だ。
「僕、部活もやってないし、興味、あります…。」
「おお!!ほんと!?一年生かな?」
「はい、一年Aクラス、三木(みき)と言います。」
「三木くんね!じゃあさっそく今からでも生徒会室来れる?」
「はい!」
トントンと進んだ話に、僕は嬉々としながら古澤会長の後を歩く。
「ちょっとねー、二年の生徒会役員が曲者揃いでさぁ。三木が役員真面目にやってくれるとすごい助かる。」
「そう、なんですね…。」
宇野先輩と春川先輩のこと、かな?
「あ、生徒から怖がられてたりする奴らだけど全然怖くないから安心して。」
「あ…はい。大丈夫です。」
古澤会長、知ってます。
宇野先輩は、全然怖くない人です。
その後、人気の無い廊下を進み、今まで立ち寄ったことなど無かった一つの部屋の前に到着した。
ここが、生徒会室か…
『あッ!あぁん!!やだ、だめ!!!イキそぉッ…!』
………え?
僕は耳を疑った。なんだ、今の声……
部屋の中から聞こえてくる声にギョッとしていると、僕の前に立つ古澤会長が「あいつらッ!」と険しい顔をして扉を開けた。
「あっおい絢斗止めろ、会長帰ってきたぞ!」
「いい加減にしろよお前ら!俺が居ない隙狙ってAV鑑賞すんなバカ!!」
「チッ、今からが良いとこだったのに。」
「会長、いつも言ってますけどお前“ら”ってこいつとまとめるのやめてくださいよ。俺は見てませんよ。」
「見てないなら止めろよ!止めれないなら同罪!ったく、せっかく生徒会に興味ある後輩見つけたのに恥ずかしい!」
「おっ?後輩?まじすか?」
生徒会室の中から聞こえる声。
古澤会長と会話するのは、宇野先輩だ。
僕は古澤会長の後ろからチラリと生徒会室の中を覗き込むと、ソファーの上で胡座をかいで座っている宇野先輩の姿を見つけた。
…やばい、いる。宇野先輩が、いる…。
僕の心臓が、ドクドク音を立て始めた。
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