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「やっぱ学校別々なのって困るなぁ…。航モテるから野放しにしときたくねえわ。」
え、こいつなに言ってんだ?という冷めた目で、キャベツにひき肉を乗せ、それを巻いて俵型に整えているるいに視線を向けた。
るいは呟くようにそんなことを言いながらも、手元にあるキャベツの塊に夢中で俺の方を見やしない。
「それこっちのセリフなんですけど?…ってお前それロールキャベツ作ってんの?」
「うん、スーパーで売ってるの見つけて食べたくなっちゃって。」
「それで完成形は買わずに材料買って手作りするあたり、お前やっぱすげえな…。」
「いやいや、簡単そうだったし。」
「そうか?…まあいいや。一生俺のために美味しい手料理作りなされ。」
そう言いながら俺はるいから視線を逸らし、側に置いていたスマホを手に取る。
「言われなくてもそのつもり。」というるいからの返事にクスッと笑いながら、未読だったラインメッセージが何件か来ていることに気付き、ラインを開ける。
お?珍しい人物からラインが来ている。
どうせクソカベとモリゾーのくだらないやり取りだろうと放置しているメッセージの中に一通紛れて届いていたようだ。
【 矢田 りと 】
相変わらずの1円玉タワーのアイコンの隣に、【 航の暇な日教えて 】というメッセージ。
…え、暇な日?教えてどうすんだ。
俺は、チラリと一度るいに目を向けてから、まだるいがキャベツに夢中になっていることを確認し、ポチポチとりとくんへの返信メッセージの文字を打った。
【 なんで? 】
いつもは鬼早い返信速度のりとくんだが、珍しくその後暫くりとくんから返信メッセージは来なかった。
そしてりとくんからの返信がこないまま、俺の目の前にはホクホクと湯気が出ている美味しそうなロールキャベツが。
さすが、るいが夢中になって作っていただけあって見た目も味も最高のロールキャベツだ。
「おお、すっげーうまい。」
「まじ?よかったぁ。」
ロールキャベツを褒めてやると、ホッとしたように嬉しそうに笑うるい。
美味しい夕ご飯の時間なのに、りとくんからの返信が来ないままでちょっと気になってしまい、チラリと横目でスマホを見てしまう。
「ん?航どうした?」
「…や、なんでもない。クソカベとモリゾーラインばっかしてきてうぜえなと思って。」
…っていうのは嘘で、りとくんからのラインが気になってるとは言えない。
俺の返信メッセージに、既読がすぐについたことは知っているのだ。さてはお前、俺への返信内容に悩んでいるな?
「あー、あいつらな。でもそのおかげで俺は航のこと聞けてわりと助かってたりする。」
「まじ筒抜けすぎだろ。まあ別にいいけどさぁ。俺やましい事してねえし。」
先日、彩花ちゃんと会ってたのがなっちくんからクソカベとモリゾーに漏れて、モリゾーからるいに漏れていたようだ。
翌日なっちくんは土下座する勢いで俺に謝ってきたから、そんなに謝るならあいつらにベラベラ喋んなよって言っておいたけど、なっちくんはまさかモリゾーがるいに話すとは思わなかったそうだ。
おいおい、なっちくん知らねえのかよ。こいつらは結構俺の知らないところで二人でやり取りしているぞ。なんの話してるのかは聞きたくもない。どうせろくなことない話に決まっている。
俺としては、るいがモリゾーに変なエロ話吹き込まれないかが心配だ。
…と、白ご飯とロールキャベツを交互に味わいながらそんなことを考えている時だった。
テーブルに置いていたスマホがブブッと震え、ロック画面に1件メッセージが表示されている。
【 矢田 りと 】
やばい、るいに見られると多分やばい。
は?
りとからメール?
あいつが航に何の用?
俺には全然メールとか無いのに。
なんで?…とか。
るいの反応が想像できる。
質問責めに合いそうだ。
りとくんとのやり取りをるいに隠したいわけではないけど、画面を見られまいとするように、サッとスマホを手に取った。
【 この前ご飯奢ってもらったから 】
ん?ご飯?…ああ、学食の飯のこと?
そういや奢ってやったけど、だからなんなんだろう。と反応に困っているところに、もう一通追加で送られてきた。
【 今度は俺が奢る 】
………お、おう、まじで?
あまりにらしくないことを言っているりとくんに、俺は無意識に口角が上がってしまった。
可愛いやつめ。
恐らくこのメッセージを、りとくんなりに結構悩んで送ってくれた気がする。
だからこそ俺は、多分この誘いを断れない。
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