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身体と頭を洗ってから、湯船に浸かってホッと一息つく。
先程のるいとのやり取りを思い返したら、るいと顔を合わせたくなくて、風呂から出るのがだんだん嫌になってきた。
目に少しかかった前髪を摘んで見上げると、視界に入るのは真っ黒な俺の髪。自分の髪を見れば見るほど、染めたくなってきてしまった。
だって俺だけ真っ黒じゃん。
あかりも沙希も由香も茶色に染めてる。
ていうか大学には染めてる人がほとんどだ。
るいは染めてなくても地毛が綺麗な色してるからズルい。
ブクブクブクブクと口をお湯に浸けて息を吐き出しながら不貞腐れる。
「るいのバカァァァア!!!」
そして、浴室で叫んだ俺の声が室内に響いた瞬間、ガチャ、と浴室のドアが開いて、全裸のるいが入ってきた。
「誰がバカだって?」
「……おまえ。」
つーか入ってくんな。俺は怒っているんだぞ。
ツン、と俺はるいからそっぽ向いた。
風呂場の椅子に座ったるいが、シャワーのお湯を出して身体を洗い始める。
「黒いの嫌なの?」
るいからそっぽ向く俺にるいはそう話しかけてきたから、無視してやった。だって俺もさっき無視されたから。
「俺は好き。」
でもるいは、俺の返事を待つ事もなく、続けてそう口にする。
「わがまま言ってごめんな。」
さらには謝罪の言葉まで。
そこで俺は、渋々るいに視線を向けると、るいは身体を洗いながらジッと俺を見ていたようで、目が合ってしまった。
「航怒ってんの?」
「うん怒ってる。」
見ればわかるだろ、聞くな。
また俺はそう答えて、ツン、とそっぽ向いた。
身体を洗い終わって、頭を洗い始めたるいが、無言になる。
ワシャワシャとシャンプーの泡を立てて髪を洗っているるいの頭に向かって、バシャッと浴槽のお湯をぶっかけてやった。
「こらこらー。」
「明日美容院行ってくるから。」
「えー。ダメ。」
「るいが貰った割引券頂戴。」
「ダメダメ。」
やっぱり却下ばかりするるいに、俺はまたむっすり不機嫌になって黙り込んだ。
数分後、泡を洗い流して髪の毛を洗い終えたるいが、俺が浸かっている浴槽に入ってこようとするから、俺は入れ違いに浴槽から出ようとすると、るいの腕に捕まってしまい出られなかった。
るいの腕にガッチリと身体をホールドされてしまい、再び俺の身体は湯船の中へ。
俺の頭に頬を乗せたるいが、「航はきっと茶色でも似合うんだろうけど、俺まじ好きなんだよ。」と話し始めた。
「このままの航が好きすぎて染めてほしくない。」
そう言ってるいは、俺の髪に頬ずりしている。
どんだけ俺の髪好きなんだよ。
愛情表現しすぎでちょっと引いた。
……ってのは嘘で、普通に嬉しい。
俺はチラリとるいの方へ振り返った。
振り返ってるいを見ていると、俺の視線に気付いたるいが目を合わせてくる。
横から唇を狙われ、サッと避けると、るいは俺の耳下あたりにチュッと吸いついた。それから俺の肩に頭を置いて、首や顔に唇を寄せてくる。
あ、これ完全にエロモード入りやがったな。って思いながら、るいの頭をペシンと叩いた。
「乳首クリクリするのやめてもらっていいすか。」
黙っていたけど、親指の腹で乳首をグリグリといじられ始めていたのである。隙あらば誘い始める性格やめてもらっていいすかね。
俺はさっきまでるいに怒っていたはずなのに、なんかいつのまにか髪色問題をはぐらかされた気がする。
「おい!揉むな!」
乳首から手が離れたかと思えば、スッとるいの手が俺の腹に滑り落ち、そのまま下半身までいって股間を触られた。
掴んで揉まれて、完全に誘われている。
そして俺の尻にくっついてるから。
ナニって、それは言わずもがな。
「いつのまにかるいのペースなのすげえムカつくんだけど。」
「航くん勃ってきたんじゃない?」
「うるせえ黙れ。」
俺は、俺の股間を触るるいの手をギュッと強く抓った。
「イテテテテテ。」
「明日美容院行ってくるからな。」
「え、だからダメっつってんじゃん。」
なんとなく話を振り出しに戻してみると、るいは俺の身体をギュッとキツくホールドしてきた。
「痛い痛い痛いから!!!!!」
「行かないよな?」
「行く。」
「行かないよな?」
「行く。」
「行かないって言わなきゃ今夜は寝かさない。」
「ああもうわかった行かない行かない!!!」
しつこいるいを相手にするのはだんだんめんどくさくなってきた。
そもそももう美容院に行く気などなくなってきていた俺は、なんとなくるいに言ってみただけなのだ。
よっぽどこのままの髪で居て欲しいのか、俺の返事を聞いたるいが安心するようにまた俺の髪に頬ずりしてきた。
だからその愛情表現はもういいから。
「熱くなってきたからそろそろ出たいんだけど。」
そう言って立ち上がろうとすると、るいは俺の身体に腕を巻きつけたまま一緒に立ち上がった。
こいつ暑苦しいな。
「ちょっと一旦離れてもらっていいすか。暑いんで。」
「えー。」
「えーじゃねえよ。身体拭けねえだろ。」
「俺に任せて。」
「お前に任せるとこのあとのコースお決まりなんだよなぁ…。」
ため息混じりに俺はそう言うが、るいはにこにこしながら俺と自分の身体をタオルで拭き始めた。
ある程度身体を拭けたら、また俺の身体に腕を巻きつけ、グイグイと俺の身体を前に押するい。勿論このあとはこのまま寝室へ一直線だ。
「俺るいに怒ってたんだけどなぁ。」
あっという間に俺はベッドに押し倒されていて、るいを見上げながらぼやくと、るいは何も言わずにキスをしてきた。
「チュッ」と唇を離して、近距離で俺を見つめながら、るいは口を開く。
「航、俺に勝手に美容院行っちゃダメだからね。」
とここで、まさかの縛り発言。
「お前どんだけ俺に髪染めてほしくないわけ?」
「…なんでだろ、航が髪染めるのなんかすっげえヤなんだよ…。」
そう言って、俺の髪にサラリと指を通するいは、サラリサラリと髪に触れながら、またチュッとキスをしてきた。
引くくらいのるいからの愛情表現を受けながら、俺は果たして人生の中で、毛染めをする時は来るのだろうか、と思ったのだった。
17. 航とるいの毛染め問題 おわり
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