3 [ 71/172 ]

「ただいまー!」

「あ、お母さんおかえりー。」


夕方過ぎに、お母さんは家に帰ってきた。


「りなお昼何食べたのー?」

「りととお寿司行ってきた。」

「えぇ?食材いっぱい買ってあるんだからなんか作って食べなさいよ!」

「お母さん!!りなとりとが料理できると思ってんの?」

「りな?できるできないじゃないの。やるしかないのよ?」


家に帰ってきたお母さんの説教が始まってしまい、りなは耳を塞ぎたくなった。

りなだけじゃなくてりとにも言って!と思いながらリビングのソファーに視線を向けると、そこにはやっぱりゴロゴロと寝そべっているりとの姿が。


「りな、料理できないとお嫁に行けないわよ。」

「大学生になったら料理はじめる!」

「お兄ちゃんは小学生の頃から料理できてたのになぁ。女の子がそんなんでいいの?」

「お兄ちゃんと比べないで。りなはりなだよ!」

「最近は航くんも料理頑張ってるって言ってるよ?ほら見て?これ航くんが作ったカレーなんだって。」


お母さんはそう言いながら、お兄ちゃんから送られてきたメール画面を見せてきた。

ゴロゴロと大きなジャガイモが入ったカレーライスの写真と、【 航が作ってくれたカレー 】というお兄ちゃんからのメッセージ。


りなはそんな写真を見せられると、何も言い返せなくなった。

いつの間にかソファーから起き上がっていたりとが、コップにお茶を注ぎながら、お母さんが持っているスマホ画面を覗き込む。


「へえ、あいつが料理?」と言って航くんが作ったカレーに関心を見せているようだ。


「野菜もお肉も買っておいたから、せめて野菜炒めでもして食べてると思ったら、二人揃ってお寿司行ってたなんて。」

「あ、ちくわ食べた。」

「そんな報告いりません。」


今度はりとにくどくどと説教をはじめたお母さんに、りとはめんどくさそうに話を聞いている。


「あ、そうそう。りとお金持ってなかったくせにお寿司10皿以上食べててりなりとにお金貸したんだよー。」


りなは思い出したように口を挟むと、お母さんは目を細めてりなに視線を向けてきた。


「冷蔵庫に入ってる食材で何か作って食べていれば、余計なお金使わずに済んだのにねぇ?」

「ゲッ、余計なこと言っちゃったー。」


またりな相手に説教が始まりそうになって、りなはササッとお母さんの側から離れた。


「りな!待ちなさい!!」


ヒィッ!やだーお母さん怒ってるしー。


「今日は晩御飯抜きにするよ!」

「なにそれひどい!」

「りとも!晩御飯食べたかったら一回くらい自分で作ってみなさい!」

「なに作ればいいの?」

「自分で作るんだから好きなもの作ればいいのよ。」


おっ?りと料理する気になったの?

お母さんに言われて冷蔵庫の中を覗いたりとは、その後すぐに冷蔵庫の扉を閉めた。


「……はぁ。やっぱめんどくせえ…。」

「こら!そのめんどくさいことをいつもやってるのは誰だと思ってるの!」

「あーもう分かった分かった。じゃあなんか手伝うから。」


説教するお母さんを、うっとおしそうにあしらうりと。


「りなもこっちに来なさい!」とお母さんに呼ばれて、結局その日の夕飯は、りととりなでカレーライスを作らされた。


こんなことになるなら、お寿司なんか食べに行かずにおにぎりでも作って食べればよかった…と思うりなだった。


16. 矢田兄妹の呑気な休日 おわり

next→おまけ【 お兄ちゃんの呑気な休日 】


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -