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「二名様でお待ちの矢田様ー!」
「あーやっと食える。」
数分後、名前を呼ばれたりなたちは、カウンター席に案内された。
「りなテーブルが良かったなー。」
「食えればどっちでもいいだろ。」
おしぼりで手を拭いて、りとはレールの上に乗ったお寿司のお皿を眺めている。
「何食おっかなー。」
腹減った腹減ったを連発していただけあって、りとはようやく昼ごはんを食べれることに嬉しそうだ。
「りなはー、んー、エビにしよー。」
目の前にあるタッチパネルで、りなはエビを二皿注文した。
しかしムカつくクソりとは「エビ回ってきたぞ。もったいねーからこれ食えよ。」とレールの上のお皿を手に取ってりなの目の前に置いてきた。
「ちょっと!勝手に取らないでよ!」
サッと素早くレールの上にお皿を戻すと、「あー1回取ったお皿元に戻すとかサイテー。」とか言ってきやがったから、りなはムカついてりとの足をグシっと踏みつけた。
するとその直後バシン!と頭を叩かれ、むっかっつっくー!!
こんな乱暴な男にやっぱり彼女なんかできるわけがない。おっぱいもこんな男はお断りだろう。
その後、ピッピッと選択しているりとの目の前のタッチパネルの画面を見ると、サーモン、炙りサーモン、トロサーモン、と見事にサーモンばっかり選んでいたから、こいつガキか。とりなは鼻で笑った。
「うめぇ。」
一皿、一皿…りとの目の前にあるお皿には、どんどんお皿が積み重なっていく。それに比べて、りなは六皿目でお腹が膨れてきてしまった。
あったかい緑茶を入れ、ホッと一息ついているりなの隣で、どんどんお寿司を口に入れているりとのお皿は、すでに十皿を超えている。
「りとお金あんの?」
結局こいついくら持ってんだろうと疑問に思いながら問いかけると、りとはハッとしたようにポケットから財布を取り出して中身を確認した。
そして、ホッとしたように財布をポケットにしまい、りとはにっこりと笑顔を浮かべてりなに向かって口を開いた。
「りな、……200円貸して?」
「足りないんかいっ!!!」
りなは思わず、飲んでいた緑茶を吹き出しそうになった。
「2000円は入ってると思ったらまさかの1000円ちょいしか無かった。」
「……はぁ。情けな〜い。」
こんな彼氏はりななら絶対お断り。
兄だと思いたくもない。
結局お会計の場でお互いに1000円札を出す。
「りとに彼女ができてもすぐに振られるに一票。」
「振りたきゃ振ればいいに一票。」
「そもそも彼女なんか一生できないんじゃない?に一票。」
「そもそも彼女なんか要らないに一票。」
何言っても興味無さげに言い返されてつまんない。
「なんで?気になってる人とかいないの?」
「なんでお前にわざわざ言わなきゃなんねえの?」
「ちょっと聞いてみただけじゃん!」
いきなり不機嫌になり出したりとは、ムッとした顔でさっさと歩き始めてしまった。それはまるで、聞かれたくないことから話を逸らすように。
「分かった、りと気になる人いるんだ。」
彼女要らないとか言って。
正直に言えばいいのに。
一メートルほど離れたりとの背中に向かって話しかけても、りとに無視され返事は返ってこなかった。
「ふぅん、そっかそっかー。」
返事が返ってこないから、りなはりとに気になってる人がいると勝手に決めつけてにやにやしていると、不機嫌面をしたりとが振り返る。
「うるせえぞ、お前いい加減にしろよ?」
「わっ、なに本気でキレてんの。」
怖い顔をして睨み付けられたから、りなはりとに近付かないように立ち止まった。
「…別にキレてねえし。」
いやキレてるでしょ。
りなそんなに怒らすようなこと言ったっけ?
りとの様子を窺いつつ、恐る恐るりとの後ろをついて歩くと、「…お前だって航のこと気になってんじゃねえの?」と突然りなに話題を振ってきた。
なに、ほんといきなり。
「…え、うん。航くんは好きだけど。お兄ちゃんの好きな人だし…。」
「兄貴が好きだったら諦めんの?」
「諦めるもなにも航くんだってお兄ちゃんのこと好きじゃん。」
りとの問いかけにそう返した瞬間、りとは何も言わずに黙り込んだ。
「それにお兄ちゃん怒らしたら怖いし。」
「……確かに。」
りとが無反応だから、続けてりなは口を開くと、りとは小声で納得したような反応を見せていた。
結局、一体なんの話してたんだっけ?とりなは疑問に思いながら、りとと共に帰宅した。
あ、そうそう思い出した。
りとに彼女ができてもどうせすぐ振られるって話だ。
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