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「りとくん航のこと好きとかびっくりなんだけど。いつから?雄飛知ってたんだ?」

「いつからだろ。知ってたっつーか、あいつが分かりやすすぎてちょっと前に気付いた。」


学食のメニューを見に行った航とりとくんの姿を眺めながら、「ふうん。」と雄飛の言葉に頷く。雄飛りとくんと仲良いもんなー。


航の隣に並ぶりとくんは、高校時代の矢田くんと重なって見えなくもない。そりゃ兄弟だもんな。とか思っているところで、ササッと俺の側に人が近づいてくる気配がした。


「なっちくん!!!なにあのイケメン!!!」


すぐに誰かわかった。…あかりだ。

りとくんが席を立った隙を見てか、気になってしょうがない!というように興奮しながら駆け寄ってきた。

そんなあかりの後からやって来た沙希が、チラチラ雄飛に視線を向けていることに気付く。


やば、どうしよう。雄飛のことなんて言おう。って俺が内心ヒヤヒヤしてしまった時、雄飛の行動に俺は目をギョッと見開いた。


肩に腕を回され、俺の耳に口を寄せてきた雄飛に、こそっと耳元で口を開かれた。


「なち女と連んでるとかジェラシー感じるー。」

「えっ!?」


ジェラシー!?

雄飛こんなタイミングでなにを言ってくるんだ、とパッと雄飛の方へ視線を向ければ、雄飛との距離がキスしそうなくらいの近さで慌てふためく。


「あ、えっと…なっちくん、そっちの人は…?」


雄飛の醸し出すオーラに恐れてか、おずおず話しかけてきた沙希だが、雄飛は珍しく爽やかに笑って、「どうも。」と沙希とあかりに向かって会釈した。


「なちがいつもお世話んなってます。」

「…ちょっ…!雄飛!」


まずいって!俺雄飛と付き合ってること沙希たちに言ってないのに…!このやり取りはまずいだろ…!って、雄飛の口を咄嗟に手で塞いだ。


けれど、雄飛が素早く俺の手を口から引き離す。


「隠してんだ?」

「…う、うん…。」

「へー。」


…あ、ちょっと機嫌損ねた…?

ぶっきらぼうな声と共に、俺から距離を取った雄飛は、無言でスマホをいじり始めてしまった。


そんな雄飛を前に、沙希とあかりは困ったように俺と雄飛に交互に視線を彷徨わせていたところで、航とりとくんがお皿が乗ったおぼんを持って席に戻ってきたから、俺は助かったと思った。


「あっイケメン戻ってきた!」

「キャッイケメンキタッ!」

「お前らりとくんドン引いてるぞ。」


りとくんを前にしてキャッキャとはしゃぎ始めた2人に、航がそう言いながらテーブルにお盆を置き、席に腰かけた。


「航の友達は変なのしかいねーよな。」

「あ、ほらお前ら変なのって言われたぜ。」

「変じゃないです!」

「変なのはあかりだけです!」

「えっ沙希ひどい!」

「それよりりとくんって言うんですね!あたしもりとくんって呼んで良いですか!?」

「やだー。」


沙希の呼びかけに、ツンとそっぽ向いて航の隣に腰かけたりとくんは、「航ー、いただきます。」と丁寧に手を合わせてからお箸を持った。


「航に奢ってもらったー。」

「良かったな。」


嬉しそうに雄飛に話しかけるりとくんに、雄飛は軽く微笑する。

俺はそんな雄飛を見ながら、なんだか気分はモヤモヤした。

雄飛に不快な思いさせちゃったかも。

俺、ずっとこんなんじゃダメだよな…。

俺は雄飛が大好きなのに、友人に雄飛を恋人だと紹介するには、まだ少し勇気が出なかった。





「ところでお前ら、イケメンイケメンっつってりとくんのこと興味津々だけど、このイケメン様がどちらのイケメン様かわかんねえの?」

「え?どういうこと?」

「どちらのイケメン様とは?」


つまり、誰かに似てるとか思わねえの?って意味で聞いてみたが、あかりも沙希もさっぱりわからないようだった。

そこで、りとくんと顔を見合わせて、「りとくんあとでお兄ちゃんに会ってけよ。」だなんて声をかける。


「お兄ちゃん!?」


そこで、ハッと気付いたようにその言葉を声に出したあかりは、「も、もももしかして!?」って驚いたように言っててすっげー笑える。


「別にいい。」

「照れんなよ。」

「照れてねえし。」

「あ、晩飯はるいのバイト先のレストランに食べに行こう。今日るいバイトって言ってたから絶対驚く。」

「あ、それはおもしろそう。行く。」


りとくんは、俺の誘いに満面の笑みを浮かべて頷いた。ほら、りとくんはなんだかんだ言ってお兄ちゃんが大好きなのだ。


「お兄ちゃんに進路の報告もしなきゃな。」

「別にいちいち兄貴に言わねーし。あ、そうだ航、今度過去問ちょうだい?」

「そんなのお兄ちゃんから貰えよ!」


りとくんのお願いにそう返事を返せば、りとくんは「えー、航から貰いたい。」ってにこにこしながら言ってくるから、りとくんのそんな笑顔はお兄ちゃんにそっくりだ!と思ってしまった。


「航から貰ったら俺受験勉強すげえ頑張れる気がするのになー。」


………ああ!くそっ!

甘えた顔して言ってくんじゃねえよ!

頷いてしまいそうになるだろうがッ!!!


「あーわかったよもう!あげるから受験頑張れよ!」

「うん!」


俺の応援が無くたって、りとくんなら余裕な気がするけどな。なんてったってりとくんは、あのるいの弟なのだから。


18. 悩める少年りとの進路 おわり

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