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「偉そうに言える立場ではないと思うけどりとくん一個だけ言わせて?」

「ん?なに?」


にこにこと俺に笑みを向けてくるりとくんに、俺ははっきり物申した。


「そんな理由だけで進路決めんな。」


真面目な顔をして告げた俺の言葉に、りとくんはすっと笑みを無くす。


「りとくんに合った学力の大学に行けよ。」


続けて俺はそう言うと、りとくんの表情はムッと拗ねるように唇を尖らせた。

そんなりとくんが、無言で俺をジッと見つめてくる。

「返事は?」って言いたいけど、そしたらガキ扱いでもしているように思われてもっと拗ねられそう。

ほんの少し、りとくんの扱いに困り、悩んだ末なんとなくよしよし、とりとくんの頭を撫でると、りとくんはその瞬間、俺の顎を片手で掴んで、キスしようとしやがった。咄嗟に手でガードしてセーフ。


「おいっ!」


瞬時にツッコミを入れるのは雄飛で、なっちくんは「ほわっ!」と驚きながら器に残ったラーメンを啜っている。


むすっとした顔のりとくんが、拗ねたように口を開く。


「じゃあ俺が会いたいって言った時、航は俺と会ってくれんの?」


突然のりとくんからのそんな問いかけに、俺はすぐには答えられなかった。

だってそんなの、るいが嫌がるに決まってる。


答えられなくて黙り込んでいると、りとくんは俺から目を逸らし、そして、暗い表情になった。


「…できねーだろ、どうせ。」


きっとりとくんは分かっていたのだ。

こんな問いかけに、俺が頷けないことくらい。


「…俺は航に会えるだけでいいのに。」


ぼそっと告げられるりとくんの言葉に、胸が苦しくなった。

俺はいつから、りとくんにこんなに好かれていたのだろう。


初めて会った時は今よりもっと生意気そうだった。てか、年下のくせに俺のことバカにしてくる。

るいの反応見たさに俺によく絡んできた。ニヤニヤと笑う、やんちゃな笑みが印象的。

実際やんちゃな奴だけど、実はこんなりとくんにも、不器用で優しい一面もあることを知っている。

だんだんりとくんのことはいろいろとわかってきたけど、…でも、わかんねえ。


「…なんでりとくん、モテるくせに俺なんか好きになるんだよ。」


俺お前の兄ちゃんのことが大好きなの知ってるだろ。って、そんな思いで口にした言葉に、りとくんは目線を下げ、普段のりとくんとは程遠いほど大人しい態度で話してくれた。


「…兄貴は見掛けだけで人を好きになるようなタイプじゃねえから。最初は物珍しさからからかって楽しんだりしてたけど、だんだん航と一緒に居て楽しそうな兄貴見てると羨ましくなってきて、航のこと目で追ってて、俺も気付いたら好きになってた。

兄貴、すげえ見る目あるんだよ。りなも、母さんも、みんな航のこと好きだし…。俺も…。しょうがねえじゃん。」


………え、待って?なにこれ、聞いててめっちゃ恥ずかしいんだけど。

りとくんお兄ちゃんのことダダ褒めじゃね?

え、待って?ごめんるい、俺お前の弟可愛くて仕方ねえよ。そんで、頭ぐしゃぐしゃになるまで撫でてやりたい。


だってりとくん、実はお兄ちゃんのことめっちゃ好きだよな?そういや前からりとくん、るいの反応見たさに俺に絡みまくってたもんな?

いっつもりとくん、兄貴が、兄貴が、って言ってるもんな?


俺がそう感じたように、今まで大人しくりとくんの話を聞いていた雄飛が、笑いをこらえきれなかったように「ハハッ」と笑って、決定的な一言を口にした。


「このブラコンめ。」


その雄飛の一言で、りとくんの顔面が真っ赤に染まる。

その赤い顔のまま唇を噛み締めながらジロッと雄飛を睨みつけたりとくんだが、続けて雄飛はもう一言口にした。


「やっぱお前、兄貴と同じ大学受けろよ。お前なら行けるって。」


その雄飛の一言に、俺も大きく頷いて賛同した。


「うん!りとくんなら大丈夫!!!」


ポン、とりとくんの頭に手を置き、そのままぐしゃぐしゃになるまでりとくんの頭を撫でていると、その手を止めるようにりとくんが俺の手首を掴んでくる。


チラリと横目で見られ、そのままりとくんは徐に口を開く。


「じゃあ、滑り止めの大学はここの大学にする。」

「わざと滑んなよ?」


りとくんの発言に、すぐさま雄飛のツッコミが入った。


「さあ?それはわかんねえな。」


と、そう言った時のりとくんは、いつもの生意気なりとくんに戻っていた。


「飯食お、飯。航奢って。」


パッと気分を切り替えるように席から立ち上がったりとくんが、俺の手を引く。


まあ、せっかく今日はわざわざ大学まで遊びに来てくれたのだから、飯くらい奢ってやるか。と学食のオススメを勧めた。


「やったー、まじで奢ってくれんの?」

「うん。いいよ。今日はせっかく来てくれたもんな。」


そう言ってりとくんにご飯を奢ってやると、りとくんは心から喜んでくれているような、ふんわり柔らかな笑みを浮かべて、俺にお礼を言ってくれた。


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