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アルバムを見ていたらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
薄暗い部屋のなか目が覚めて横を見ると、航も眠ってしまったらしく、すやすやと寝息を立てて眠っていた。
航が起きないようにそっと起き上がって航の部屋を出ると、台所で航のお母さんが夕飯を作っているところだった。それからリビングのソファーに座ってテレビを見ているお兄さん。
「なにか手伝えることありますか?」
航のお母さんにそう声をかけながら台所へ足を踏み入れると、航のお母さんは「あ、るいきゅん起きた?座ってていいよ!」と言われたため、お言葉に甘えてテーブルの椅子に座らせてもらった。
航のお母さんが夕飯を作っている姿をぼんやり眺めていると、不意に視線を向けられハッとする。
「仲良く昼寝してたねぇ。」
航にそっくりな、ニッと笑った顔でそう言われ、俺は少し照れ臭くなる。
「…いつの間にか寝ちゃってました。」
そんな会話をしていると、テレビを見ていた航のお兄さんがこっちを向きながら口を開いた。
「おまえらよくあのままくっついて眠れんな!むさ苦しいわ!」
「こら海渡!!るいきゅんにそんな口の利き方やめなさい!」
「え〜だってむさ苦しそうだったじゃーん。」
その言い方からして、どうやら俺たちが寝ている時に部屋を覗かれたようである。なんだか気恥ずかしい気分になって苦笑していると、航が目を擦りながら現れた。
「あ、航も起きたの?」
「やっべー、寝てた。」
「もうすぐご飯できるから航もそこ座ってなさい。」
大きなあくびをしながら俺の隣に座った航は、寝惚け眼で俺に視線を向けてきた。
「るいが先に寝たんだぞ?」
「あ、そうなんだ?」
「つられて寝ちゃったじゃねえか。」
「航るいきゅんに抱きついて寝てたよ。」
「うっそ母ちゃん覗いたの!?」
「嘘嘘。覗いたけど今のはうっそ〜。」
「こらこらこらぁ!!!」
航のお母さんは楽しそうに航のことをからかっていた。そっくりだなぁ、とそんな親子のやり取りを見ては、俺は何度もそう思うのだった。
その後、テーブルの上には次々と美味しそうなおかずが並び、夕飯タイムがやって来る。
「母ちゃんすんげえ張り切ったな。」
「るいきゅんにまずいご飯を食べさせるわけにはいかんからな。」
「どれも美味しそうです。あ、お腹なっちゃいました。」
「食べて食べて!どんどん食べて!」
「いただきます。」
手を合わせて、箸を持つ。
どうやら昼間に話していた肉じゃがをほんとうに作って下さったようで、一口目に肉じゃがのじゃがいもを口に入れると、味がしみていてとても美味かった。
「んん!おいしいです!」
「わ〜!良かった〜!」
素直に口から出た言葉に、航のお母さんはとても嬉しそうに笑った。
航の家にお邪魔してからというもの、航のお母さんもお兄さんもどこか航と似ているところがあって、航がどのように育ったのかをほんの少しだけ知れたような気がする。
航のやんちゃなところはきっとお母さん譲りで、明るく元気なところもお母さん譲りで、お兄さんはちょっと独特な雰囲気を感じる時があるけど、たまに喋り口調とかが似てる時があって、ああ兄弟だな。って感じで。
そこでふと思ったのは、航のお父さんはどんな人なのだろう、ということだ。
航のお母さんは結構イメージできたけど、お父さんは全然できない。
意外と堅物そうな人だったりして?とか、それともやっぱり航に似ていてやんちゃそうな人とか?っていろいろ想像してみる。
密かにどんな人なんだろうな、と気になっていた時、玄関から『ガチャ』と鍵が開けられる音がした。
「あ、父ちゃん帰ってきた?」
航の呟きに、俺は内心ワクワクしながら、航のお父さんが現れるのを待った。
「おかえりー。」
「ゆりちゃんただいまー。」
玄関からはそんなご夫婦の声がする。
仲がとても良さそうだ。
「航は?帰ってきてる?」
「うん、今ご飯食べてる。」
会話の声が徐々にこちらに向かってきており、それはそれはもう盛大なご登場だった。
「わったるくーん久しぶりー!!!」
航のお父さんはそう言って、万歳しながら部屋へ現れたのだった。
「うわー、テンション高っ。」
「えっ!あっ!そちらの人は!?」
どうやら俺がお邪魔していることは知らなかったようで、登場の仕方が今更ながらに恥ずかしくなったのか、航のお父さんは瞬時に顔を赤くした。
「航の友達のるいきゅん。めっちゃイケメンやろ。もうな、私メロメロリンやねん。」
「こらこらぁ!イケメンならここにいるでしょーがー!おっさんだけどね。」
「…ふふ。」
あ、やべ。笑っちゃった。
「あーちょっとキミー!ピチピチなイケメンDKだからっておっさん見て今笑っただろー。」
「あ、いや、航とちょっと似てるなーと思って…。」
「え、俺あんなおっさんじゃない。」
「おいおいおっさんって言うな!まだ俺も歳より5歳くらいは若くみられるんだからな!」
「自分からおっさんって言い始めたんだろ。」
「あ、ゆりちゃんビールちょうだいねー。」
「やっぱおっさんだ。」
やばい、航のお父さんもどこか航と似ている気がする。でも、どちらかというとお兄さんの方がお父さんと似ている気がした。顔と、あとどことなく性格も。
兎にも角にも航のご両親は、とても愉快な人たちだ。
「るいきゅんビールは飲めるの?」
「こらこらこらぁ!」
「…ふふ。」
俺のことを『るいきゅん』と呼び、ビールを勧めてくる航のお父さんに、航が真剣に注意をしていた時が最高に笑いそうになった、とても楽しい夕飯タイムだった。
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