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夕飯後に風呂に入らせてもらい、その後は航の部屋に布団を敷いてもらって、まったり過ごす。


「航のお父さん若そうだな。いくつ?」

「40超えたとこかな。父ちゃんが母ちゃんに一目惚れしたらしい。」

「へー、航のお母さん可愛らしいもんな。」

「父ちゃん曰く昔はヤンキーだったらしいけどな。母ちゃんは否定してるけど。」

「航も昔は問題児だったけどな。」

「は?問題児じゃねえよ。」

「一緒だろうな、航のお母さんも。」


今の航のように、きっと航のお父さんにはヤンキーだったことを否定するのだろう。似てるなぁ、航と航のお母さん。


「俺航のお母さんに惚れそうだな。」

「はあっ!?」


さらりと吐いた言葉に、航が大きな声を出した。いや、そうは言ったけどそんなに深い意味はない。


「るいひょっとして女はおばさん趣味!?えってか俺のこと好きなんだろ!?」


航は焦ったようにそう言ってくる。
もちろん俺は航のことが大好きだ。でも航と似ている航のお母さんにも、魅力を感じるというだけで、決しておばさん趣味ではない。いや、そもそも航のお母さんをおばさんと呼ぶのは少し違和感がある。


「航のことを第一に好きだから、きっと航に似てるお母さんにも惹かれるんじゃねえかなー。」

「…お願いだから母ちゃんに惚れそうとか言わないで…。いろんな意味で。」

「そんなに深い意味はねーよ。」

「るいが言うと意味深に感じる…。」


航はいつにも増して焦った表情を浮かべていた。そんなに焦らすこと言ったかな。まじで深い意味はないんだけど。


「航のニッて笑った顔と表情がそっくりだったんだよなー。」


俺はそう言って、ベッドの上で胡座をかいて座る航に手を伸ばす。

航の手を取ろうとしたとき、部屋の扉がいきなり開いて、俺は素早く手を引いた。


「航〜なにやってんの〜?」


扉から顔を覗かせたのは航のお兄さんで、航はすぐに不機嫌面になった。


「なんもやってねえけど。」

「久しぶりに帰ってきといて兄ちゃんに悩み相談とかねえの〜?」


航のお兄さんはそう言って、航の部屋へ入ってきた。

「入ってくんな!」と怒っている航だが、お兄さんはそんな航に構わず俺の隣に腰を下ろした。


「なあなあ、ちょっと相談なんだけどな?」


そして俺にそう話しかけてきたお兄さんは、携帯画面を見せてきた。


「こっちの子かぁ〜、こっちの子、どっちが可愛いと思う?」


そう言って、お兄さんは女の子の写真を見せてくる。


「悩み相談ねえのとか言って、なに自分がるいに相談してんだよ。」

「うるせえなぁ、別にいいだろ〜?」

「こっちすかね。」

「え、どっちどっち!?」


お兄さんの問いかけに答えると、先に興味を示したのは航の方だった。お兄さんが持つ携帯を強引に覗き込む航は、「へー!これがるいのタイプ!?」と俺を見る。


「タイプというか2択だからどっちかと言うとで答えただけ。」

「ふむふむ。決め手は?」

「露出度高い女は嫌っす。」

「あー、なるほど?」

「兄ちゃんそんなことるいに聞いてどうすんの?」

「俺に気がある子とちょっと仲良くしてみようと思って。」

「…うわー…彼女と別れた瞬間これかよ。」

「こっちの子はさっぱりした性格で、こっちの子はちょっと天然な感じ。」

「あ、天然はやめた方がいいんじゃね?兄ちゃん騙されそう。」

「別にこの二人から考える必要ないんじゃないですか?お兄さんに気がある子ではなく、お兄さんが気になった子を見つければいいと思います。お兄さんかっこいいから容姿だけで寄ってくる人多いと思いますけど、ちゃんと中身を見てくれる子がきっと居ますし、俺はちゃんと中身を見てくれる子が良いと思います。」

「…ほう。キミなかなか良いこと言うね?そうなんだよね、俺かっこいいから容姿だけで寄ってくる子多いんだよ。どうすればちゃんと中身も好きになってもらえると思う?」

「たくさん会話をして、お兄さんがまず相手のことを知ろうとすることとか、相手のことを考えてあげることですかね。俺もよくわかんねーっすけど。」

「…ふむ。なるほどね?」

「ふむふむなるほど?るいきゅんそれは体験談かな?」


頷いているお兄さんを真似するように頷いた航は、ニタリと笑って俺を見た。

するとそんな航にお兄さんが、「おやおや?そうなのかい?」と航と同じようなニタリとした表情を浮かべて俺を見る。

俺はなんだか恥ずかしくなってきて、2人から視線を逸らし、下を向く。体験談、というか、思ったことを言っただけだ。


「…俺の好きな子は、ちゃんと中身を見てくれてます。お兄さんも、もしちゃんと中身を見てくれる子が現れたら、きっと物凄くその子のことを、好きになると思います…。」

「お、るいきゅん好きな子いるんだ。るいきゅんが照れてるぞ。……え、航お前もなに赤くなってんの?」

「あっ赤くなんかなってねえ!!な、なんかこの部屋熱くなってきたわ!!お茶飲んでこよ!!」

「は?なんだあいつ。」


お兄さんはベッドから勢いよく立ち上がり、部屋を出て行った航に不思議そうに首を傾げた。

元はと言えば航が俺に体験談か?と言ってきたくせに。俺の台詞にまんまとあいつも照れやがったな?と、赤い顔をして出て行った航に、俺は少しだけ笑った。


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