6 [ 179/188 ]

「なんだよこの服の山は!兄ちゃんのだろ!?向こうの部屋持っていけ!」

「あぁ、それ航にあげようと思って。」

「要らねーよ!俺こんなの着ねーよ!」

「俺ももう着ないから。」

「着ろよ!これまだ全然着れるだろ!」


ひょいと一枚Tシャツを手に取る。まだ皺も全然無い綺麗なTシャツだ。絶対デザインに飽きただけだろ。と思った直後、兄ちゃんは言った。


「ああ、それ買ったけどなんか気に入らなくて。」

「なんで買ったんだよ!!!」


俺は呆れながら、そのTシャツを再びベッドの上に投げ置いた。


「寝巻きにしてやるわ!!」

「はあ?お前それはもったいねえよ、せっかく兄ちゃんがお前に譲ってやってんのに。」

「恩着せがましいなおい!要らねえから!全部自分の部屋持ってかえれよ!」

「えー、やだよ俺もうクローゼットに入んないもん。」


くっそ、このクソ兄貴…!じゃあこの服全部寮に持って帰れってか!?嫌に決まってんだろ!!!

俺は苛立ち混じりの地団駄を踏んで「だあああ!!!」と叫んだ。

そんな俺を側で黙って見ていたるいが、そっと服の山から一枚シャツを手に取る。


「航これ似合いそう。あとこのズボンと合わせて穿いたら落ち着いた感じで俺好きかも。」


るいはそう言いながらズボンを手に取り、俺の身体にその服を当てがった。そんなるいに、兄ちゃんは無言でその服を見つめる。


「…お、その組み合わせでは着たことねえな。」


そしてボソッと呟いた兄ちゃんは、るいの手からそのシャツとズボンを奪い取った。


「どう?」


なんなんだこいつ。兄ちゃんはその服を自分の身体に当てている。


「あ、すっごい似合います。」


るいはそんな兄ちゃんに、ぱちぱちと拍手しながらそう言った。ほんとにそれ思ってんのかよ。

しかしそのるいの言葉に気を良くしたのか、兄ちゃんは「ふふん。」と笑って、「じゃあこれは俺が着てやろう。」とその服を持って俺の部屋から出て行った。

『着てやろう』っていうか自分の服だろ。


「…なんなんだよ兄ちゃんうぜ。」


全部持って行けっつってんだろ。

俺は兄ちゃんが置いてった衣類の山を、着れそうなやつだけ抜き取って、あとはクローゼットに突っ込んだ。


「航の部屋意外と片付いてるな。」

「うん。寮入る前にめちゃくちゃ捨てたからな。」

「あ、これ中学ん時?」

「ん?ああそうそう。」


るいは部屋に飾ってある写真をまじまじと眺め始めた。恥ずかしいな。あんまり見ないでいただきたい。


「やんちゃそうだな。悪さばっかりしてたんじゃねえの?」

「いやいや。真面目な中学生だったとも。」

「うそくせえ。」


るいは笑い混じりにそう言いながら、ずっと部屋の写真を眺めている。俺もるいの隣に並び、るいの視線の先を追うと、るいは一点を見つめて黙り込んだ。


「ん?どれ見てんの?」

「…仲良さそうだな。」

「あ、この子?小学生の時から仲良い子。」


るいが見ていたのは、俺と彩花ちゃんという小学校から中学までずっと仲良しだった女の子と、中学の卒業式の時に2人で撮った写真だった。

俺が彩花ちゃんの肩に腕回してピースしてくっついてるから、仲良さ気に見えるのだろうが、実際仲が良かったのはほんとうである。


「後ろに写ってる男航のこと睨んでね?」

「ん?…ああ、こいつな。こいつ彩花ちゃんのファンで、俺と彩花ちゃん仲良いから嫉妬してんの。」

「……ふうん。」


まあここに約1名、写真の中の俺と仲良さ気に写っている彩花ちゃんに嫉妬している者も居るがな。知らぬふりをしてやろう。

だってどう考えてもこの写真を見てからというもの、るいは唇を尖らせてちょっと不機嫌そうにしてるから。分かりやすいやつである。


「なあ、航のちっちゃい頃の写真見たい。」


しかしパッと切り替えるように突然笑みを浮かべたるいが、そう言いながら俺へと視線を向けてきた。


「えー。じゃあ閲覧料1000円。」

「チュッ。」

「……おや?」

「これでいい?」


……なるほど。るいのキスは1000円の価値があるらしい。俺の唇に突然キスをしてきたるいは、にっこりと笑って近距離で俺の顔を覗き込んできた。


「んー、どうしよっかなー。」

「え、なにもう一回してほしいって?」

「言ってない言ってない。」

「しょうがないなー、チュッ。」

「おまえ自分がキスしたいだけだろ!」


俺の返事に反して、再び俺の唇に口付けてきたるいに言い返すと、るいは表情を緩めて「ふふ。」と笑った。図星だな。


まあいいか、俺の究極可愛い幼き頃を見せてやろう。と、引き出しの中を漁ってアルバムを探す。


アルバムを探している俺の首に後ろから腕を回し、引き出しの中を覗き込んでくるるいは、ちょっと俺にくっつきすぎである。


母ちゃんか兄ちゃんが突然部屋に来たらどうするんだよ!と思い、俺の首に回っているるいの腕を抓って手を離してもらい、るいには暫しベッドに腰掛けて大人しくしてもらった。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -