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「いやー最高やな。るいきゅんよう言ってくれた!!」


兄ちゃんの彼女が出て行ったあと、母ちゃんはとてもご機嫌だった。

しっかし先程のるいの言動はるいの性格の悪さが滲み出ていたな。だってにっこり笑いながらも確実にるいは彼女のことを責めていたから。まじで質の悪い男だ。


「るいがにっこり笑ってる時は大抵裏があるんだよな。」

「大変そうに食器洗われてますけどとか言ったけど、俺がカレー食った皿だからな。なんかすみません。」


るいはそう言って母ちゃんに謝罪したが、母ちゃんからしたらるいはきっと母ちゃんの言いたいことを代弁してくれたのだろう。だって、あれだけ苛立った様子を見せていた母ちゃんが、るいの発言で一気に晴れやかな表情に変わったのだから。

母ちゃんは謝るるいをしつこく褒めまくっていた。


「で、兄ちゃん別れんの?」

「…あーうん。多分。」


兄ちゃんはあれからすっかり気を落としてしまっているようだ。ソファーに寝っ転がってぐったりしている。

そりゃあ兄ちゃんが変な女と付き合ったのが原因だもんな。次は変なのに引っかかるなよ。と言ってやりたい。兄ちゃん落ち込んでるから言わねーけど。


「母ちゃん、兄ちゃんが凹んでる。」

「暫く凹ませといたらええよ。海渡!次は常識ある子を紹介してや!」

「…最初はあの子も良い子だったんだよー…?でもなんかだんだん本性出しちゃってさー…。」

「兄ちゃんイケメンだからきっと付き合う前は必死で良い子ちゃんアピールしてたんじゃねえの。」


凹んでるから、兄ちゃんのことをちょっとばかり持ち上げてやる。しかし兄ちゃんはソファーでぐったりしたまま「まあそうだろうなと思ってたけど。」と口にしたからやっぱり言わなきゃよかった。


「お兄さんかっこいいからきっとすぐに素敵な人が見つかりますよ。」

「うわ、すげえむかつく。なんかすげえむかつくんだけど。ちょっとキミは俺に話しかけないで。むかつくから。」


にこりと笑ったるいが兄ちゃんにそう言うと、兄ちゃんはジトリとした目をるいに向けるのだった。


「兄ちゃんは自分よりイケメンな奴が嫌いだからるい下手に慰めなくていいよ。あと自分よりイケメンな人にかっこいいとか言われんのも嫌みたいだからもうブサイクって罵ってやればいいと思うよ。」

「えー、俺航のお兄さんに嫌われちゃってんの?どうしたらいい?」

「顔を変えるしかないね。あいつよりブサイクになるしか。」

「俺ブサイクだよ。」

「…うーんちょっと無理があるかな。」


兄ちゃんに好かれたいがために自分がブサイクだと言い張るるい。この謙虚なところを兄ちゃんには見習ってほしいね。


そんな俺とるいの会話をお菓子を作りながら楽しそうに聞いている母ちゃん。


「ところで母ちゃんなに作ってんの?」

「マドレーヌ。実はもう下準備はしてある。」

「マヨネーズ?」

「マドレーヌや。クソくだらんダジャレを言うな。るいきゅん航学校でアホなことばっか言ってない?大丈夫?」

「かなり言ってますね。でもみんなそれ聞いて呆れながらも楽しそうにしてるんで大丈夫ですよ。」


母ちゃんるいにアレコレ聞くのはやめてくれ。正直者なるいから俺の話が出ると、こらこら!って思うのと照れ臭くなるのがあるからたまらんのだ。


「るいきゅんが側に居たら安心やな。るいきゅんいろいろと航の話聞かせてね?あっ!良かったらメールアドレス聞いてもいい!?」

「こらこらこらぁ!母ちゃんやめなさい!主婦がイケメン男子高校生のメアド聞くなんてふしだらでしょ!」

「全然いいっすよ。」

「こらこらこらぁ!!!」


るいはあっさりとした様子で、母ちゃんにメアドを教えてしまった。


「るいきゅんありがと、じゃあ今度航に内緒でメールするね!えへ!」

「こらこらこらぁ!!!」


母ちゃんはわざとらしく舌を出し、ウインクしながらそう言ったから、あんたいくつだ!とツッコミを入れたくなったが、それよりも「はい、いつでもどうぞ。」と返事をしているるいに俺はまた、「こらこらこらぁ!!!」と瞬時にツッコミを入れたのだった。


不満そうにする俺に、「だって航が全然連絡寄越さないから。」と母ちゃんに言われたから、俺はもう何も文句は言えなかった。


ふと、大人しくソファーでだれている兄ちゃんを見ると、いつのまにかグースカ眠っていた。通りで静かだと思った。

しかし母ちゃんがお菓子作りを終えて兄ちゃんを呼ぶと、兄ちゃんは瞬時に目覚め、美味しそうに母ちゃんの作ったマドレーヌを食べていた。


久しぶりに母ちゃんとたっぷり話をして、マドレーヌを食べたあと、ここではじめて俺はるいを、自分の自室へ案内した。


さてさて、久しぶりの俺の部屋だ。寮に入る前に思いっきり片付けたから、きっと綺麗なはずの俺の部屋。

しかし扉を開けてまず目に入ったのが、ベッドの上に山盛りに置いてある衣類だった。


「これは俺の服じゃねえぞ!!おい兄ちゃんちょっと来い!!」


兄ちゃんは「ん?」と何食わぬ顔で顔を出した。


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