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母ちゃんに話したかった進路の話も終えて、カレーもたっぷり食ってふぅと腹を叩いていると、兄ちゃんが再び顔を出した。
そして、すげえ嫌そうな顔をして口を開く。
「…今から彼女来るだって。」
「はあ?突然すぎやろ。」
「弟帰ってきてるって話メールでしたら見たいって言い出して。」
「んなもん断らんかい!!」
「断ったけどしつこいから。」
「はぁー?なんやそいつはよ別れろや。」
母ちゃんは兄ちゃんに向かって不機嫌そうにそう言い放った。さすがの空気にるいは若干顔を引きつらせている。
「兄ちゃん彼女いんの?」
「くっそ非常識な彼女がな!!」
母ちゃんは先程とは打って変わった怖い顔をして俺にそう返した。そんな母ちゃんに、兄ちゃんは拗ねたように口を尖らせている。
「挨拶せんわ夜中まで家入り浸るわ香水臭いわで勘弁してほしいわ!!」
「へー。」
わりとどうでもいいため適当に返事をする。こんな母ちゃんの様子を見ている限り、相当酷い彼女なのだろう。
怒りを露わにしている母ちゃんに、兄ちゃんはぼそりと口を開いた。
「…俺も別れようとは思ってるけどなかなか言いづらくて。」
「別れよ思てるんやったらはよ別れろ!家に連れてくんな!!」
「母ちゃんこわー。」
ほらな、嫁いびり絶対しそうだ。俺はそんなことを思いながらるいと俺のカレーのお皿を重ねて、流しにつけてから、冷蔵庫の中を漁る。
「あ、母ちゃんプリン食っていー?」
「あーええよ食べ食べー。」
母ちゃんは俺に普通のトーンで返事をしたあと、またキッとキツイ視線で兄ちゃんを見た。
「まあこの後のあいつの態度が見ものやな。」
母ちゃんは兄ちゃんにそれだけ言って、食器を洗い始めた。あいつだって。母ちゃんこわー。
兄ちゃんはその後大人しくソファーに座ってテレビを見ていた。
それから数十分後、部屋にインターホンの音が鳴り響く。
「あ、噂の彼女来たんじゃね?」
俺はどんな彼女なのか少しウキウキしながら兄ちゃんに視線を向けると、兄ちゃんは「はぁ…。」とため息を吐きながら立ち上がった。
そんなに憂鬱そうにするなら別れりゃいいのにな?兄ちゃんバカすぎて笑える。
玄関に向かった兄ちゃんに知らんぷりの母ちゃんだが、その後玄関から甲高い女の声が聞こえた瞬間、母ちゃんはチッと舌打ちしていた。
「あーつかれたー!喉渇いちゃった!海渡お茶ちょーだーい!」
噂の彼女は兄ちゃんにそう言いながら、部屋の中に入ってきた。そして瞬時にその目が俺たちの方へ向く。
「えっどっちどっちどっち!?弟どっち!?」
「…こっち。」
「わー!弟かっこいいじゃーん!つーかそっちの人は?え、待って、まじイケメンなんだけど、誰!?」
「…弟の友達。」
「えー!やばいやばいやばい!」
なんと噂の彼女は、るいの姿を見た瞬間大はしゃぎし始めた。母ちゃんはずっと無言で食器を洗っている。
確かにくっそ非常識だな?可愛いっちゃ可愛いけど化粧濃いし俺は好きなタイプじゃねえけど絶対兄ちゃん容姿だけで付き合い始めただろ。
「え、歳いくつ!?」
「…17です。」
るいにグイグイ話しかけていく噂の彼女に、るいは表情を引きつらせながら答えた。そんなるいは、チラチラと母ちゃんの様子を窺っている。きっと母ちゃんが今にも怒り出さないかとでも思っているのではないだろうか。
それほど兄ちゃんの彼女は非常識な人だった。
「わー!歳下もありだなー!なーんて!」
うわ、この人よく兄ちゃんと付き合ってるクセにそんなこと言えるな。と思いながら様子を窺い続けていると、るいの引きつっていた表情は凄まじく不愉快そうな表情に変わっていた。
「…あの、」
そんなるいは、そこで口を開いた。
「俺今日はじめて友人の家に上がらせてもらって、俺もお邪魔している身なんで、俺に構わずまずは海渡さんのお母さまにご挨拶された方が良いのでは?」
「えっ…。」
るいの発言に噂の彼女は固まった。
固まって何も言わないから、続けてるいは口を開く。
「話は伺ってたんですけど、海渡さんの彼女さんですよね?今お母さま大変そうに食器洗われてますけど。手伝われてはいかがですか?きっとお母さま喜ばれますよ。」
るいはそう言ってにっこりと笑った。
そんなるいの笑顔を見てか、はたまた自分の態度に羞恥心を感じたからか、噂の彼女の顔面が真っ赤に染まった。
「るいきゅ〜ん。」
それからるいの話を無言で聞いていた母ちゃんが、にっこり笑顔でるいを呼ぶ。
「今からお菓子作ろうと思ってるんだけど、るいきゅん何か好きなのあるー?」
うわ、母ちゃんの機嫌なおってるぞ。
「なんでも好きです。」
にっこり答えるるいに、母ちゃんは「るいきゅんはほんとにいい子ねぇ。」と言いながら、濡れた手を拭いて棚からお菓子作りの材料を取り出したのだった。
兄ちゃんの彼女は無言で家を出て行った。
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