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「母ちゃん話したいことって進路のことなんだけどさあ。」


俺はそう言って、進路調査票とほぼ同じ内容が書かれている紙を母ちゃんに差し出した。


「大学進学?」

「うん。」

「え、これ大学名間違えてるやろ。」

「合ってる合ってる。」


そういう反応されると思った。でも俺が肯定すると、母ちゃんはポカンと口を開けて俺を見た。


「言っとくけどいい加減な気持ちで書いたわけじゃねえからな?まあ母ちゃん絶対びっくりするだろうなーとは思ったけど。」

「これはちょっとびっくりするわ。」

「やっぱだめ?母ちゃん怒る…?」


親子喧嘩になるかな、とは思ったけどやっぱり母ちゃんと喧嘩するのは嫌で恐る恐る母ちゃんに問いかけると、母ちゃんは「ふっ。」と軽く笑った。

そして、俺の隣に座って大人しくカレーを食べていたるいに視線を向ける。


「あ、分かった。航るいきゅんと同じ大学行きたいんやろ。」

「……。」


母ちゃんに言い当てられて俺は黙り込んだ。そんな俺に母ちゃんはまた「ふっ。」と笑う。


「まあええよ、航が真剣に決めたことやったらお父さんも怒らんやろうし。でも母ちゃんからひとつ条件がある!」

「え、……条件?なに?」

「第二希望までの大学なら学費払ってあげる!でももし滑って第三希望の大学に進学した場合の学費は自分でなんとかしてもらう。それくらいの覚悟がないと受けささん。」

「…ほう。分かったそうする。」


俺は覚悟を決めて母ちゃんにこの話をしたのだから、母ちゃんから出された条件なんて余裕を持って頷ける。しかしそんな俺に母ちゃんは、目をぱちぱちと開けて驚いたように俺を見た。


「…まじで言うてる?」

「うん。まじまじ。」

「航っ…あんた…っどうしたんや!」


母ちゃんは涙混じりで声を上げた。そんな母ちゃんを見て相変わらず大人しくカレーを食べていたるいが、ひっそりと笑い始めた。


「正直母ちゃんは航が自ら進路の話するとは思ってなかったんや…!それやのに…っこんな真剣に母ちゃんに話してくるとは…っびっくりやっ!」

「いや実は俺も全然考えてなかったんだけどな?るいが進路の話してきてそれで考えるようになった。」

「るいきゅんっ!!航と仲良くしてくれてありがとう!!こんなに航が真面目になったのはるいきゅんのおかげや…!」


母ちゃんはそう言いながら机に置いてあったゆでたまごを剥き始め、るいのカレーを食っている皿にゆでたまごを放り込んだ。


「あ、…ありがとうございます…。」


るいは笑い混じりに母ちゃんにお礼を言っている。俺ん家に来てからというもの、こいつ笑いすぎだ。


「でもるいきゅんと同じ大学行きたいからってそんな無謀なこと……あんたよっぽどるいきゅんのこと好きやな!!」

「ブフォ!!!!!」


母ちゃんはそれはもう突然そんなことを口にしたから、俺はカレーを食べようとスプーンを口に入れた瞬間むせ返った。


「大丈夫かよ。」


やはり笑いながらだが俺の背をさすってくれるるいに、母ちゃんは「はー、もうるいきゅんたまらんわ。」と呟いている。

ゴホゴホ、と噎せたあとお茶を飲んでホッと一息つき、俺は母ちゃんにジトリとした目を向けた。そんで、盛大に口を開く。


「よっぽど好きだよ!!なんか文句あるか!!!!!」


すると母ちゃんも、そしてるいも、まんまるく目を見開いて俺を見つめた。俺は熱くなった顔を冷ますように、またグビッとお茶を飲む。

まさかのカミングアウトに母ちゃんはさぞ驚いただろうな。でも好きなものは好きなのだ。


そして数秒間の沈黙が訪れ、若干居心地が悪く感じた時、母ちゃんは口を開いた。


「…まあるいきゅんに惚れんのも無理はないと思うけど、るいきゅんめっちゃ驚いてるやん!航るいきゅん困らせたらあかんやろ!!」


いやるいは俺がるいのこと好きって知ってるんだけど。そもそもるいはなに驚いてるわけ?

俺は目を見開いて俺を見ているるいに目を向け、問いかけた。


「なに驚いてんだ?」

「…いや、普通に嬉しかったから…。」


ああ、よっぽど好きって言ったこと?

るいは頬をほんのりと赤らめながらそう答えて、またカレーを食べ始めた。


「…あれ?」


そんなるいを見た母ちゃんは、困惑気味に首を傾げた。


「……俺も、航のことすげえ好きなんです。」


そしてボソリと母ちゃんにそう告げたるいに、母ちゃんは口をあんぐりと開けて真っ赤な顔をしていた。


何故母ちゃんが赤い顔をしている。と疑問に思ったが、その後母ちゃんは言ったのだ。


「私があと20歳若かったら………息子から奪い取ってるな。うん。」

「母ちゃんなに言ってんだ!!」

「…ま、まあびっくりはしたけどどこの馬の骨かわからん女に息子取られるよりはるいきゅんに航のことをお願いしたいのはぶっちゃけ本音やな。」

「…母ちゃん絶対嫁いびりしそうなタイプだな。」

「るいきゅんいびるわけないやろ!!」


あ、母ちゃんの中ではもうるいが嫁になってるんだな?うける。

母ちゃんはまたゆでたまごの殻を剥き、るいのカレーの皿に入れていた。

ゆでたまごどんだけるいに食わせる気だ、と思って俺はそれを横取りした。


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