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「るーいー。」


休み時間、航が突然俺の元にやって来て、ピトリと俺に抱きついてきた。


「え、なにどうしたの?ご機嫌だな?あ、えっちのお誘いか?やった、嬉し。」

「ちがうちがう今日はえっちしない。」

「チッ。」

「あ、今舌打ちが聞こえたな?ん?」

「チュッ。」

「なーんだ、チューしたかっただけかぁ。舌打ちかと思っちゃったぁ。」

「俺が航に向かって舌打ちなんかするわけねーだろー?」

「今したけどな。」

「ゴホゴホ。で?なんの用だった?」


わざとらしく咳払いをしてから、もう一度本題に戻るために俺は航に問いかけた。

航は俺の首に腕を回してきて、ジッと見つめてくる。絶対誘ってると思うんだけど。今日はえっちしない宣言をしてきたことが少々信じられない。


「俺好きになったのがるいでよかったー。」

「…え、なにいきなり。照れるんだけど。」

「るいがえっち上手いから俺気持ちよくなれるんだなーと思って。」

「うわ、お前やっぱ誘ってんじゃねえの?押し倒すよ?」

「誘ってない誘ってない、そしてここ教室な。」


まるで話が読めないけど、これを誘ってないと言う航はやっぱりかなりのおバカさんだ。ここが自室なら俺は迷うことなく押し倒してた。


「いやぁあいつがなんかえっちするらしくてな?」

「あ、仁?お前なんか仁に聞かれた?」

「うん。どうされたら気持ち良いかてきな?」

「あいつまじでヤる気か。古澤どんまい。」

「それな。」


航は俺の言葉に頷きながら、自分の席で大人しく携帯をいじっている仁に目を向けた。どうやら言いたかったことはその話らしい。


「あいつ入れることしか多分頭にねえと思うんだけど。るいみたいに慎重にやってくれなさそう。絶対痛いわ。るいは慣らしてる途中に入れたくなってこなかった?」

「俺も緊張してたから…。航が痛くないように、って必死だった。」

「うーわ、もうるいきゅんだいすき。」


航はチュッと俺の唇に口付けてきた。もうこれは絶対誘ってるとしか思えない。ここが自室なら俺は絶対に航の身体を押し倒してた。





「古澤。……がんばれよ。」


放課後、生徒会室に行くと矢田会長に突然そんな声をかけられた。ポンポン、と背中を叩かれて俺は「え?」と少々戸惑ってみせる。


「相談あったら聞くから。」

「は、はい…ありがとうございます…?」


なんか矢田会長が妙に優しい。
きもちわる…

それから生徒会でやるべきことを終えた俺は、「ふぅ。」と息を吐く。そろそろ帰ってもいいかな。そんなことを思いながらあたりを見渡すと、矢田会長はプリントとにらめっこしていた。それから、仁先輩と目が合う。

目が合うと、にっこり俺に向かって笑みを浮かべた仁先輩。…あ、可愛い。今の笑顔に俺は少々ドキンとした。

仁先輩は笑うと少々子供っぽい可愛さがある。


「古澤帰ろ!」

「はい!」


仁先輩から誘ってくれた。
嬉しい。気持ちがほっこりする。


「矢田会長すみません、お先に失礼します。」


矢田会長にそう告げて生徒会室を出ようとすると、矢田会長はグッと俺に向かって拳を突き出してきた。…は?ちょっと意味がわからない。

戸惑い気味に俺も拳を突き出してみると、矢田会長はグッと親指を立ててきた。

グッドのポーズをした矢田会長は口を開く。


「がんばれよ。」


…は?…いや、なにが?そんなキリッとした男前な顔で言われても意味がわかりません。


「は、はあ…?」と困惑気味に頷いた後生徒会室を出て、先に部屋を出ていた仁先輩の隣に並び、歩み始める。

少し進んだところで、窓枠に凭れ掛かり外を眺めていた友岡先輩がいた。矢田会長を待っているのだろう。


「友岡くーんやっほー!」

「おー。るいはー?」

「もうすぐ帰れるんじゃなーい?」


仁先輩と友岡先輩がそんな会話をしたあと、友岡先輩は俺に視線を向けてきた。


「じゃーねーバイバーイ。」


友岡先輩の横を手を振りながら通りすぎた仁先輩だが、友岡先輩はそんな仁先輩には目も向けず、ジッと俺に視線を向けてきたから、なんだろう?と不思議に思っていると、なんと友岡先輩もまた矢田会長のように、グッと俺に向かって片手を突き出して親指を立ててきた。

なんなんだこのカップルは。俺のことからかっているのだろうか…?


俺はもう意味が分からず、「ん〜?」と首を傾げると、友岡先輩は俺に向かって言ったのだ。


「健闘を祈る!!」

「意味がわかりません!!」


俺はあまりの不可解さにそう返してしまうが、友岡先輩は特になにも話してはくれず、その後鼻歌混じりに「るいまだかなー」と生徒会室へ歩んでいってしまった。


「なんか矢田会長も友岡先輩も俺に変なこと言ってくるんすけど。」

「うん?変なこと?」

「よくわかんねえんすけど、がんばれてきな?なにをがんばればいいんすかね?」

「んー。なんだろうね?気にしなくて良いんじゃない?あのバカップルちょっと理解不能なところあるから。」

「あー…自分たちの世界入っちゃってる時ありますもんね。」

「そうそう、そもそも友岡くんがぶっ飛んでるから最近はるいまで影響されてなんかおかしなこと言い始めるし困っちゃうよ。」

「え、矢田会長なに言ってたんすか?」

「この前教室に結構でっかい虫がはいってきたんだけどさ、クラスメイトみんな結構騒いでたのね?そしたらるいが言ったんだよ!『虫ぃ?無視してろ!虫だけにな!』とか言ってんの!みんなるいの発言に固まってたわ!んでその後、るいの机に虫が止まってあいつ無言で手掴みで外に放してたんだけど、もーみんなドン引きだったわ。」


う、うわー。矢田会長の口からくだらないギャグが出ると思うと反応に困るよな。

俺は仁先輩の話に自然と顔が引きつっていた。


「…矢田会長、変わっちゃいましたね…。友岡先輩が恨まれないかが心配です。」

「多少は恨まれてると思うけど、友岡くんになんかあったらるいが黙ってないから心配いらないよ。

ねー、それよりさー、」


仁先輩は突然にこっと笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込むように俺に問いかけた。


「今日俺の部屋来ない?」

「えっ」


これはちょっと、なんていうか、

…緊張するパターン。


「……は、はい。」


俺はゴクリと唾を飲み込んで頷いた。


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