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「なあるいるいるいぃ…、最近真剣に悩んでることなんだけどちょい聞いてくれる?」
「は?めんどくせえ。なに?」
うーわ、冷た。なにこの人、冷た。友岡くん以外には愛想の欠片もない態度のるいに、俺はぺっと唾を吐きたくなった。いや吐かないけどね、この人怖いから。
面倒くさいとは言いつつ俺の話を聞こうとるいがこちらに目を向けてくれているから、俺は話し始める。
「俺ってどっちかな、って思って。」
「そっちじゃねえの。」
「ちょっと!話聞く気ある!?」
適当なことを言うるいに少し声を張り上げて言うと、るいは眉間に皺を寄せて俺をジロリと睨みつけてきた。あ、こわ。
「ちゃんと文章を成立させてから聞いてくれますかー?どっちとかいきなり聞かれても答えられませーん。」
「ごめんって!ちゃんと話すから!」
「はじめからそうしろ。」
はいはいすみませんでしたぁ。
俺はもう一度気を取り直してるいに問いかける。
「いやぁ、もし俺が男とエッチするとき、入れる側か入れられる側かどっちかなって。」
「好きな方したらいいんじゃねえの。」
「仮にるいとエッチするとしたら俺は入れられる側?」
「は?気持ち悪りぃ例え話するのやめてくれる?お前相手はどっちでもねえよ。」
「ちょっと!仮にっつってんじゃん!まじで冷めた目で俺を見ないで!」
ほんとこいつ、友岡くんを前にしてる時以外は別人だ。なんか腹立つぞ。友人にもちょっとは優しい態度を取りやがれ!
「つーかお前なんでそんなことで悩んでるわけ?」
「るいと友岡くんに触発されて?」
「は?」
「エッチしてみたいなー、みたいな?」
「誰とやんだよ。」
あっ。そこ。そこが一番聞いてほしいところだったのです。
俺は少し照れながら、るいに顔を近付ける。するとるいは嫌そうにしながら顔を引きやがった。むかつく反応だ。まあ別にいいけど。
こそこそ話をするように、俺はるいに告白した。
「ちょっと、さ、最近古澤のこと気になってて。」
俺がそう言うと、るいは「へえ?」と少し俺の話に関心を持ってくれたようだった。
生徒会の後輩の古澤 貴哉。俺の自室の隣の隣の部屋のこの後輩は、誘いやすいのもあって、朝食、夕飯を一緒に食べることが多い。
生徒会では空気が読める気の利いた出来た後輩で、優しく明るい元気な性格で会話も弾むし、一緒に居ると楽しい。
最近では、お互いのお隣さんのお部屋から聞こえる喘ぎ声のおかげで、『エッチってやっぱすげー気持ちいいんでしょうね』だなんて事を言っていた古澤も恐らく、俺と同じようにるいと友岡くんに触発されてるのではないだろうか、と思う。
『うん。ちょっと興味ある。』
そう言ってみると、古澤はジッと俺の顔を見つめて、『入れられるの想像できます?』なんてことを聞いてきたから、エッチするにあたっての最大の壁はそこだな。と思った。
多分だけど、古澤は入れたい側だと思う。で、俺も多分入れたい側。と言うより、やっぱり入れられるのは想像できないのが本音だ。
どっちも入れたいのなら、残念ながらエッチはできない。だからこうやって、悩んでいるのだ。
しかしるいは、俺の悩みをあっさり解決するかのように、ズバッとこんなことを口にした。
「先に押し倒したほうが勝ちだろ。」
特に何も考えていないような顔をして言ったるいの台詞に、俺はちょっと納得してしまった。経験者が言うことは一味違うのかもしれない。
「…なるほど。そしたら多分俺もう攻め攻めマンだよね?」
「なんだそれ?」
「主導権を握るってこと!」
「そうなんじゃねえの。」
よし。決めた、俺は古澤を押し倒す。
「あ、そうだローション貸して?あとコンドームも。」
「は?なんでお前に貸さなきゃなんねえの。」
「いっぱい持ってるんでしょ?友岡くんからるいがコンドームとローション山ほど買ってたって話聞いたよ。」
「お前航と喋るのやめてもらえる?」
「友岡くんと俺実は結構深い仲だから無理かな。」
「はー?ぶん殴って良い?」
「あっま、待って待って!ごめんってば!冗談だから!」
るいがまじな顔して俺の胸倉に手を伸ばしてきたから、俺は全力でるいに謝った。
仕方ない、俺もいつかのためにとローションとコンドームを自分で買いに行こうと、るいがそれらを買った店を聞くと、あっさり答えてくれた。
「まあがんばれば?」と言ってくれたから、応援する気はあるらしい。
「あ。ねー友岡くんちょっと聞いていい?」
俺はその次の休み時間にちょちょいと友岡くんを呼び出し、コソコソ話をするように廊下の壁に友岡くんと並んでくっついて座った。
「なに?」
「あのね、ちょっとさ、経験者のおはなしを聞きたくてね?」
「は?経験者?なんの?」
「エッチの。」
コソリと告げると、友岡くんは真顔で固まった。恥ずかしがりはしないものの固まってるあたり、どうやら友岡くんはだいぶエッチなおはなしに耐性ができてきているのかもしれない。さすが経験者はちがうね。
「入れられる側はどうされたら気持ちいのかな?って。」
「……なにおまえ、誰かとえっちする予定でもあんの?」
「君たちの所為で触発されたんだよ。ちょっと責任とってほしいね。」
「え、お前とヤんのは死んでもごめんなんだけど。」
「ちょっと!そんなこと一言も言ってないけど!?勝手に嫌がるのやめて!?」
なにこのカップル、どんだけ俺とヤんの嫌なわけ!?…あ、違うか。こいつらはあれだ、『エッチ?好きな人としか無理。』ってやつだ。このリア充め、むかつく。
「じゃあ誰とヤんの?」
「ちょっと気になってる子が居てね?」
「あ、古澤くん?お前仲良いよな。」
「そう見える!?」
「当たりか。」
「当たり当たり!!」
やっぱり仲良く見える?俺も自分でそう思うんだよね。古澤は俺のことどう思ってるかな、生徒会の先輩?ちょっと話しやすい人、とか?
俺と同じように気になってくれてたら嬉しいなぁ。
「え、でお前…その様子からいくと、古澤くんに入れる気だな…?」
「うん!だから何をどうしたら気持ち良いかなーって!」
「…それ考える前に痛くならないようにしてやるのが先なんじゃねえの…お前下手そう…。」
「あーなるほどね。痛くならないようにね。友岡くん痛くなかったんだよね?」
「いや…、さすがに指3本入れられた時はちょっと泣きそうになったけど…でもそのあとあのデカさのものが入るんだから指3本入れてもらってなきゃ多分死んでたな…。」
「あそっか。まず指から入れんのか。」
「……お前なに考えてんのか知らねえけど、付き合ってもいねえのにいきなりヤって嫌われても知らねえぞ。」
友岡くんは俺に心配するような視線を向けながらそう言ってきた。心配ご無用、最高に気持ち良い気分にさせてあげて、俺に依存したら良いのだ。
古澤自身もエッチに興味持ってるんだから、悪いようにはならないはず。
俺は何の根拠もないのに、そんな自信を抱いていた。
「俺好きになった人がるいで良かった…、仁いきなりちんちん入れてきそう…こわ、絶対痛い…。」
「ん?なんか言った?」
「んーん、なんにも。まあがんばって。」
「うん!」
バカップルから共にエールを頂けたので、俺はちょっとやる気が出てきた。
経験済みのお二人のおはなしを伺えたので、もう俺に怖いものはない。
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