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古澤を部屋に招き入れ、ひとまず鞄を置いて古澤のことをジッと見つめた。
準備はできてるし、あとは誘うだけ。……でもやっぱり緊張する、俺ってそういや自分から行くことって今までに無かったから。
中学の時の彼女とは告白されて付き合って、でも結局向こうから振ってきたから俺は全然自分から行動を起こしたことがない。
でも俺は今回、古澤を押し倒して俺から攻めると決めたのだ。
『ヤってみる?』だなんて冗談を古澤とは何回も言い合ったことがあるから、古澤も心の準備をしてくれてたら好ましい。
古澤の肩に手を添え、古澤にグッと顔を近付ける。
「…古澤、俺のことどう思ってる?」
「え…仁先輩、の、ことですか…?」
うわ、ちがうちがう、予定ではこんなこと聞くはずなかったんだけど、なんかいざ部屋に古澤を招き入れてみるとパニクってきたっていうか、え、俺こんなんでエッチとかできんの?って思ったのが本音。
「…仁先輩は、一緒に居て楽しいです。」
「ほ、…ほんと!?」
「ほんとっす!御飯とか一緒に食べててすげえ楽しいっす!」
「うわ!嬉しい!俺も!」
「あっ、あと…!可愛いっす!」
「…へ?」
可愛い…?え、誰が?
……もしかして、俺が!?
「えぇ!?なに言ってんのぉ!?」
向けられた言葉に、俺は驚愕を露にしながら声を上げた。しかし古澤は「はいっ!」といい笑顔で頷く。
古澤の肩に手を置いて、彼を押し倒そうとしていたのは俺なのに、古澤はなんと俺の腰に手を添えてきたから、若干あれ?って思うんだけど。
「仁先輩、…絶対俺のこと誘ってましたよね?」
そして古澤は、ほんのりと頬を赤く染めて、俺にグッと顔を近付けてきた。
あ、もしかして、やっぱり、俺の勘違いではなく古澤も俺のこと気になってくれてたかな?とは思うんだけど、ちょっと待って?
なんか俺が思ってたのと違うぞ……?
「俺、結構真に受けるタイプかもです。エッチしちゃう?とか冗談でも聞かれると、正直本気に思っちゃいます。…そんで、俺仁先輩のことそういう目で見ちゃいます。」
古澤はとても真剣な表情で、俺にそう言ってきた。
「…まじで?…俺冗談で言ってないよ?結構本気。ほら、そういうお年頃じゃん?」
「俺もっす…!」
古澤は興奮したように、さらに俺に顔を近付ける。やばいやばい、これまじで俺今日ヤっちゃう雰囲気!?
「…俺っ、仁先輩のこと最近すごい気になってて、一緒に居るとドキッとすることありますっ!」
「まじ!?一緒!!」
「ほんとっすか!?やべえ!嬉しいっす!」
古澤は、目をキラキラと輝かせて、どんどん俺に迫ってくる。……あれ?だからちょっと待って?
腰に添えられていた手がいつの間にか俺の肩の上に乗っていて、近距離には古澤の顔面。
「仁先輩っ…キスしていいですか!?」
そして古澤は、顔を真っ赤に染めてそう俺に言ってきた。
「う、うん…!」
頷くと、古澤はとても嬉しそうな表情を浮かべる。しかしその直後のことだ、古澤は俺の身体を押し倒してきたのだ。
…えええええ!?!?
あれ!?ちょっと待って!?
押し倒されてる!?
俺は驚きで目をぱっちりと開いたままの状態で、古澤の顔が近づいてくる。そしてそのまま、古澤と俺の唇が合わさった。
数秒間キスをして、ゆっくり離れる古澤の顔。赤い顔をした古澤が、俺を見下ろす。
「…やばい…俺、先輩好きっす…!」
「…え?…あ、…うん…俺も…。」
「やばい!やばいっす…!もういっかいキスしてもいいですか!?」
「え、あ…うん…?」
なんか頭がパニックになっているうちに、古澤はまた俺の唇にキスをする。角度を変えて、吸い付くようにキスをしてきた。
そしてふと俺は気付いた。俺の腹に、硬くなった古澤の股間が当たっていることに。
「やばい…、興奮してきた……、仁先輩…、……いいですか…?」
「……え?……なにが?」
「エッチ…。してもいいんすよね…?」
「……あ、いや、うん…そうだけど、」
「俺っ……優しくします…!」
「え…?あ、待って?…ええ?」
あれ?おかしいよね?なんで俺が押し倒されてるの?俺が古澤を押し倒すんだよ?
いや、エッチしちゃう雰囲気にもっていけたのは良いけどさ、違うよね、これは完全に、流れが。俺の想像と違う方へいっている。
しかし俺が内心かなり戸惑っている最中も、古澤の動きが止まることはなく、俺のスボンのベルトに手をかけてきた。
「うわぁ…緊張する…っ」
「え、あの一応聞くけどさ、古澤お前、俺に入れる気でいるわけ?」
「え?…嫌ですか…?」
「え、…や、嫌っつーか…え、……嘘ぉ?まじで言ってる!?」
「…まじです!俺、ちゃんと先輩気持ち良くします!」
古澤は、とても張り切った様子でそう言うが、俺はこの展開はまったく考えていなかったので、ちょっと考える時間がほしい。
「待って?古澤、一旦おちつこ?」
「俺落ち着いてますよ?」
よいしょ、と俺は力を入れて起き上がる。
古澤はキョトンとした顔で俺を見つめてきた。
「…あのね古澤?俺が古澤を抱くんだよ?」
「…え、……俺が先輩を抱きます。」
古澤は俺の発言にそう言い返してきた。どうやらこの様子だと、引く気は無さそうだ。だから俺は、もう一度古澤の肩に手を添えた。そして今度は俺が押し倒そうと試みる。
…が、
「…先輩、俺が仁先輩を気持ち良くしたいです。」
古澤はまた、俺を勢い良く押し倒してきたのだ。
「うわぁ待って!?ちょっと待と!?俺こっち側の心の準備はなんもしてなかったんだけど!?」
「…じゃあ今してください。」
「1日!いや3日待って!?考える!」
「…俺を部屋に誘ったの先輩っすよ?」
「そうだけど!俺はこっち側じゃないよ!?」
俺はもう一度よいしょと力を入れて起き上がった。
古澤はちょっと拗ねたように俺を見る。
「…分かりました、じゃあ3日待ちますね。」
「…うん。」
やっぱ、おかしいよな?
俺先輩だよ?この状況はおかしいよな?
なんとかして3日で古澤の考えをどうにかしないといけないな。
…と、俺は思ったのだった。
だって俺が入れられるの?
無理無理、全然そんなの頭にないから!
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