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「りとー今日どっか寄ってくー?」

「俺用事あるからパス。」

「えー用事?なに、珍しいね。女?」

「うるせーな、ほっとけよ。つーか暫く俺早く帰るから。」


イケメンで頭が良く運動神経も良い、この三拍子が揃った非の打ち所がない男、矢田 りとが、学校が終わってからすぐに帰る支度を終え、珍しく急いで教室を出て行った。

あ、りとの欠点を強いて言うなら性格が少々キツイところ。でもそこがまたかっこいい、だなんて言ってる女は結構多いから、あいつの場合全然欠点になってない。


りとの兄貴がまた恐ろしくイケメンで頭が良く完璧な人っていう噂を女子から聞いたことがあるが、残念ながら今は寮に入っているようで見たことはない。

…が、わりとりとも完璧なんだけど。その兄貴っていったら一体どんな人なのだろう。

そんな勿論のこと女子からモテモテの男、矢田 りとに現在彼女は居ない。というか多分あいつは女に興味があまり無い。女子の扱いはすげえ雑い。告白されてもあまり気の利いた返事をしないから泣く子も多い。

スマホのゲームばっかやってる。しかもすげえガチでやってる。あいつが真剣な顔してる時はいつもゲームやってる。話しかけるとマジギレされるから誰も近付かない。多分課金もしててチラッとランク覗いたらめちゃくちゃ高かった。

ふっ、て珍しくあいつが緩い表情で笑ってたからなんだと思って聞いたら、「ノーコンで倒した」とかちょっとよく意味が分からないゲームの世界の話をしていたから、「良かったな。」って言ったらりとはその後すげえご機嫌だった。

りとがご機嫌だと女子の気分もなんだかいつもより浮ついてる。基本的に派手な見た目をした女子たちと、りとを含む俺たちはよく連んでいるが、りとが居ないところでその女友達は「りとと付き合いたい」だのなんだの言ってる。

下心バレバレでりとに近付いてる女友達だが、残念ながらりとはマジで興味が無さそうだ。

…なら、りとの好みって一体どんな子?

日々りとに対してそんな疑問を抱いている俺たちだが、それは突然のことだった。

放課後は結構遊びに行ったりしていたりとが、『用意がある』と断ったのは初めてではないだろうか。

女か?女だろ。絶対そうだ。

女友達はすげえ凹んでて、俺たちはすげえ気になってて、りとの後つけてやろ、って盛り上がって、俺たちはその後、さっさと帰宅していったりとの後をこそこそつけ回ることにした。



りとが向かったのは中学校だった。

りとの出身中学だと女友達は言う。基本的にりとの情報は俺ら男子より女子の方がよく知ってる。ちょっとこわい。

…え、なに。あいつの彼女中学生…?

あいつ歳下好きだったのか?

そんなことを思っていると、校門にはすげえ美少女が立っていた。誰かを待っているようだったが、りとが現れた瞬間美少女は物凄く不機嫌そうな表情を見せる。

りとと同じ、焦げ茶色の髪色をした美少女は、サラサラなセミロングの髪を揺らしてりとの後ろを歩きはじめた。

そこで女友達は、ハッとしたように言う。


「あっ!あの子りとの妹だ!」


その女友達の言葉を聞いた俺たちは、大いに納得した。通りで美少女なわけだ。髪質が少し似ている気がする。りとの髪もあの子のようにサラサラだから。

染めなくても綺麗な髪色をしているのに、一時期金色に染めてた時があったから、結構批判されていたが、勿論金色の髪をしたりともすげえイケメンだけどちょっとヤンキーっぽくて怖かった。

そんな、美少女を連れて歩くりとだが、下校しはじめる中学生から物凄い視線を浴びている。「矢田先輩だ」とか聞こえてくるから、きっと中学の時からあいつは有名だったんだろうな。

美少女な妹と同様に、りとも不機嫌そうな表情を浮かべて歩いているが、どこか変だ。

変に周囲を窺いながら歩いてる様子。


「なにしてんだろうね、りと。」

「さあ。これから家族で出かけるとか?」

「つーかりとの妹まじかわいいんだけど。紹介しろっつったら怒られるかな?」

「多分睨まれて終わりだと思うよ。」

「りとから妹の話聞いたことねえけど、なんか仲悪そうだな。」

「あ、悪いって聞いたことある。なんか妹はりとのお兄さんに懐いてるんだって。で、りととは不仲ってりとと同中の友達が言ってた。」

「女子知りすぎ。こわい。」


そんなりとの話をしながらりとが行く先を追っていると、着いた場所はりとの自宅だった。


「…え、ひょっとして妹迎えに行っただけ?なんで?」

「さあ?女できたかと思いきや、妹かよ!」


俺ら男はさっさとりとには彼女を作ってほしいと思っていたからかなり期待外れだったのだが、女友達はりとの用事が女ではなくホッとしているようだった。

いやまあ女っちゃ女なんだけど。

それもかなりの美少女。

あんなに美少女な妹がいたら、そりゃいろんな女子が霞んで見えるわな。…と、俺たちは女友達には内緒でそんな話をしていた。



そして翌日も、学校が終わったらりとはさっさと帰っていった。また妹か?

なんかよくわかんねえけど、りとって絶対シスコンだろ。知らねえけど。

でも俺にもしあの妹がいたら、間違いなくシスコンになる。思い出すだけで胸がときめく可愛さだ。ちょっとすまんがまじで女友達が霞んで見える。


「お前そのバサバサなつけまつげやめたら?」

「はあ!?」


…おっと、デリカシーの無い発言をしてしまったかもしれない。俺は女友達に物凄くキレられてしまったのだった。


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