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りなが兄貴との通話を終えた数分後、今度は俺の携帯に電話がかかってきて、俺はこれから兄貴になにを言われるかをすぐに理解したから、兄貴からの電話を無視した。
しかししつこくかかってくる電話に、今の兄貴の様子は安易に想像できる。きっとすげえ怖い顔をして俺に電話をかけているのだろう。
「あーもう分かった分かった、うぜえな!もしもし!?なんだよ!!」
『なんだよじゃねえだろ、さっさと出ろよ!お前分かってて無視してんじゃねえよ。』
「今気付いたんだよ。」
『ああそうかよ、まあいいけどお前りなから話聞いた?』
「なんの?」
『学校帰りにりなの知らねーやつが後つけてくるって。』
「へー被害妄想じゃね?誰もあんなの興味ねーから!」
『被害妄想だったらそれでいいけど、そうじゃなかったら心配だろ、りなもすげえ怖がってるしお前暫くりな迎えに行ってやれよ。』
「は?嫌に決まってんだろ、俺にだって都合があるんだよ。なんでわざわざ妹迎えに中学行かなきゃなんねえんだよアホか。そんなに心配なら兄貴が行ってやればぁ?まー無理だろうけどー。」
憎たらしい言い方で兄貴にそんなことを言ったところで、兄貴は暫し黙り込んだ。そして、電話越しに『はぁ。』と兄貴のため息が聞こえてくる。
『分かってんなら言うなよ。』
「はあ?なにが?」
『そりゃ俺が行けたら行くけど、行けねえからお前に言ってんだろ?お前が行ってやればりな安心するだろうし、俺だって安心したいし。な?お願いだから行ってやれよ。』
兄貴はそう俺に頼み込むように言うが、俺はそこであっさり頷くほど素直な性格をしていない。
「…俺がそんな面倒なことタダでやると思う?」
『いいや、思わねえよ。…分かった。母さんにこのこと話しとくから。りとに好きなもん買ってやってって。』
「まぁ、それじゃあ仕方ねえなぁ?」
『はぁ。お前はほんと、タダで動かねえやつだな。りなのこと心配じゃねえのかよ。』
「心配心配ー。もうすげえ心配ー。だから怪しいやつ捕まえたら奮発な?」
『はいはい。母さんに言っとくから。頼むぞ。』
「はいよー。」
よっしゃ、あいちゅーんカード1万円分買ってもらお。…と、俺は意気揚々としながら兄貴との通話を切った。
兄貴が言うなら、きっと母さんに高価なものを買ってもらえるに違いない。
「りな、明日学校終わったら教室で暫く時間潰してろよ。」
「はぁ!?なんで!?」
「おにーちゃんが迎えに行ってやんだから感謝しろよ。俺がメールしたらすぐに校門来い。」
「べつにりとになんか迎えに来てもらわなくてもいいもん!」
ああもう、まじ可愛くねえ妹。でも迎えに行くったら行くんだよ。これでもし行かなかったら兄貴になに言われるか分かんねえし。
「迎えに行かねーと兄貴がうるせえんだよ!つべこべ言わずに待ってろよ!」
『兄貴』という言葉を出すと大人しくなるりなは、どこまでも兄貴のことが大好きだ。
だから俺は、妹のことが大嫌い。
けれどほんとのこと言うと、俺だって妹のことが心配だ。
だって妹は生まれた時からすっげー可愛くて、今でもすげー可愛くて、見る見るうちに女の子らしくなっていって、どんどん可愛くなっていくから。
でもそんな妹に俺は、兄貴のように素直に妹を可愛がってやれないのが凄く悔しい。
自分の思いとは裏腹なことばっか言って、どんどん妹には嫌われて、俺と妹の仲はどんどん悪くなる一方。
こうやって、これからもきっと、俺と妹はこんな感じの兄妹仲で歳をとっていくのだろう。
俺はもう半ば諦めている。だから俺が嫌われているなら、とことん俺も嫌ってやろうって、そう思う。
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