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俺、矢田りとには、兄と妹がいる。何でも器用にこなし、面倒見の良い兄と、そんな兄に懐いている妹だ。
俺が物心ついた4、5歳くらいの頃、一つ年下の妹はそれはもうとても可愛くて可愛くて、髪を引っ張ったりほっぺたを触ったりして遊んでいた。
それが多分妹からしたら嫌だったのだろう。俺は気付けば妹にとても嫌われていて、可愛い可愛い妹は一つ年上の兄に懐きまくり。そんな日常は、全然面白くなく、俺は、兄が嫌いだった。
成長するにつれ妹は兄にべったりになるし、それとは逆に妹に嫌われる俺。だからだんだん妹が憎たらしくなってきて、俺は妹も嫌いになった。
兄は何でもできるけど、友達はあまり居ないようだ。小学校低学年の頃なんかは兄が友達と一緒に過ごしているところを俺は見たことがない。
そんな兄とは真逆に友達が多かった俺は、小学校から帰ってきたら、よく友達と公園で遊んだりした。
そしたら兄が公園で妹を砂場で遊ばせていたから、俺はなんかちょっとよくわかんねえけど兄の悪口を言いたくて、『友達居ないからりなと遊んでるだけだろ』って家に帰って兄に言ったりしてみたけど、兄は特に何も言い返さず、俺はなんかしんねえけどとても悔しかった覚えがある。
中学に上がれば兄の容姿の良さや頭の良さ、運動神経の良さなど、あらゆる面で出来の良い兄の話はそこら中で耳にするようになった。
俺自身、容姿や運動神経や頭をよく褒められることはあるけど、それでも兄ほどではない。自分でそう自覚できるくらい、兄は何事にも出来が良かった。
出来の良い兄を持つ弟の俺は、よく人からグレたと言われる。多分それは大当たりだ。
出来の良い兄を真似するように俺も兄のようになろうとは決して思わない。それどころか反抗心ばかりが沸き起こる。
兄弟だって比べられたくないから、わざと兄とは真逆のようなことをするのだ。例えば授業態度を悪くしてみせたり、制服を着崩したり。
そんな悪い態度を取っていても俺は勉強ができて、見た目も相変わらず褒められたから、『やっぱり矢田 るいの弟だな』みたいなことを言われて、俺はなんだかそれがちょっと嬉しかった。
兄と比べられたくはないけど、兄のようだと言われるのは、嬉しかったのだ。
そんな兄は、年子の3兄妹ということもあり、学費や生活費、様々な面で両親の負担にならないようにと、全寮制の高校に進学したため、寮に入った兄は今は家に居ない。しかも優秀な兄は学年首席なため、待遇も良く学費は全額免除だとか。
とても自分には真似できない。
悔しいが、俺は兄には何一つ敵わないのだ。
そして、兄が家に居なくても兄のことが大好きな妹は、何かあるたびに兄を頼ろうとする。
「あ!!もしもしお兄ちゃん!?もうりなやだぁ!!お兄ちゃん家に帰ってきてよぉっ!!学校帰りに最近いっつも高校生くらいの制服来た知らない人がりなの後つけてくるんだよぉ!?もうほんとやだよぉ!!」
………おいおいまじかよ。
結構それやべえんじゃねえの?
リビングでどうやら兄貴と通話をしているらしいりなは、涙混じりでそんなことを言っていたが、兄貴に言ってもどうにもなんねえだろ、と言ってやりたい。そんなすぐに帰ってこれる距離じゃねえんだから。
…近くに居る俺には言わず、遠くにいる兄を頼る。すげえむかつく。むかつくけど、こんなことにはもう慣れた。
りなが俺を嫌ってるように、俺だってりなのことが嫌いなんだ。だから俺は、妹の心配なんか絶対してやんねえ。
「ハッ。趣味わりぃやつが多いな。」
そんな憎まれ口ばっか叩いてるから、いつまでたってもりなは俺のことが嫌いなんだろうけど。
兄貴ばっかり頼るりなが悪いんだ。
俺の意地悪な言葉に、りなは涙混じりで唇を噛み締めて、俺のことを睨んでいた。
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