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「これ20皿無理だな。」
「うん。俺もういいわ。」
「じゃあるいの記録16皿な。」
「お前まだいけんの?」
「ちょっとキツくなってきた…、でもるいよりは多く食べたい…。」
「いや競わなくていいから。キツいんならもう食うな。」
「でっ、でもあと一皿だけ炙りサーモン食べたい…。」
「また来たらいいだろ、もう会計するぞ。」
あと一皿注文しようか迷っていたが、るいはお会計ボタンを押してしまった。友岡 航、皿の枚数は14皿。まあこんなもんか。
久しぶりのお寿司でとても満足した。
店内を出て、この後どうしようか、と考えながら街を歩く。人が賑わう街中で、お店もいっぱいあるから適当に見るか。ととりあえず歩く。
しかし隣を歩くこのイケメン、どこへ行っても女の子に視線を向けられてたまったもんじゃない。
「みんな見た目に騙されてる。」
「ん?どうした?」
「いや、このお兄さんクールな顔して歩いてるけど、実は袋の中にローション3本とコンドーム2箱入れてるからって思ってな。」
「何日でこれ無くなるかな?」
「そこは何ヶ月でって言ってくれ。」
「今晩さっそく0.01ミリで試したいな。」
「ん?…あはっ。え?なんだって?」
にっこにこな顔してるいが俺に言った発言に、俺は思わず顔が引きつった。
「ん?今晩0.01ミリ試したいなーって」
「……うっ。あっ。頭が…!」
0.01ミリを試したい、つまりそれは、えっちして試すってことじゃねえのか。
だめだめだめ。俺は2週間は絶対やらないって決めたんだから。
「…るいきゅん…たのしみはずっととっといた方がいいよ。」
「まあ5個入ってたから5回は楽しめる。」
「…うっ!あっ!頭が…!」
俺は街中でわざとらしく頭を抱えた。するとるいは心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。いやまじで頭痛いわけじゃねえけどさ。
…と思っていると、るいはまじで心配そうに、俺に向かって言ったのだ。
「…おまえほんと性欲ねえよな。」
そっちの心配かよ!ってツッコミを入れそうになったが、いやいや俺は別に性欲が無いことはねえぞ。るいには絶対言わねえが、密かにムラムラしてる時だってあるんだからな。
「つーかるいが性欲モリモリすぎなんじゃねえの?」
「んー…だいたいこんなもんだと思うけどなあ。でも航えっちの時ちょーかわいいからもっと見たい欲はモリモリ。」
「…なあ、もうこのはなしやめよ?」
街中でする話じゃねえよ。そして恥ずかしくなることを言うのはやめていただきたい。だって俺はかなりのシャイボーイなのだから。
「そうだな。続きは帰ってからな。」
「…あぁー…。」
この人絶対今晩俺を抱く気だぜ。
0.01ミリコンドーム買わせるんじゃなかったな。でもあんなにキラキラした目をしているるいを俺は止めらんねえよ。
だいたい0.01ミリってなんだよ。薄すぎかよ。
「あ、俺新しいあいふぉんケースほしい。るい待って。」
ふと立ち寄ったお店にスマホケースが並んだ売り場があったから、俺はるいの手を掴んで引き止めた。
「うわ、種類いっぱいあるな。」
「うん。どれがいいと思う?」
「んー、俺なら無難にこれ選ぶけど。」
そう言ってるいが手に取ったものは、真っ黒のプラスチックで飾りっ気のないものだった。
「あー…ぽいわ。」
「あ、こっちでもいいかも。」
「黒から銀になっただけじゃねえか!」
「航今つけてるやつなんかゴミつきやすい手触りだからプラスチックのにしろよ。」
「プラスチック落とすと割れそうじゃん。」
「気を付けて使えば落とさねえよ。」
そう言ってるいは真っ黒なあいふぉんケースを俺に手渡してきた。え?これにしろって?俺の趣味じゃねーよー…。
「……いや、でも待てよ?」
「ん?なに?」
「オソロみたい?」
「ん?なにが?」
「ケータイ。」
るいが使ってんのは真っ黒のガラケーだ。俺がこのあいふぉんケースにすると、真っ黒でお揃いみたいだ。
「分かった。じゃあこれにする。」
「別にそれじゃなくてもいいけど。」
「いいや、これにする。」
俺はそのあいふぉんケースを持って、レジへ向かい、せっせとお会計を済ませる。
買ったばかりのあいふぉんケースを、「入れといて」とるいが持つローションの入った袋にしれっと入れさせてもらった。
「さて、これで次の目的が決まった。」
「ん?なに?」
「ケータイがるいの趣味だから、そのケータイに俺の趣味のストラップをつける。」
「へえ。」
うんとおかしなストラップをるいのケータイにつけてやろう、と俺はひっそりとほくそ笑んだ。
「今からストラップ探しな?」
「はいはい。」
るいは大人しく俺の後について来てくれた。
人気のキャラクターとかのストラップとかが結構あちらこちらに売っている。ゆるキャラストラップにするのが有りかもしれない。顔が変なやつ。
俺の希望は『矢田くんがあんな変なストラップつけてる』って生徒たちに言われることだ。
「やけに真剣だな。」
「まあな。めちゃくちゃ気持ち悪いストラップ探してるから。」
「……変なん探すなよ。」
「えへへへへ。」
苦笑を浮かべたるいに、俺は思いっきり笑ってやった。
「あ、ガチャガチャのストラップでもありだな?」
とそこで俺の視界に入ったのは、たくさんの種類のカプセルが入っているケースが並んだガチャガチャコーナーだ。
「美少女アニメキャラのストラップとかいいな?…ん?300円?却下却下。」
ガチャガチャで300円は却下だ。
「お前ろくなこと考えてねえな?」
「ん?るいきゅん俺とお揃いのストラップつけたくない?」
「ものによる。」
「あっ俺これがいい!!」
今流行りのゆるゆるキャラクターのストラップガチャガチャだ。なんで流行ってんのかわかんねえけど、嫌いじゃない。変な顔。
俺は躊躇いなく200円を投入した。
ガチャガチャとハンドルを回す。コロン、と出てきたカプセルの中身を覗くと、一番気持ち悪い顔のやつだった。
「あ、これはるいのな。」
はい、とそれをるいに手渡して、俺はもう一度200円を投入する。再びハンドルを回し、出てきたカプセルの中身を覗くと、また同じ気持ち悪い顔のやつだった。
「は!?ふざけんな!続けて気持ち悪い顔のやつじゃねえかよ!!」
「…お前なんでそれ選んだんだよ。」
るいは呆れたように俺を見る。それはるいのケータイに変なストラップを付けたかったからだ。
まあいい。俺はガチャガチャのカプセルをまたるいの持つ袋の中に突っ込んだ。
「あとで一緒につけようね。」
「…あの気持ち悪い顔のやつ?」
「そうそう、気持ち悪い顔のやつ。」
るいは苦笑を浮かべながら、ガチャガチャコーナーから立ち去る俺の後をついてきた。
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