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「お兄さんあなた恥ずかしくないわけ…?」

「なにが?」

「そんな、ローションじっくり選んじゃって……って5本は多いっつってんだろ!!」


気付けばるいの手にはローションの容器が左手に3本と、更に右手で2本取ろうとしていたから、俺は慌てて売り場に戻した。


「えー、じゃあ3本でいいや。」

「えー。っておい。3本でも多いわ。」

「あ、じゃああとこの超ネバネバって書いてあるやつも買ってみる?」

「てめえさっきからローション選びにウキウキしすぎなんだよ!!」


俺はとうとう言っても聞かないるいの首に腕を回して締め付けた。


「痛い痛い!ごめんって。」


仕方ないな、という表情で、るいは超ネバネバと書かれたローションを売り場に戻す。


「あ、コンドームも売ってる。」

「…5箱も要らねえからな。」

「0.01ミリのが良いな。」

「おめえ聞いてんのかよ!!」

「でも値段たけえな。質より量かな。」

「クッソ!!聞けやこら!!」


やっぱり聞いてないるいの首を、俺は再び締め付けた。


「痛い痛い!ごめんって。」


るいは諦めたように薄さ0.01ミリコンドームを売り場に戻した。

しかしせっかくだから、と一箱コンドームを手に取ったるいは、どうやらローション3本とコンドーム一箱を買うらしい。


「うわ、なんかすげえ見られてた?」

「だからそう言ってんだろ!」


とここでアダルトグッズの売り場からようやく別の方向へ視線を向けたるいは、やっとまじまじと見られていることに気付いたらしい。


「まあ視線気にしてちゃ買えねえけどな。」

「いやそういうことじゃねえから。」


この人まったく分かってねえな。黙って立ってるだけでも視線を浴びてるクセに、そんな人がアダルトグッズ物色してちゃ、そりゃ周囲も当然見ちゃうから。


「あ、やっぱ1箱だけ0.01ミリ試していい?」

「もう好きにしろよ!!」


俺は諦めたようにるいに返事し、るいがお会計を済ませるのを待った。

やっぱりと言うかなんと言うか、レジの店員は商品とるいを交互に見ながら、レジを打っていた。しかも店員の顔は真っ赤だった。男だけど。

それから隣にいた店員に、「すげえイケメンがローションとコンドームいっぱい買ってった…」と話していた。


ああ恥ずかしい!俺は今日この日、イケメンすぎることは厄介であるのだと思った。だってきっとこれがるいじゃなかったら、例えローションを3本買ったとしてもこんなに注目はされないだろうから。


「あー腹減ったな。」

「俺食欲ねえわ…。」

「え、どうした?大丈夫か?」

「誰の所為だと思ってんだ!?」

「…え、誰の所為だ?」

「注目されすぎなおめえの所為だよ!!」


俺はぐったりしながら、近くにあったベンチに腰掛けた。


「なんか飲む?なにがいい?」

「…お茶。」

「ちょっと待ってて。」


そう言ってるいは、少し離れたところにある自販機に向かっていったが、そこで可愛いく着飾った女の子2人組がるいの後を追っかける姿を見かけたから、俺は「おいおい待て待て待て!」と勢いよくベンチから立ち上がり、女の子を追い抜かしてるいのあとを追っかけた。


「やっぱお茶は良いからどっか店内に入ろう!!」


ああもう油断も隙もありゃしねえ!この人すぐ逆ナンされるからうかうか歩かせてらんねえわ!!!


「あ、うん。」と目をぱちくりと開いて俺を見るるいの手を引いて、俺は逆ナンされそうだったるいをなんとか女の子から引き離すことに成功した。


「航なに食べたい?」

「カレー。」

「お前カレー好きだな。」

「は食堂で食えるからやっぱ焼き肉だな。」

「焼き肉も好きだな。」

「いや、待てよ?寿司屋行こう!」

「いきなり寿司か。」

「炙りサーモンが食いてえ!」

「へえ。」

「トロサーモンも好きだっ!」

「へえ。」

「甘だれ付けたサーモンがたまらんっ!」

「うん分かった、寿司屋行こうな。」


るいは携帯で寿司屋がある場所を検索してくれた。1皿100円の回転寿司屋だ。よっしゃ!お寿司久しぶり。


「なかなか混んでるな。」

「休日の真昼間だからな。」

「カウンター席でも良いか?」

「うんいいよ。」


カウンター席なら早く空くかもしれないから、とるいは受付の紙に名前を書いてカウンター席に丸をした。

店内の壁にもたれて席が空くのを待っているが、ううむ。やはり視線がすごい。なにがって?それはもちのろん、るいを見る視線である。

「かっこいい…」って言ってうっとりしながらるいのこと見てる女の子いるけど、見た目に惑わされるなよ?

この人が持ってる袋の中にはローション3本とコンドーム2箱入ってんだからな?


「矢田さまー!カウンター席2名でお待ちの矢田さまー!」

「あ、はい。」


しかし名前を呼ばれたるいは、クールな様子で店員に返事をし、やはり店員のお顔を真っ赤に染めさせていたのだった。

くっそ、なんかだんだん俺腹立ってきたぞ。まじでみんな見た目に惑わされすぎだろ!

よおく聞きやがれ?この人の持つ袋には、ローション3本とコンドーム2箱入ってんだからな?

え?しつこいって?うるせえ!!そのローション3本とコンドーム2箱全部俺とのえっちに使われんだからな!これくらい言わせろ!!


「ふぅ。」

「思ったより早く座れたな。」

「うん。さっそく炙りサーモン注文する。」

「注文すんの?もうちょっとでサーモン回ってくるぞ?」

「回ってくんのは取んねえんだよ!」

「え、回転寿司なのに?」

「…るいって回転寿司来たのいつぶり?」

「さあ、10年ぶりくらい?」


……ふむ。どおりで言ってることが古いと思った。最近の回転寿司屋は、タッチパネルで食いたい寿司を注文するのが主流だろ。


「るい、いいか?回転してる寿司は取っちゃダメだからな?」

「え、ダメってことはねえだろ。」

「ダメなんだよ!!俺が頼んでやるから絶対取んじゃねえぞ!?」

「はいはい。」


俺はるいにそう言いながら、タッチパネルに手を伸ばす。まずは炙りサーモンとトロサーモンを1皿ずつ選択する。


「るいは?」

「エビと甘エビ。」

「おめえさてはエビ好きだな!?」

「あ、バレた?」


てっきりマグロ、とか言ってくるかと思ってたのに、エビときてまたエビかよ!まあ俺もサーモンばっか頼むつもりだから人のこと言えねえけどな。


しかしその後、俺がエビと甘エビを注文してやったというのに、レーン上に流れてきたエビにるいが手を伸ばそうとしたから、俺は思わず頭をしばいてしまったのだった。


「回転してんのは取んなっつっただろ!」

「あ、そうだった。」


こらこらこらぁ!ちょっと最近矢田くんの威厳が失われてきたって言ってる人の話聞いたことあるけど、まじで失われてきてると俺も思うわ!!

友岡くんの所為だ、とも言われてるのを聞いたことがあるがそれは違うだろ!人の所為にするのはやめてほしい。


「あ、はい。エビきたよ。」

「やった。」

「ガキだな。」

「ぁあ?」


あ、こわ。忘れていたが、この人は睨むととても怖い。


「ふっふふーん炙りしゃーもーん。」

「ガキだな。」


そうですね、俺の方がガキでした。ローション3本とコンドーム2箱買ってるアダルトな方をガキ呼ばわりしてすんません。


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