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早く新しいあいふぉんケースと気持ち悪いストラップを付けたかったから、近くにあったファーストフード店に入ってジュースだけ頼んでテーブルについた。
昼時を過ぎているから、店内はちょっとだけ空いている。
「るいー、袋貸してーあとケータイもー。」
さっそくるいから袋とケータイを受け取って、袋の中からさっき買った新しいあいふぉんケースを取り出した。
「うわーまじでこれはるいの趣味だな。」
「いやいやただ黒いだけだろ?」
「ただ黒いだけのものを好むのがるいっぽいってことだよ。」
しかしまあ、るいっぽいものを身に付けるのは悪くない。いや、悪くないどころかちょっとテンションが上がる。
自分のあいふぉんに新しい真っ黒なあいふぉんケースを付け替えて、るいのケータイの隣に並べた。
「おお、いい。オソロっぽい。」
「黒いだけだけどな。」
「しかしこいつをつけることで、さらにオソロっぽくなる。」
俺はさっきやったガチャガチャのカプセルを取り出して、ぱかっと開けた。
「うわ、まじでキモイなそれ。」
「見慣れてくると案外かわい…いこともねえな。キモイな。」
るいはストラップをるいのケータイにつけようとしている俺の手元を、ジッと見ている。
「はい。」
「…うわ、最悪。」
最悪とか言いながらも外そうとしないあたりるいはやっぱり優しい。ふふふ。
俺は満足気にその気持ち悪いストラップを自分のあいふぉんにも付けた。
「ほら、オソロだね。」
「航の趣味には恐れ入る。」
「オソロってちょっと照れ臭いからこれくらいが丁度良いんだよ。」
「ふうん。」
さて、矢田くんのケータイに変なストラップ付いてる!って騒がれるのが楽しみだ。
「あのぉ、テーブル相席してもいいですか?」
「ん?」
気持ち悪いストラップを付けて楽しんでいたところで、可愛い女の子2人組が突然トレーを持って訪ねてきた。
完全にその女の子は、るいにハートの目を向けている。ここで来るか、逆ナン。…と思っていると、るいは周囲を見渡してから立ち上がったのだ。
「あ、すみません。どうぞここ座ってください。航、混んできたみたいだからもう出ようぜ。」
「あ、うん。」
なんてこった。この人逆ナンされてること分かってねえぞ。そして女の子は「え、あっ、待っ、」と焦ったように、立ち去ろうとするるいのことを見ていたのだった。
これがもしわざとだったら、るい逆ナン躱すの上手すぎる。
「るい、今の逆ナンって分かってた?」
「は?なにが?」
「あ。ううん、なんでもない。」
やっぱり逆ナンって分かってなかった。俺の知る限りではるいをナンパしようとしてた女の子5組は見てるんだけど。
果たしてるいは、気付いているのだろうか。いや、きっといない。
「どうする?まだ時間あるけど。」
「んー、航どっか行きたい?」
「んーん。特には。あいふぉんがイメチェンできたからすげえ満足。」
「よかったな。俺も0.01ミリ買えたから満足。」
「そんな満面の笑みで俺を見ないで」
「帰ろっか。」
「うん。」
こうして俺たちはちょっと早いが、日が暮れる前に電車に乗って、寮に帰った。
「あっれー?2人出かけてたのー?」
寮に帰ってるいの部屋の前に到着した瞬間、仁が財布を手にし、部屋を出てきた。
「うん、おデート行ってきた。」
「ラブラブですな。るい何買ったの?」
「ないしょ。」
「えっ、なにそれ怪しい!」
「おまえ出かけんの?」
「うん。ちょっと食堂に。」
「じゃあ2時間くらい帰ってくんな。」
「え。」
仁にそう言ったるいに腰に手を回され、るいの部屋の中に俺は押し込まれた。
ちょっと待って、嫌な予感がする。
「はー、さてさて残りの時間は部屋でまったりデートだな。」
「おいおいおい。」
るいは部屋に入った途端、正面から俺の腰に両腕を回して抱きしめてきた。
「外じゃろくに触れねえし。」
「そりゃそうだ。」
「電車の中で航にチューしそうになってまじ危なかった。」
「あ、あのやたら顔近かった時だろ。」
「そうそう。」
「慣れってこわいな。」
「うん。」
頷いたるいは、「チュッ」と俺にキスをした。
「あ、むりだ。」
「なにが?」
るいは唇を離したあと、ジー、と近距離で俺を見つめる。
「…だめ?」
「うん。」
「おねがい。」
俺はこの時思った。
多分この人俺が頷くまで、俺の身体を離さないだろうと。
その後、俺とるいの戦いの幕が開かれた。
27. るいきゅんとおデート おわり
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