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「やることが中途半端なんだよあいつら。」

「同感。るいに構って欲しいのは見ててバレバレだけど、変にビビってるとこあるよな。2号候補らは。」

「…おいおい。なんだ2号候補って。」


候補らってことは複数居るんだよな。
そりゃ矢田も大変だな。
よかった、俺会長の任期終わってて。

…だなんてホッと息を吐いたのは内緒だ。

まあ仁が言うには元凶俺みたいだし、矢田の力になれることがあるなら手を貸してやりたいと思うが。

まあそんなに無いだろうな、俺が矢田にしてやれることは。精々アドバイスしてやれるくらいか。


「その候補らってのは、具体的に言うとどんなことを仕出かしてくるんだ?」


矢田と仁の顔を交互に見ながら問いかけると、仁は「あー…」とそのことを思い返しているように口を開いた。


「まず候補1。廊下で騒ぐ。それもるいが近くに居ることを知った上で。とにかく声がデカイ。るいが『廊下で騒ぐな。』って注意すると、そいつはすぐ『はい!』って返事して大人しくなった。すぐ大人しくなるようじゃまだまだだな。失格。」


「候補2。忘れ物を度々する奴。『教科書貸してー』という言葉を敢えてるいに聞こえるように言うんだ。『お前この前も人に借りてなかったか。』るいがそいつにそう言うと、そいつはしてやったりな顔してこう言ったんだ。『えっバレちゃいましたぁ!?』…バレバレっつーかわざとだろ。失格。」


「候補3。遅刻を繰り返す奴。こいつは始業開始の5分後くらいに、バタバタと派手な音をさせてSクラス前を通るんだ。それもるいのことをガン見しながら。Dクラスの奴がSクラスの前をわざわざ通るあたり確信犯だろ。失格。」


「よし、分かった。仁もういいぞ。」


ほっといたら永遠に話してそうだったので、俺はそこでストップをかけた。


「まだあるんですけどね。」

「矢田が大変なことは分かった。」


わざと不真面目やってるとか、ある意味航より質が悪いな。…んん。いや待て、でもやっぱり航の方が質悪いぞ。だってあいつの不真面目なのは無自覚なんだから。


「そいつらは分かってんのか?航のえげつなさ。あいつは、そいつらがやってること全部一人でやってたんだからな。」

「…まじでそれですよね。だからあいつらは甘いんだ。もっと不真面目気取りたいなら、航のように顔面によだれやら変な形つけて現れろってんだ。」

「ああ、あいつすげえよな。ほっぺたにくっきりルーズリーフの輪っかの形つけてやんの。」

「まじでバカっすよね。なんでルーズリーフのファイルの上に顔乗せんだよって感じだし。」

「それな。しかもよだれのあとべっとりつけてるクセに寝てないとかほざくからなあいつ。」

「ああ、あるある。しれっと嘘ついてんじゃねえよって感じですよね。こっちからしたら嘘バレバレなのに真面目に嘘ついてんだからまじ笑えます。」


「……あのぉ、お二人とも、友岡くんが好きなことはもう十分分かりましたから……。」

「「………。」」


仁の一言で、俺と矢田のあいだには少し気まずい空気が流れた。


「ま、まああれだな。矢田。もう無視して良いんじゃねえか?その、航2号候補ら。わざとらしい態度の奴を叱る必要ねえよ。」

「…ですかね。…まあ、だんだん相手にすんのも面倒になってきたんでそうします。」

「奴ら、それでさらに不真面目に磨きがかからないと良いんですけどねー。」

「……。」


仁の一言で矢田は表情を引きつらせて、固まった。確かにそれも無くはない。


「…まあ、がんばれよ。話ならいくらでも聞いてやるから。」

「…ありがとうございます。」


俺に礼を言った矢田は、コーヒーを一口飲んだあと、「はあ。」とため息をついた。

矢田会長の悩みは暫く尽きないだろう。


「仁、お前も手助けしてやれよ。」

「あー…はい。俺にできることなら。」


その日はそんな話をして、コーヒーを飲み干してから俺は生徒会室を後にした。



その数日後、矢田の様子が気になった俺は、再び生徒会室に顔を出した。


「……はあ。」

「おいおい。」


どうやらまだ解決はしていないらしい。

頭を抱えてため息を吐く矢田会長。


「嫌な予想的中。奴ら、更に不真面目に磨きがかかってしまいました。」


苦笑しながら話す仁。

「どうぞ。」と仁はコーヒーを淹れてくれたので、俺はソファに腰を下ろし、コーヒーに口をつけた。


「聞きますか?候補たちの行動。」

「…んん。…よし、聞こうか。」

「奴ら、るいの目の前で奇行に走るようになりましたよ。」

「…はあ?奇行??」

「ほら、やっぱり側でうるさくされると、るいも気に障って注意するじゃないですか?それが狙いだと思います。それに加えて忘れ物や遅刻ですね。」

「おいおい、そいつらどんだけ矢田に叱られたいんだよ。」


つーかすげえイラつくな、それ。
わざわざ怒られたいから側で騒がしくされるって。そりゃ矢田も頭抱えるわな。


「友岡くんってよくるいの腕で首絞められてるじゃないですか?どうやら奴ら、アレがやられたいそうですよ。前に羨ましいっつってる奴見たことありますし。」

「ほお?でも航曰くあれすげえ痛いらしいぞ。」

「それでもやられたいんでしょうね。」


…なるほど。まあ考えたら痛みさえ我慢するだけで矢田と密着できるもんな。どうせそいつら、矢田と密着したいだけだろ?


まあ。あれだな。わざとらしい奴は相手にするだけ無駄だし、やっぱ無視すんのが一番だろ。


「奴らが納得するまでやらせといて、矢田は奇行にも反応せず無視しとけ。絶対反応すんじゃねえぞ。」


念を押すようにそう言えば、矢田は虚ろな表情で頷いた。相当ストレスがたまってそうだ。

その日もそんな話をして、コーヒーを飲み干してから俺は生徒会室を後にした。


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