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生徒会長矢田 るいは、珍しく頭を抱えて悩んでいた。


「どうした?矢田。悩み事か?」


見兼ねた元生徒会長、黒瀬 拓也が、珍しく頭を抱えて悩む矢田 るいに声をかける。

黒瀬 拓也がたまたま、新生生徒会の様子でも見ようと、久しぶりに生徒会室へ訪れた時だった。


「あ…うす。会長。」

「会長はお前だろ。」

「……ああ。そっすね。」

「おいおい大丈夫かよ。」


やはり、矢田の様子がおかしい。
少し表情が虚ろだ。


「航となんかあったのか?」


一番に思い浮かんだことを問いかけるが、矢田は「いえ」と首を振る。

航じゃない?ならお前が悩むのは何事だというのか。


「…仁、矢田のやつどうしたんだ?」


今度は大人しくデスクに座ってパソコン画面と向き合っていた仁に問いかけた。すると仁は、「ああ…」と矢田に視線を向けながら苦笑したのだ。

どうやら矢田がこうなっている原因を知っているらしい。


仁は作業を止め、椅子から立ち上がり、ホッと一息つくためにコーヒーでも淹れようとコーヒーカップを取り出した。


「るいもコーヒー飲む?」

「…飲む。」

「会長は?」

「あ、うん。もらう。…て会長じゃねえって。」

「あ、そうでした。“黒瀬先輩”。」


仁はふふっと笑って、わざとらしくそう呼んだ。

『会長じゃねえ』と自分では言いながらも、『会長』以外の呼ばれ方をするのはまだ少し慣れないな。と思う黒瀬 拓也であった。


「ほい、コーヒー。」

「…サンキュー。」


仁にコーヒーを受け取った矢田。

やはり、その様子はおかしい。


そう言えば前にも矢田がおかしい時があったのを知っているが、あの時は航が絡んでいた。


今回は航が絡んでいない…?


疑問に思い、矢田に視線を向けつつ首を捻らせていると、「黒瀬 先輩。」とコーヒーカップを2つ持った仁に、ソファへ座るように促された。


「友岡くんって凄い不真面目じゃないですか。」


俺と向き合ってソファに座った仁は、そんなことから話し始める。なんだ?やっぱり航関連じゃねえか。と思いながら、コーヒーを啜り仁の話に耳を傾けた。


「でも最近はかなりマシになってきたって聞きますよね。」

「あ?…ああ、まあそうだな。」


それがどうかした?航がマシになってきたのなんて、俺が会長やってる時からの話だ。それを何故このタイミングでわざわざ取り上げられるのか。

なかなか話が見えず、だんだんイライラしてきた時に、仁は言った。


「それで、これが問題なんですけど、…友岡くん2号になろうとしてる生徒が増えてきたんですよ。」

「……は?」


なんだって?

ちょっと意味が分からんのだが。

ちゃんと説明しろよ、仁。という思いを込めて、眉間に皺を寄せ、仁をジッと見つめると、仁は「いやいや。だから。友岡くん2号。」とまた同じ台詞を吐くだけだった。


「友岡くん2号だあ??まったく意味が分からんぞ。」


航は1人しか居ないし、だいたい航の2号って言ってもそいつが航になれるわけじゃねえし、そもそも何故航になりたがる。


「えぇ、ちょっとは考えてみて下さいよぉ。そもそも事の元凶は黒瀬先輩じゃないですかぁ。」

「はあ???」


いやいや。何故俺が事の元凶扱いされねばならんのだ。ますます意味が分からなくなってきた俺に、仁は「もー。だからぁ!」と言いながら机を叩いた。

なんだこいつ、えらくデカイ態度取るようになったじゃねえかよ。まあそんなこと今はどうでもいいけど。


「不真面目になってるいに構ってもらおうって魂胆ですよ!!!つまり!不真面目な生徒が増えてきたってわけです!」

「…ああ、なるほど?」


熱くそう説明した仁により、ここで俺はようやく矢田が頭を抱えて悩んでいる原因を理解した。


「あ、だから最初に不真面目な航に目をつけた俺が元凶ってか?お前なかなか言うようになったな。」

「ふぎゃ!!!!!」


副会長になったからか、少し生意気になった仁の顎を掴むと、面白い顔になった。


「すんましぇんすんましぇん!」


ここで素直に謝るあたり、仁はまだ可愛げがあるが、あいつはそうはいかなかったな。…と少し前のことを懐かしく感じる。


あいつはそりゃもうクソ生意気だった。


「まああいつほどのクソ生意気な生徒が現れたのなら、矢田も容赦なく叩きのめせば良いんじゃねえか?」

「…あいつほどの生意気な奴はいませんよ。」


仁の顎から手を離して、矢田に視線を向けて言うと、矢田はため息まじりに口を開いた。


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