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【 file7:るいと、航の周辺 】


基本的に2年Eクラスの奴らはノリが良い。と言ってもそれは悪ノリが多いが。まあ元気でうるさい。

そして近頃、2年Eクラスの教室には頻繁に生徒会長 矢田 るいが出入りしている。

奴らはその度テンションを上げる。

やはり今日もイケメンだ。


「矢田くん今日もイケメンっすね。」

「航は?」

(あ、シカトされた。)

「ベンジャミン行ってます。」

「ふうん。」

(あれ?通じてる…?)


ベンジャミン…それは辞書で調べたら植物かなんかのことだった。よくわからんが多分。

しかし誰かが『便所へ行く』と言うことを『ベンジャミン行ってくる』と言い出したことから、俺たち2年Eクラスのあいだでは便所=ベンジャミンになってしまっている。


……あ。そうか、言い出したの航か。

どおりで矢田くんにも通じるわけだ。


「航になんか用でした?」

「英語のノート貸しに来た。」

「渡しときますよ?」

「あとちょっと待って帰って来なかったらお願いしていいか?」

「はい喜んで!」


どうやらできれば直接渡したいらしい。

いや、単に航に会いたいだけか。

まあとにかく矢田くんと自分がこうして会話が続いていることは誠に光栄なことである。


「矢田くん俺にもノート貸してくださいよ〜。」


せっかく矢田くんと一対一で会話をしていたのに、ひょっこり自分と矢田くんの間に日下部が現れた。


「はあ?お前勉強すんの?」

「しますします。」

「真剣にやるっつーんなら航のあとに貸してやるけどお前の場合どうも嘘くせえ。」

「真剣なので航の前に貸してください。」

「おことわり。」


まあそりゃそうだろうな。日下部一体なに言ってんだか。やけに真剣な顔で言った日下部にきっぱり告げる矢田くん。

しかし日下部は「矢田くんのケチ〜」と言いながらしれっと矢田くんの二の腕をつついている。

分かったぞ、こいつ単に矢田くんと絡みたいだけだ。

しかしそんな日下部に矢田くんは、「人の二の腕ぷにぷにすんな!」と持っていたノートで日下部の頭をパシンと叩きつけた。


「痛い」と言って頭を撫でる日下部だが、とても楽しそうな顔をしている。


近頃航の周辺のやつらは、ちょっぴり矢田くんと仲が良い。


日下部と矢田くんがそんなやり取りをしている最中、航が教室に戻ってきた。


「あぁ?クソカベてめえさては俺が居ない間にるいのこと誑してたな?」

「おう。まあな。」

「あほか。クソカベの言語力じゃ人を誑し込むにも無理があるだろ。」

「確かに。」


矢田くんに真面目なツッコミをされた日下部に、日下部は少し肩を落とした。ごもっともすぎて笑えねえな。いややっぱり笑える。


「あ、ノート持ってきてくれたの?るいきゅんやっさしー愛してるーチュ。」

「航うぜえええええ!!!」


堂々と矢田くんのほっぺたにキスをした航に、周囲はブーイングの嵐である。

しかしそのブーイングにもへこたれないのが航で、航は「はっはっは」と愉快そうに笑っている。


ところで、ほっぺたにキスをされた矢田くんはどういう反応をしてるのかと思えば、ちょっと不満そうに口を尖らせていた。


「航くんダメだろー?」


人前でそのような行為はよせ、というような意味なのかと思いきや…


「ムラムラすんじゃん。」


……全然違った!!!


「バカップルうぜええええ!!!」


やっぱり周囲からは、ブーイングの嵐だった。


file7:るいと、航の周辺 おわり

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