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グループトークのメンバーは、クソカベ、モリゾー、村下、大橋、なっちくん、俺を含む6人だ。
スマホをるいに奪われて暇な休み時間を過ごしていた俺は、騒がしい教室内で机に伏せて目を閉じる。
いつものように奴らはあれこれ写真を送りつけあったりして、その場で会話すれば良いものを、集まりはせず各々の席に着いてグループトークで文字を飛ばし合っているのだろう。
そう思っていると、クソカベの「は!?航寝てんじゃん!!」という驚いたような声が聞こえた。
うん、俺寝てるけど。それがなにか?
顔を上げずに教室内の様子を窺っていると、「うわっ誰!?これ打ってるの誰!?」という焦り混じりだが少し楽しそうな声がする。
なんの話をしているのかよく分かっていなかった俺だが、教室内からは突然「「「「「うわあ!!!!!」」」」」というとても驚いた声が聞こえたから、こっちが驚くわぼけ、と思いながらのっそり顔を上げると、顔面を真っ青にしたクソカベとモリゾーと村下と大橋となっちくんが俺を見ていた。
「なになにどしたのー?えっなにこれ矢田くんの写真じゃん!えっ超不機嫌そうだけど超かっけえ!いいな、これちょうだいよー」
固まっているモリゾーに、クラスメイトが話しかけているが、モリゾーが持つスマホ画面を見たクラスメイトはそんなことを言っている。
俺は話がよく理解できず、「ん?」と首を傾げていると、「航スマホは!?」とクソカベが俺の元に駆け寄ってきた。
「さっきるいに取られたから今ねーよ。」
そうクソカベに伝えると、クソカベは「早くそれ言えよおお!!」とやや泣きそうな声で言ってきたから、「あーうんごめん」と適当に謝っておいた。
「でもまあこの写真は保存しとくけどな。」
「ん?どの写真?」
「どれでもいいだろ。」
「うわ、クソカベうっぜ。」
*
放課後るいに生徒会あるのか聞こうと思ったが、そうだ俺今携帯持ってなかった。
どっちみち帰る前にるいのところに行かねばならんな、と思っていると、放課後るいから俺の元に来てくれた。
しかし俺の元に来る前にクソカベの姿を見つけたるいは、クソカベの元へ歩み寄り、「おいクソカベ」とクソカベに話しかけていたから、クラスメイトは皆なにごとかとそちらをまじまじと窺っている。
「はっはいなんでしょう!」
クソカベは焦って背筋をピンと伸ばしながらるいに問いかけた。
「お前ら毎日随分楽しそうなグループトークやってるんだな。」
「…アッ、あはは…!」
「これ授業中もやってんだろ。」
そう言ってるいは、俺のスマホを取り出した。
「え、ええ〜…?」
「えーっとなになに?9時45分、【 英語だっりぃな 】9時46分【 同感 】9時50分【 航超まじめ。しね 】…へえ、航が送ってんのは休み時間だけなんだな。まあ当然だよな、この時間授業中だし?」
「あっ、あはは…」
「あれ?そういやここ何クラスだっけ?…あっ、Eか!1番勉強がんばんねーといけないEクラスだったな!まーさか携帯なんかいじってらんねえよなあ?Eクラスのバカがさあー?」
「そっ、そおっすよね…!」
「だよなァクソカベくん?
……分かったらお前、明日から携帯いじってんじゃねえぞ。」
「うっす…!!」
るいに顔面をグッと近付けられ、近距離で睨みつけられているクソカベは、るいの言葉に涙目の笑顔を浮かべて大きく頷いた。
その後るいは、クソカベから視線を逸らし、俺の元へ歩み寄ってくる。
「航、帰ろーぜ。」
そしてにっこりと笑ったるいが、俺にそう声をかけてきた。まっ、まただ…!これには何か裏があるはずだ…!
るいが笑みを浮かべている時は、裏があると決まっている。
「今日は生徒会ねえの?」
最近は結構生徒会が忙しそうで、一緒にいる時間が少し減っていたから、俺はるいにそう問いかけると、るいは「うん、今日はもう帰れる。」とにっこりと笑っていうもんだから、俺はやっぱり絶対裏があるな、と、笑顔のるいの様子を「ふうん」と頷きながら窺った。
「あ、そうだ。携帯もう返してよ。」
そろそろ返してくれてもいいだろ?とるいに手を差し出すと、るいは無言で笑みを浮かべながら、スマホを返せ、という意味で差し出していた俺の手に指を絡めてきた。
「いやいや。携帯。」
「まだ1日終わってない。」
「いやおかしいだろ。」
俺の手を繋げば許されると思ってんのか!?まあ許しちゃうけどな!俺はるいから手を繋がれることに多分弱い。だって嬉しいから。
「まあいいや。」
スマホは諦めて、俺はるいと手を繋いで帰路に着く。やっぱりるいはいつもよりちょっと表情が緩く、そして繋いだ指をトントンと俺の手の甲にリズム良く打ってくる。
うわなんだこれまじむず痒。
チラ、とるいの顔に視線を向けると、その俺の視線に気付いたるいが「ん?」とご機嫌な様子のるいに見つめられたから、俺は何も言わずに顔をまっすぐ前に戻した。
……今日のるい、やっぱ変だ…!!
「…るいなんか良いことでもあった?」
「ん?良いこと?」
「うん、良いこと。」
頷くとるいから「うんまあ。」という返事が返ってくる。うわ、良いことあったんだ。なんだろう。気になる。
「なに?良いことって。」
「ん?気になんの?」
「うん。」
「じゃあ内緒。」
「いやいや。」
そこは言うところだろ。内緒、と言われればますます気になるもので、るいにあった“良いこと”がなにか考えていると、るいは「部屋来るだろ?」と聞いてきたから、俺は「うん。」と頷いた。
それから俺は、学校から2人でるいの部屋に帰宅した。
“良いこと”は教えてくんねーのかよ。
気になればなるほど気になる。
気になる気になる気になる!!!
俺は無言でジトリとした目をるいに向けた。
「ん?なんだよ。」
「べっつにぃ?」
「べっつにぃ?って顔じゃねえけど。」
制服のシャツからTシャツに着替えたるいが、ベッドの上に座っていた俺の顔をベッドに手をついて覗き込んできた。
「…良いことってなに。」
ボソリと気になっていたことを問いかけると、るいは「あ、それ気になってたんだ」と言ってクスリと笑った。
そしてその直後、「チュッ」と触れるようなキスをしてきたるいは、ほんの一瞬唇が触れたあとにこりと笑って俺を見る。
だからなんなんだよこのむず痒い空気!!俺そろそろ死ぬんじゃねえの?だってるいがこんなに笑みを浮かべて、俺にベタベタくっついてくるのには絶対に裏があるだろうから。
「貴様、なにをたくらんでいる?」
「ん?たくらんでいる?」
「たくらんでんだろ!!」
「おいどうした。」
お前がどうした!!!!!
俺はおかしなるいをまじまじと見つめた。
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