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「航、……と会長?」
生徒会後の矢田が、どうやら航を迎えに来たようだ。
航の隣に腰掛けている俺を、矢田は少し不審そうに窺ってくる。
「おー矢田。会長はお前な。」
ってこのツッコミ入れるの何回目だ。
いまだにいろんな人から会長、会長と呼ばれるが、そろそろ慣れてくれないだろうか。まあ別にいいけど。会長で。
「なにしてたんすか?」
「本読んでたらすげえ場違いな奴現れて、本読む気失せてこの通り。」
「…そうですか。航、ごめん遅くなった。」
「んーいいよー帰るかー。拓也は?」
「俺もそろそろ帰るかな。」
「………。」
早くも俺の名前をサラリと呼んでいる航に反応したのか、矢田がまじまじと俺と航の様子を窺っている。その眉間には深い皺が寄っているのと、ちょっとムッとしている気がしないでもない。
分かりやすく反応している矢田が面白くて、航のほっぺたをムニムニと触りながら立ち上がると、矢田はやっぱりそんな俺を、不機嫌そうに見てきた。
「なにすんだよ!」
「航のほっぺた餅みたい。」
「やだー!やらしい目で俺のほっぺた見てんじゃねえよ!」
「なんでやらしい目でお前のほっぺた見るんだよ。」
言ってることが相変わらずすぎて、笑いながら航のほっぺたを引っ張ると、矢田の表情はどんどん険しくなっていった。
矢田ってこんなに分かりやすかったっけ?と思いながら、「まあ確かにうまそうなほっぺただけど」としれっと航のほっぺたに唇を寄せてみると、その瞬間矢田は目を見開きながら航の首根っこを引っ張って、席から立たせた。
「ぐえっ!!!」
首が絞まって苦しそうな声を出す航を、矢田は放り投げるように手を離す。
おいおい乱暴だな。と思っていると、矢田は航の鞄の中に筆記用具や教科書をしまい、鞄を手に取り航の方へ投げつけた。
おいおい乱暴だな。
「さっさと帰るぞ。会長、お先に失礼します。」
いやだから会長はお前だって。
……ってまあいいか。
「おら、早く立てよ。」
「ぐえっちょ、苦じぃ…っ、あ、拓也またなーっぐわっ!!」
床に転がっていた航は矢田に胸倉を引っ張られ、鞄を持たされながら、俺の方へ振り返り、手を振ってきた。
が、その瞬間航の首に矢田の腕を回され、ズルズルと引きずられながら帰っていった。
一人そこに取り残された俺は、なんとも言えない微妙な気持ちになりながらも、矢田はなかなかに嫉妬深いやつだな。と先程の矢田の歪んだ表情を思い出すと、ちょっと笑ってしまいそうだ。
いつの間にあいつ、あんなに航のこと好きになってたんだ?と少し疑問に思いながらも、まあそれは自分のことにも当てはまるか。とひっそりと苦笑し、「帰るか。」とその後俺も鞄を持って、一人図書室を後にした。
file3:航と黒瀬拓也のその後 おわり
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