file3-おまけ [ 68/188 ]

「お前会長と何の話してたんだ?」


図書室を出て、帰路につく俺とるいだが、るいは不機嫌そうな顔で俺に問いかけてきた。


「んー、何話してたっけ?」


実はあんまり覚えてない。

くだらねえことばっか話してた気がする。


「あ、思い出した。黒瀬先輩って呼ぶか拓也先輩って呼ぶかたくやんって呼ぶかたっくんって呼ぶかたくちゃんって呼ぶかの話をしてた。」

「はあ?なんだそれ。んでなんでお前、“拓也”なんだよ。」

「最初拓也先輩って呼ぶことになったけど、そしたらやっと俺を敬うようになったな。とか言われたからつい反抗心で。」

「……はあ。ダメだからな。」

「ん?なにが?」

「……拓也って呼ぶの。」

「え、なんで?」


ため息混じりのるいは、ムッと唇を尖らせて俺を見る。その顔は怒っているようにも見えるから、俺はなんとなくスッとるいと距離を取った。


しかし、そしたらるいは眉間に皺を寄せ、更に怒ったような表情を浮かべた。

俺の首元にるいの手がにゅっと伸びてきて、うわ、胸倉掴まれる!?と思いきや、その手はするりと俺の首に周り、首に腕を回された状態で身体を引き寄せられる。

まるでるいに肩を組まれたような状態で「いいか?よく聞け」とるいは話し始めたから、俺はうんうん、と頷いた。


「あの人がどれだけ生徒から憧れられて、尊敬されてると思ってんだ?お前だって一回痛い目合っただろ、そんな人にお前、“拓也”なんて呼んでみろ、また痛い目に会っても知らねーからな。

黒瀬先輩だ、それ以外は禁止。」

「あれ?るいすっげー自分のこと棚に上げて言ってね?憧れられて尊敬されてるの、あなたもですよー?それじゃあるいのことは矢田くんって呼ぶことになるけど。」

「俺は良いんだよ。でも会長は絶対ダメだからな。」


るいは俺の首から腕を離して、ジトリと俺を見つめながら念を押すようにそう言って、スタスタと歩いていってしまった。


しかし数歩歩いたところで振り向き、「ああもう!」と何故だか苛立った声を上げたるいは、俺がるいの元にたどり着くまで立ち止まっており、るいの隣にたどり着いたところで、俺の手を取って歩き始めた。


俺はそんなるいのことをジッと見つめ、徐に口を開く。


「るいって結構俺のこと好きだよな。」


そう言った俺に、るいは無言で俺に視線を向けてくる。俺も無言でるいを見たから、見つめ合いながらてくてく歩く。なんだかちょっと面白い。


数秒後の沈黙を経て、ようやくるいが口を開いた。


「……お互い様だろ?」


意外な返答である。
俺は少し調子に乗った。


「ってことは俺がるいのこと好きってくらい、るいも俺の事が好きってこと?」

「……そうなんじゃねえの?」

「ってことは、るいって相当俺のこと好きだな。」


何故なら俺が、るいのことを相当好きだから。


俺の発言に、るいは暫し考えるように黙り込む。

「ん?」と顔を覗き込むと、チラリと俺を見たるいは、素早く「チュッ」と俺の唇にキスをして、すぐに顔を離した。


「あらー!あららららら!やだー!いやぁねるいきゅんったらー!なにいまのーマジ照れるんですけどぉー」

「航くんおばはんみたいな反応しないでくれますかー。」

「オバハンて。オバー・ハンか。」

「なんだよオバー・ハンって。」


るいの口からオバハンという言葉が出るとはな。こりゃ全国のおば様たちも自信を持って我はオバハンと言えるだろう。


「熟女の別名オバー・ハンだよ。」

「あーもう意味分かんねーわ。航くんもうこの話し終わりな。」

「うん、分かった。」


俺とるいは、仲良く手を繋いで帰宅した。


file3:航と黒瀬拓也のその後
おまけ おわり


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