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「おお、るい。今りとボーイと親睦を深めていたのだよ。」

「だからきめえ呼び方すんなや!!」

「りとボーイ口悪いね、さすがるいの弟。いやるいのが全然マシだけど。」

「航にマシとか言う言葉使われんのなんかムカつくわ。」

「まあまあそれはさておき。あなたの弟俺よりゲーマーだよ?知ってた?ガチ勢だぜ?るい、ちょっと弟の学校生活覗きに行った方がいんじゃね?こいつ絶対不真面目だって。多分俺より。」

「お前はどうせ不真面目のバカだろ一緒にすんな!」

「うわ、バカなのバレてるし。るい弟に俺がバカなのチクった?」

「あほ。お前がバカなことなんか一言会話すればすぐバレるっつーの。」

「あマジで?まあいいや、りとボーイフレンドになろうぜ。」

「誰がお前みたいな低ランカーとフレンドになるか。」

「うわ、高ランカー様ひでえな。るいにーちゃんからなんか弟に言ってやってくれ。」

「…はぁ。」


まったく話についていけねー。
こいつまじで野放しにできねえな。
ちょっとトイレ行かせただけでこれかよ。


「ん?るいにーちゃんどしたのかな?」

「…はいはい、もう部屋帰るぞ。」


航はため息を吐く俺の顔を覗き込んできたから、航の首に手を回し、椅子から立たせて歩かせた。


「ん?なんかおにーさん疲れてます?おーい、おにーさーん?」

「ああ疲れてる疲れてる、もう寝ようぜ。」


そう言いながら航を部屋へ連れて帰る俺の背後では、普段兄妹喧嘩ばかりしているりととりなの珍しく普通の会話が聞こえてきたが、俺は聞かなかったことにした。


「……兄貴のダチつえーな。あの兄貴がなんかガチで疲れた顔してるぞ。」

「航くん面白いよねー。もっと仲良くなりたいなー。」

「あ、お前ひょっとして惚れた?」

「えっ!ま、まだそんなの分かんないよ!」

「“まだ”?」

「あーっりとうざっ!りなももう寝よーっと」





せっかくるいお兄ちゃんが家に帰ってきているのに、俺が邪魔しちゃ悪いな、と思って珍しく空気を読んでるいの部屋を出ていた俺が、再びるいに部屋へ連れ戻された頃にはもう夜の10時前で、るいは俺用の布団をるいのベッドの隣に敷いてくれた。


「は〜、るい宅お泊りたーのしーい!」


るいの家に来てからあっという間に夜が来てしまった。俺はまだ寝たくないけど、布団に寝っ転がりながら、枕を抱きしめて叫ぶ。


「あっ、明日はさ、ホラー映画借りてきて夜に見ようぜ。」


そして、楽しい気分でやや興奮気味な俺は、良いこと思いついた!と身体を起こし、すぐさまるいに提案する。


「あーまあいいけど。」

「るいホラー系いけんの?」

「苦手ではない。」

「よしよし。いいぞ。俺はね、見たがりの怖がりだからるいを盾にして見る。」

「へえ。……あ、」


ん?なんだなんだ。

突然るいは何か思い出したかのように部屋を出て行った。

すぐに部屋に戻ってきたるいは、ニッと笑いながら1枚のDVDを俺に見せてくる。

あらやだ、それは……ホラー映画!


「りとが持ってた。見るか?」

「ちょっと待て、まずはあらすじをだな…、」

「だーめー。」


……な、なんだ今のお茶目なるいは!

DVDケースの裏面に書かれたあらすじを読もうとるいが持つDVDケースに手を伸ばすが、るいはそれを高く上げて、ひょいと俺の手から遠ざけた。

俺は今ホラー映画よりも恐怖を感じた。


俺は無言でジッとるいの様子を窺う。

そんな俺の視線に気付きながらも、るいはDVDプレイヤーにディスクをセットして、リモコンを持ったまま部屋の電気を全て消してしまった。


「えっ消すの!?」

「あたりまえ。」


あたりまえなのか!?…いや、あたりまえかもしれない。うん。ホラー映画を見るときは部屋を暗くして、テレビから離れて見てねって注意書きがあったようななかったような。いやそれはねえな。うん。…やっべ、ドキドキしてきた。


見たがりの怖がりというのは非常に厄介な性質なのである。何故なら、ホラー映画は見たくてたまらないのだ、でも怖い。怖いけど、見たい。特に悲鳴をあげるほどの恐怖シーンも、見たくて見たくてたまらないのだ、けど怖いものは怖いのだ!!!理解して頂ける方は居られるだろうか、この面倒な性質のことを。


「うわっ!!!!!」


えっちょっと待っていきなりくんの!?いきなりそういうのではじまんの!?

俺は映画が始まって僅か3分ほどで現れたホラー映像に、驚きの声が漏れ、枕を抱きしめた。


青白い顔をした女の幽霊がテレビ画面にでかでかと映ったにも関わらず、ベッドの上で胡座をかいで平然とした様子でテレビを眺めているるいは、本人の言う通りホラー映画が苦手ではないらしい。


「…え、今の怖がるシーンか?」


驚きの声を上げてしまった俺に、るいはふっと笑い混じりに俺を見てきたから、俺は初っ端から恥ずかしい気持ちになったのであった。

まるで俺がビビりみたいになっているが違うぞ。この映画はあれだ、まず最初に視聴者をビビらせてから始まるパターンの映画だろこれ。やらしいな。


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