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「そろそろご飯できるからね」と言う輝かしい笑顔を浮かべたるいママの背後から、風呂上がりでパンツ一丁のヤンキーがぬっと姿を現した。

ヤンキーは濡れた髪で冷蔵庫の中を覗いている。


「手前にあるコーラ、りなのだから飲まないでね。」


冷蔵庫を覗き込んでいるヤンキーにすかさずそう告げるりなちゃんだが、ヤンキーは「あ、これ?」と言ってニヤリとした笑顔でコーラを手に取ってしまった。

俺はそんなヤンキーに、あ、これは飲むだろうな。と瞬時に感じて、「あーっ」とヤンキーに向かって指を差しながら声を上げた。


「は?なに?」


立ち上がってずんずんヤンキーに向かっていった俺を、ヤンキーも、そしてるいとりなちゃんとるいママも、みな同じように俺を不思議に見つめるなか、俺はヤンキーの目の前までたどり着き、そのコーラを無言でスッと奪い取った。


「は?」


コーラを奪われキョトンとしているヤンキーだが、俺はそれをせっせとりなちゃんの元へ持っていき、「名前名前、ここに油性マジックで名前書いて、飲んだら罰金1000円って書かねーと飲まれる。これまじ、体験談。」

「う、うん…!」


俺の言葉にりなちゃんは頷いて、油性マジックを持ってきて、【 りなのコーラ 飲んだら罰金1000円 】とペットボトルに書いていた。

うむうむ。満足気に頷く俺に、るいが目の前で手で口を押さえて肩を震わせて笑っている。


「兄には分からんのだよ、この悔しさは。俺が何度自分のもんだと言っても『は?んなら名前書いとけよ』とか言うくせにいざ自分のもんが俺に食われたら頭殴ってきやがるんだからな。理不尽すぎんだろ、なあ!りなちゃん!!」

「うん!!そうだよ!!理不尽なんだよ!!自分はりなに食べられたら怒るくせに、りなには名前書いてないからとか言ってあたかも自分の物のように食べるんだからね!まじムカつくよね!」

「でもな、りなちゃん。これでもしこのコーラ飲まれたら、このたった数百円のコーラが1000円になって返ってくるよ。ってことは?名前書いときゃ儲けもん!俺それでにーちゃんに漫画買ってもらったことあるからこの手は使える!」

「うっそ、ほんと?でもあいつまじなクソだよ?金払うかな?言い訳してきそう。」

「いや、案外名前書いときゃ飲まれねーんだけどな、自分で名前書けっつったんだからな。でもその名前に気付かず飲んでしまった時、にーちゃんは意外と下手に出る。」

「ふんふん、なるほど!」

「ヘタな言い訳し出したらもう片手出して、無言で金払うの待ってりゃいいんだよ。」

「うわ!超いい事聞いた!航くんありがと!!!その手使う!!」


俺に礼を言ったりなちゃんは、立ち上がり冷蔵庫の元まで行き、ヤンキーを嘲笑いながら、りなちゃんのらしきアイスやゼリーに名前を書いていた。

やっぱりそんな光景に、るいは肩を震わせて笑っていた。





「兄貴のダチなんなんだよ。」


部屋から持ってきたTシャツを着ながら、りとはテレビを見ながらあれこれとりなと会話をしている航に、少し苦笑しながら目を向けた。


「残念だったな、りなのコーラ飲めなくなって。」

りとに笑いながら返事を返せば、りとは舌打ちしながらイラついたように、テーブルの椅子に座って携帯をいじり始める。

正直、航の言動に唖然としているりとには物凄く笑えて仕方なかった。俺もソファーから立ち上がり、りとの正面に座ると、りとは不機嫌そうに俺に視線を向けてくる。

りとが不機嫌そうに俺を見るのなんて、いつものことだ。


「いつまで家いんの?」

「明後日まで。お盆に俺だけまた帰ってくるけど。」

「は?なんでわざわざ2回に分けて帰ってくんだよ。」

「あいつが俺の家族見たいとか言い出したから。」

「兄貴のダチ?」

「うん。」

「うーわ、絶対りな目当てだろ。多いんだよ、あいつ目当てで家来たがるやつ。」


りとは心底うざったそうにそう語る。
しかし航はどうだろうか。

航は違う、と言いたいが、言えないのが現状。航はりなに会ってから、りなに構ってばかりだから。

チラリとテレビを見ながら会話をしている二人に視線を向けると、会ってからまだ数時間しか経っていないのに、すっかり打ち解けた様子を見せる航とりな。


「…仲良くなってるし。」


ボソリと呟くと、りとはかったるそうにしながら「ハッ、まああいつもそろそろ男作ってお兄ちゃん卒業しろってことで良い機会かもな」と鼻で笑いながらそう言って、テーブルに置いてあるから揚げをつまみ食いした。

冗談だろ、勘弁してくれよ。

俺はそんなつもりで航を家に連れて来たんじゃねえぞ。

航が俺の家族を見たい、って言うから、じゃあ俺も母さんに「高校の友達できたら連れて来てね」と言われていたのを思い出して、良い機会だから、と思って航を家に招いただけなのに。

まさかりながあそこまで航に懐くとは思わなかった。

小中学生の時は俺が一番仲が良かった時人(ときと)とちょこちょこ会話をしていたりなだが、それも俺を交えて3人で会話する、って感じで。2人で楽しそうに、っていうのはあまり無かった気がする。

それが相手が航に変わるとどうしたもんだ。予想外な展開に、俺は少しばかり戸惑ったのだった。



夕食は母さんが張り切ったせいで満腹になった。航ももりもりご飯を食べていたから、母さんはとても嬉しそうだった。

ふう、と満腹そうに腹を叩いている航だが、そんな時「お母さんデザートにゼリー作ったの!食べれる!?」と母さんが冷蔵庫からゼリーを取り出してきた。

そんな母さんに「うわ、俺今は無理」と言うりとに、「りなあとで食べるー」と言ったりなに、母さんは明からさまに落ち込んだように肩を落としたが、航だけが「ゼリー!!るいお母さまの手作りゼリー!!頂いてもよろしいのですか!!」と嬉しそうな笑みを浮かべたから、母さんはとても嬉しそうに頷く。


「お前食えんの?無理すんなよ。」と声をかけるが、「ゼリーは別腹。」と航はスプーンでゼリーをすくいはじめる。

空気を読んでいるのか、本気でゼリーに喜んでいるのか分からない奴だが、母さんはほんとに嬉しそうにゼリーを食べる航を見ていた。


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