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こうして、るいより先にお風呂に入らせてもらった俺だが、風呂に上がったらるいの部屋ではなくリビングのソファーで待っとけと言われたから、風呂上がりのスッキリした気分でテレビを見たり、夕飯を作っているるいの美人ママと会話したりして楽しんでいた。

するとそんな中、『ガチャ』と玄関の扉が開く音がした。


「あーあっちー、母さんタオルとパンツ出して。風呂風呂風呂ーあー汗きもぢわりー。」


ドタドタと騒がしくリビングに顔を出したのは、ド派手な金髪をしたヤンキーだった。


「あ、りとおかえり。今お兄ちゃんお風呂入ってるからもうちょっと待って」

「はあ?兄貴帰ってんの?…つか誰それ?」

「お兄ちゃんの友達の航く〜ん。」


ヤンキーは部屋に入ってくるなり俺の存在に気付き、じろっと俺に視線を向けてきた。うわ、ガチヤン………ひょっとするといやひょっとしなくても…


「…るいの弟?」

「そうだよー、驚いた?お兄ちゃんと全然似てないでしょーこいつクソだからね。」

「は?お前に言われたくねーよクソブタ。」


……!?

このヤンキー、天使のようなりなちゃんに向かって『クソブタ』っつったぞ!?どういう神経してやがる…!?


「うるさいブタじゃないっ!」

「あーわりー、ウシだった?」

「もうウザいな!黙っててよ!」

「は?お前が言い出したんだろ。」


なんてこったパンナコッタ!!
さっそくこの兄妹口喧嘩し始めたぞ!?

口をポカンと開けてその兄妹喧嘩を眺めていると、ヤンキーはりなちゃんに向かってティッシュの箱を投げ付けた。


「キャ!痛い!!!こいつまじ最悪!」


そう言ってりなちゃんも、ヤンキーに向かってソファーにあるクッションを手に取り、ヤンキーに向かって投げつける。


「キーキーうっせえんだよ!部屋行ってろ!」


しかしクッションを受け止めたヤンキーは、そう言ってまたクッションをりなちゃんに向かって投げ付けたと思ったが、そのクッションは見事に俺の顔面めがけて飛んできた。


「ぶへっ」

「わ!!りと最低!航くん可哀想!」

「あーどーもすんませーん。」


謝る気ねえだろこのヤンキー!!

顔面にクッションが当たったことにより、ずるりとソファーから身体がずり落ちそうになっていたところで、「なんの騒ぎだと思えばお前か」と風呂上がりのるいがヤンキーの背後に立っていた。


「お前金パかよ。」

「うるせえな、気分転換だよ!」

「学校始まったらちゃんと染め直せよ。」

「わかってるよ!いちいちうるせえな!」

「うわ、しかもピアス。お前何目指してんの?不良?」

「気分転換だっつってんだろ!!」

「羽目外して警察のお世話になんなよ。」

「なんねーよ!!あーもう!!風呂入ってくる!!母さんタオルとパンツ置いとけよ!!」

「そんくらい自分でやれ」

「ああもう!!うるせえな!わかったよやればいいんだろやれば!?うっぜえな!!」


ヤンキーは苛立ちをあらわにしながらそう言って、リビングを出て行った。ヤンキー、兄には敵わず、か。


「あはは、りとざまあ!」


りなちゃんはケラケラと楽しそうに笑っている。なるほど、これがるいの家に来た時に聞いた、りなちゃんを苛める弟か。


「るい。…つまりるいは俺に妹がいたら、ああなるって言いたいのか?」

「ん?…ああ、そうそう。」

「俺そこまでひどくねえけど!?」


びっくりするわ!あの弟、りなちゃんにティッシュの箱投げつけたんだぜ!?

るいママも妹も予想通りな感じだけど、弟は予想外だったわ!!まさかあんなヤンキーだなんて!!まあ悔しいけどイケメンなところだけは予想通りだけどな!!!


「まあ確かにそうだな。今となってはあいつのクソっぷりはお前以上かもしんねえわ。」

「おいサラリと俺のこともクソ扱いすんな。」

「まさか金髪になってるとは思わなかったわ。」

「そしてシカトか。おら泣いちゃうぞ!」

「りと夏休み入ってそっこー髪染めてたよ。ピアスは高校入ってすぐつけはじめて先生から注意受けたみたい」

「おい弟俺より不真面目じゃねーか!」


俺はるいにちょっと前のクソガキとか悪ガキとか言われていた頃のことを思い出しながら言うと、るいは明からさまな苦笑を浮かべた。


「え、航くん不真面目なの?」

「んーん?おたくのおにーちゃんにこっ酷く注意受けたから今は超真面目だよ?」

「超真面目ってのは頭の成績良くしてから言ってくれ。」

「あはは、やっぱり航くんってバカなんだ。」

「ちょっとりなちゃん!?やっぱりってなんだ、やっぱりって!!」

「えー、だってなんとなくこの人バカなんじゃないかなって思ってたから。」

「っくう!そんな可愛い笑顔でそんなこと言っちゃって!クッソ、許してしまいそうだぜ!」

「ほら、なんか発言がバカっぽいよね。」


おいおい、りなちゃん可愛い顔しておにーちゃんと似たようなこと言ってくんな。さすが兄妹か。

りなちゃんとそんな会話をしていると、るいがソファに座る俺の身体をグッと奥へ押してきて、その俺の隣に腰掛けた。


「でもさあ、そんなバカな航くんとお兄ちゃんがどうして仲良くなったの?きっかけは?」


……あ、りなちゃんもう完全に俺のことはバカ扱いね。いいけど別に、慣れてるし。慣れってこわ。


「そういやどうしてだっけ?」

「さあ。」

「あ、俺が生徒会室で一泊した時?」

「は?あれはねーわ。あんとき俺お前のことまじで気に食わなかったからな。」

「そうなの?航くん前はお兄ちゃんに嫌われてたんだ!」

「いや、俺もるいのこと矢田クソ野郎って呼んでたからお互い様だな。」

「は?呼ばれた覚えねーけど?……あ、なに。内心で?へー?あーそうなんだ?」


げっ…!

俺今すんげえ要らんこと言ったよな。

俺の発言に、るいの周りには黒いオーラを纏った気がした。ニッ、と口角が僅かに上がっている気がする。この時のるいは非常に危険だ、と察知し、俺は正面のりなちゃんが座るソファーの方へ逃げようとスッと立ち上がった。

…が、逃げる前に肩に腕を回されてしまった。


「あれぇ?航くんどしたのかなぁ?」


こわ!!これはこわいわ!!


「いや、べつに…」

「矢田クソ野郎ねえ?……誰のことだって?ん?」


俺の肩に手を回してくるるいは、そのまま手を俺の顎まで回してガシッと顎を掴まれた。

そしてその手でにゅっとアヒル唇にさせられた俺は、その顔のまま正面に座るりなちゃんと目が合ってしまい。


「ぷぷ、航くん顔変になってる。」


天使の笑顔で笑われてしまった。

離してくださいという意味でるいの太ももをペシペシと叩いていると、そこへるいママがクスクス笑いながら現れる。


「るい、あんまり乱暴しすぎて航くんに嫌われないようにね。」


そう言ったるいママの言葉に、るいはバツが悪そうにしながら、俺の顎から手を離したのだった。

お母さま、嫌うだなんてとんでもねえですよ!俺はドM男なのでこれくらいどうってことないのである。

……ハッ、いや待て。認めてどうする!!
俺は決してドMなどではないはずだ!


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