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自然な足取りで3つ目の俺の好きなアトラクションへと進もうとした時、るいは突然俺の手を引いて立ち止まった。


「ん?」とるいに視線を向けると、るいは俺が素通りしたエリアを指差して、「あそこになんか列あるよ。」と言ってくる。


「ああ、あれ子供向けだから」

「よし行こう。」

「おい正気か?」


るいはてっきりメルヘンな感じのアトラクションは恥ずかしがって嫌がりそうだと思ったが、ズイズイ俺の手を引いて列に並んでしまった。


並んでるのは子供連れの家族やカップルが多く、男2人ってあんまり居ねえぞ。


「るいきゅんキャラぶれまくり。」

「ん??」

「なあ、今まで遊園地とか行ったときどうしてたんだ?」

「ん?どうしてた?…んー…」


るいは腕を組み、過去を思い返すように黙り込んだ。


〜 るい 中3の卒業遠足 回想 〜


中学の卒業遠足では、隣の県の遊園地に行かされた。俺は憂鬱で仕方なかった。

何故ならその遊園地には、見るのもゾッとするほどの高さと長さ、そしてグニャグニャとねじ曲がったレールのジェットコースターがあるからだ。

勿論そんなジェットコースターに乗る気など微塵も無い俺だが、遊園地に到着するなり「あれ行くぜ!」とはしゃぎ始める友人やクラスメイトたち。

これはまずい。一緒に行動したら確実にアレに乗ることになる。

と、俺はサッと一人クラスメイトの輪から抜け出す。が、抜け出そうとした直後に「矢田くんどこ行くの?」と女子に問いかけられてしまい、「あっち」とジェットコースターとは真逆の方向を指差すと、「じゃあ私も。」と数名の女子がジェットコースターから背を向けた。

そんな女子たちに、男子が「えー」と不満そうな声を漏らしてくる。


「矢田こっち行こうぜー?」

「お前ら行ってこいよ。」

「みんなで行きたいじゃん」

「じゃあみんなでこっち来れば?」

「矢田アレに乗りたくねーの?」

「なんで乗る必要があんの?」


真顔でそう言った俺に、クラスメイトたちはとても戸惑ったような表情を浮かべる。

なんだか俺の所為で空気を乱してる気がして、「ああ分かった。行くから。」とジェットコースターの方へ向かえば、みんな嬉しそうにジェットコースターへの乗り場へと向かった。


列に並んでからはめんどくさいことに、誰が誰の隣に座るかジャンケンをし始めてしまい、俺はどこでもいいとジャンケンの輪から外れる。そもそも俺はジェットコースターには乗らない。


大分列が進んでから、「ちょっと便所」と列を抜け出し、その後友人に【 下で待ってる 】とメールを送った。


【 えっ戻ってこれそうにない!? 】と返事が返ってきたから、【 うん。楽しんできて 】と送っておいた。


ジェットコースターから降りてきたクラスメイトたちは、ジェットコースターに乗らなかった俺に「ひょっとして苦手?」と察しているようだった。


「じゃあ次は何に乗る?」とクラスメイトたちは俺を見て言うもんだから、絶叫系を避けて適当に視界に入った“おばけ屋敷”と書かれた看板を指差す。


すると、えっ、という顔をされ、さてどうしたものか。


もうなんかめんどくさくなってきて、じゃあ勝手に好きなとこいけよ。と思っていると、それが顔に出ていたのか「じゃ、じゃあおばけ屋敷行こう。」とだいぶ怖がって無理をしている女子たち。


「別に無理に入らなくていいと思うけど」

「矢田くんと一緒なら大丈夫…!!」

「………ああ、そう。」


もう好きにしろ、と結局みんなでおばけ屋敷に入った。


それからはやっぱりジェットコースターに乗りたいやつは「乗ってくる」と言ってグループが分かれる。うん。それで良いと思う。

みんな乗りたいやつに乗ればいい。


「観覧車、…乗らない?」


それから誰かがそう言った時、俺は一人、そっとグループを離れた。

そう。俺は、観覧車もあまり好きではないのだ。あんな宙ぶらりんの鳥籠みたいな中に入って何が楽しいんだ。


また空気を悪くしても嫌だし、俺はきっと個人行動の方が良いのだ。

と思って、【 うさぎのとこ行ってる 】と友人にメールを送ってから一人、動物ふれあい広場のベンチに座っていると、その後観覧車には乗らずみんなうさぎのところにやって来た。


「…はぁ。」


なんだよみんなうさぎ見たいなら見たいって言えよ。

その後、ドッと疲れた俺は、ずっとうさぎを眺めて暫くの時を過ごした。


もう遊園地には二度と来たくねえな。

という、苦い中学の卒業遠足の記憶である。


〜 るいの回想 おわり 〜


「………なんかごめん。」


過去を思い返している様子のるいの表情は次第に苦い表情になっていった。

ひょっとして聞いてはいけなかったかもしれない。トラウマ…とか。人にはいろいろ事情があるよな。

と思いながらるいに聞いたことを謝ると、るいは苦笑しながら「中学ん時の卒業遠足で行った遊園地でみんな絶叫系乗りたがってるし断ると空気悪くするしですげえ困った。」と語ってくれた。


「まあ断固拒否したけど。」

「へえ。あ、でも今日は断固拒否しなかったじゃん?」

「拒否する前に航が並ばせたからだろ!」

「でもよっぽど嫌なら途中退出もできたぞ?」

「………航と一緒だから頑張って乗ったんだよ。航とじゃなかったら途中退出してたよ。」

「…ふふ。イイコイイコ。」


きっとそうだと思った。

分かっててるいに聞いてみたあたり、俺もなかなか性格が悪い。なんとなく特別感を感じれることを、るいの口から聞きたかったのだ。


その言葉に満足しながら、俺は人目も気にせず、るいの髪にサラリと指を通す。

自然と近距離になっていた俺とるいの顔面に、近くで並んでいたカップルが俺たちを不審そうにガン見していた。


「あの男の子たちなんか雰囲気ラブラブなんだけど…」

「デキてんじゃない?」


ちょっと。会話聞こえてるから。


隠しきれないラブラブ感。

他人にももろバレな関係に、俺は吹っ切れてるいの手におもいきり指を絡めた。


「繋いでてもいい?」

「うんいいよ。」


俺の問いかけに、るいはにっこりと笑って、俺の手を握り返した。


ここは夢の国だから、普段は少し気になる人目も、あまり気にしないようにしようと思ったのだった。



その後、ゆったりと進む4人乗りのコースターに乗り込んだるいは、それはもうとてもリラックスしたようにだらりと腰掛けて「ふぅ。」と息を吐いた。

周りの景色なんて少しも見ておらず、俺はここでるいが“絶叫系以外ならなんでも良いのだ”と悟る。


「言っとくけどこれ最後超急降下するからな。」

「えぇ!?!?」

「…冗談だって。」


あまりにリラックスしたるいの様子にちょっとからかってやりたくなって言ってみたが、大声で叫ばれたから一緒に乗っていたカップルがるいの声に驚いて振り返ってきた。


「「…すみません。」」


ぺこりと頭を下げて謝ると、優しいカップルでクスクスと笑い混じりに会釈をして前を向く。


このアトラクションが急降下するだのるいに嘘をついた会話も聞かれていたからかもしれない。


「航くん、嘘はだめ、絶対。」

「だってるいがおもしろいから。」

「もうだめだからなー!」

「ふっふふーん。」


俺は鼻歌交じりにるいからそっぽ向いて景色を眺める。

なかなかロマンチックである。

さすが、夢の国ってかんじ。


再びるいの方を向いて、るいの不意をついて「チュッ」とキスをしてやった。


でもキスをしたあとに気付いた。


なんだよ全然ロマンチックじゃねえわ。


だって俺らのコースターのすぐ後ろに、4人乗りのコースターがもう来ていたから、俺がるいにキスした瞬間はバッチリ後ろのカップルに見られていたわけである。


目を見開いてあんぐりしている彼女の方と目が合って、俺は素知らぬふりをしてるいから顔を離した。


「航くんったら突然すぎて俺照れる」


なにも知らないるいは、嬉しそうに笑っていたからまあいいや。


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