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「なんかいい匂いがする。」
「あ、ポップコーンだ。俺買う〜。」
ちょうどアトラクションの列の近くで見つけたポップコーン屋でポップコーンを買ってから列に並んだ。
「これも結構人気だから待ち時間長いな。」
「え、人気なんだ?どんなやつ?」
「トロッコに乗ってパーク内の景色を楽しむかんじ。」
「へえ。………航くん、ちなみにトロッコの速度聞いてもいい?」
こいつさては俺を疑ってやがるな?
「うーん俺バカだからちょっとそういうのはわかんねえや。」
俺はるいからそっぽ向いてポップコーンをぽりぽりと食べた。
「おいしい?」
「おいしい。」
「あー。」
るいが口を開けてきたから、ポップコーンを10粒ほどるいの口に突っ込んだ。
「んごぁ」
あ、ちょっと入れすぎた。
モゴモゴと口を動かしているるいがちょっとウケる。
イケメン野郎さっきから女の子にチラチラ視線向けられてるからもっとおもしろい姿晒せば良いと思う。
だからモゴモゴと動いているほっぺたをつついたりして暫くるいイジリを楽しんだ。
さてさて、実はこのアトラクション、ジェットコースターである。2番目に俺が好きなアトラクションだ。
絶対に3回は乗りたい。
特に夜に乗るのが好きだ。
パレードやってる時は空いてるから狙い目はそこだと思っている。
「なあなあ航、なんか定期的に悲鳴聞こえるよな?」
おっと、気付いてしまったな?
列を半分ほど並んだところで、るいは奥から聞こえる悲鳴を聞いてしまったようだ。そりゃ絶叫系だからな。みんなキャーキャー言いまくりである。
が、絶叫系というには少々ぬるい。
というのが俺の中のこのアトラクションの評価だ。
「やっぱ子供はトロッコでもこえーのかなぁ。」
「…なあ、航くん…、このアトラクションはジェットコースターですって書いてあるんだけど…」
そこでるいは前回同様、注意書きをまじまじと見つめ始めてしまった。
「トロッコだよトロッコ。」
「…あれのどこがトロッコだ!?!」
おっと、とうとう見てしまったか。
トロッコが走っている姿を。
そうだな、確かにあれはトロッコじゃないかもしれない。そう。あれは、コースターだ。
「航くんの嘘つき!!!」
「さっきの乗れたからいけるよ。」
「さっきでだいぶ死んだわ!!!」
るいは顔に手を当てて、「はぁ…。」と大きなため息を吐いた。
「ガガガ」
俺はそんなるいを尻目にポップコーンの容器を傾けてポップコーンを口の中に流し込む。
空になったポップコーンの容器をゴミ箱に捨て、さてさて準備はバッチリ。
「これあんまり怖くないよね〜。でも楽しいからちょー好きだけどー。」
「………!」
うわ、わかりやすいやつ。
るいは背後から聞こえてくる女の子の会話にあからさまに安心した表情を浮かべた。
「…そうだよな、あんなちっちゃい子も乗れるんだもんな。」
そう言って、「キャー!」と叫び声が聞こえる走行中のコースターを眺めている。
けれど列が動くにつれ注意書きを真剣な表情で読んでいるるいはやっぱりちょっとビビっているようだ。あーおもしろい。
クールな矢田くんは今までびびった様子は誰にも見せまいと絶叫系に乗らずして過ごしてきたのかもしれないぞ。
その後暫くして乗り場にようやく辿り着き、とてもウキウキする俺の前に列車のようなコースターが到着する。
「…これのどこがトロッコだ…」
俺の後に続いてぶつぶつ言いながらコースターに乗り込んだるいが座ったのを確認し、安全バーを下げる。
「は!?なんかこれゆるくね!?」
「え、ゆるくないゆるくない。」
「いやゆるいだろ、不具合じゃねえかこれ!?大丈夫かよ!?」
「お前が大丈夫か。」
「うわっ待てよ動くなって!!!」
「そりゃ動くって。」
進み始めたコースターに、るいは一人アタフタしている。ふふ。
今回も俺は、バーをギュッと掴んでいるるいの手の上からそっと手を重ねて、にこりと優しくるいに笑いかけた。
大丈夫、隣には俺がいるぜ。
そう言いたげな優しい笑みだ。
しかしるいは、そんな俺を怪しげに見てくる。
カタカタカタ…
ゆっくりと前に進むコースター。
「…万歳すんなよ。」
「いいや、万歳をすることで風を感じれて気持ち良い。」
「あっバカ!離せ!俺はこれが無いと死ぬッ」
いよいよ頂上までやって来て、急降下する直前に、るいの手をバーから離させようと力を込める。
が、こいつすげえ力で握りしめてやがる。
「あああああ!!!!!」
そしてバーにしがみついてるクセに大絶叫しているるいは、下ってからすぐ上り始めたコースターに、「もういいから!!!」と叫んでいる。
いやいやまだ走り始めたばかりなんですけど。ついでに言うなら多分一番急降下するのラストなんですけど。
「あああ!!!!!」
「…そんなにこえーの?」
「あああああッ!!!!!」
「…必死だな。」
俺の知り合いでここまでジェットコースター苦手なやつって多分いない。
それからまもなくこのアトラクションの最終走路に差し掛かる。
「あああ登ってる登ってる登ってる!!!」
カタカタカタ、とゆっくりと登るコースター。その後、
「…あああああ!!!くだってるううう!!!!!」
「あはははははは!!!もっ!もうるい勘弁してっ!!!ひっ!!!」
コースターが下ると同時に叫ぶるい。
もう俺は笑いすぎて過呼吸になるかと思った。
コースターが停止する頃には、叫びすぎてぜえはあしている。
よろよろとコースターから降りたるいは、また足をもたつかせて転けそうになっている。
「おにーちゃんだいじょーぶぅ?」
そんなるいを見て、恐らく同じコースターに乗っていた小さな女の子が、お母さんに手を引かれながらるいの顔を覗き込んだ。
余裕のない表情だが、女の子ににこりと笑って見せたるいに、女の子はポッと顔を赤く染め、「おかーさん!見て見ていけめん!」とるいを指差す。
どうやら幼児も『イケメン』という単語を知っているらしい。
「こら!」とるいを指差す女の子を叱っているお母さんだが、あらやだほんとにイケメンね。というような目でるいを見てから、去っていった。
「幼児にまで好かれるイケメン。」
「…人間が乗るもんじゃねえ…。」
「おにーちゃんだいじょーぶぅ?」
「笑うなっ!」
ニタニタしながら先程の女の子の真似をしながらるいの顔を覗き込むと、ペシンと頭を叩かれる始末。
「どうやらテーマパークおデートはるいとの相性最悪のようだな。」
「航絶叫系好きそうな顔してるから嫌な予感してたわ。」
「るいが絶叫系苦手ってのは予想すらしてなかったわ。」
「あんなグニャグニャなコースを猛スピードで駆け抜ける意味が理解できん。」
「たのしいから。単純なことさ。」
さあ、行くぞるい殿。
いざ!次の試練へ…!
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