2. 真桜とタケの大晦日 [ 154/163 ]

※ 真桜の春完結直前あたりのおはなし

〜 高校1年 冬 〜


12月31日の大晦日、一年の終わりであるこの日、俺の家に遊びに来ていたタケといつも通りの一日を過ごしていた。柚瑠も誘ったけど家族との予定があるようなので、会えないのは残念だけど年明けまでの辛抱だ。


「真桜、今年一年はなかなか濃い年だったな。」


ゲームに疲れて休憩しようとコントローラーを置いたタケは、うんと伸びをしながら漫画を読んでいた俺にそう話しかけてきた。


「……うん、良い一年だった。」


一年を思い返してみると、俺の記憶の中には七宮柚瑠というクラスメイトの事ばかりが思い出として残っている。

去年の今頃は受験生だったから、勉強してた事くらいしかパッと思い付くことはねえけど、タケと受験結果を見に行って『あぁ、あったあった。』って互いに受験番号を確認したことも少しだけ印象深い。

中学を卒業してからは『待ってました!』というようにタケに美容院へ連れて行かれ、明るい茶色に変わる俺の髪。ピアスの穴も開けられて、タケに勧められたピアスをつける。

鏡に映る自分はまるで知らない人みたいに派手な見た目をしている。自分じゃないみたいで最初は全然慣れなくて落ち着かなかった。

そんな見た目をしているからか、高校に入学してからは同じように明るく髪を染めた派手な女子が俺に寄ってくる。俺自身見た目倒しのような人間で中身は見た目ほど明るくねえのに、ハイテンションで話しかけてくる。正直、しんどかった。


でも、俺の学校生活が一変したのは柚瑠のことを意識し始めてからだ。『あ、七宮またサンドイッチ食べてる…』って、こっそり観察するだけのそんな時間が楽しかった。

話したこともない、同じクラスの男子生徒。

バスケ部で、よく早弁してて、授業中は居眠りしていることも。先生に注意されて、慌てて頭を起こしたり。そんな七宮柚瑠を見ているのが、何故かすごく楽しかった。


高校に入学してからの俺の記憶には、4月の頃からもう柚瑠の事ばかり。辛い時もあったけど、それも含めて全部思い出。嬉しかった事なんて、俺の一生の思い出だ。


「真桜の一年で一番嬉しかった事ってなに?」

「一番嬉しかった事?……んー、いっぱいあるけど…。柚瑠と初めて喋れた時かな…。」

「えっ?そういうのなんだ?キスしたーとかじゃなくて?」

「嬉しかった事は全部嬉しい事だし順位付けするのむずいけど、初めて会話交わした時がキスより舞い上がった気がする。……あ、でもやっぱむずいな。」


言ったあとからやっぱり“一番嬉しかった事”に悩んで、「全部嬉しいな。」って訂正する俺に、タケがクスッと笑ってくる。


「真桜がそうやって思い出語ることも今まであんまり無かったよな。中学の行事とか覚えてるか?真桜にバレンタインチョコあげたくて列出来てた事とかもあっただろ。」

「嬉しい事だけ覚えてたいから中学の時の話はいいよ…。」

「ハハッ!!真桜男子みんなに羨ましがられてたのに当の本人はこれだもんな。つーか一番羨ましがってたの多分俺だわ。」

「タケもチョコいっぱい貰ってただろ。」

「違うぞ、あれは真桜に渡すついでだぞ?」


中学の頃の話はほんとにどうでもいいから「ふぅん」って聞き流しながら再び漫画を手に取りペラペラと捲っていたら、「はい、もう聞いてねえな。」ってタケもゲームを再開させた。

タケと今年一年の思い出話をしたから、その後漫画を読もうとしても俺の脳内では4月に柚瑠の姿を初めてみて、初めて喋って、だんだん仲良くなれてきた柚瑠との思い出の映像が流れてきて全然漫画の内容が頭に入らない。


「はぁ…、早く会いたい。」


ついにはボソリとそう呟いてしまい、またゲームする手を止めたタケにクスッと笑われてしまった。


「連絡してみたら?もしかしたら用事終わってるかもよ?」

「迷惑になんねえかな?」

「今何してる?くらい送ってみても平気だろ。」

「…んー、じゃあ送ってみよ。」


ほんの少しの期待を込めて、タケが言う通りに【 今何してる? 】って送ってみると、返ってきたのは30分後くらいだった。


【 家の家具の大移動と新しい家具の組み立てやらされてた。あー疲れた。大晦日にやることじゃないだろ 】


柚瑠からの返信は家族に対する愚痴のようなもので、思わずクスリと笑ってしまった。きっと優しくて、力も体力もある柚瑠は、家で力仕事をいろいろ任されるんだろうな。


「柚瑠から返事きた?」

「うん、家の家具の大移動と新しい家具の組み立てやらされてたんだって。疲れたーってちょっと愚痴ってきた。」

「おぉ…すげえこき使われてんじゃん。」


タケと話しながら【 お疲れ、大変そうだな 】って返信したら、【 でももう終わったから今から真桜のとこ行けるよ 】って返ってきた。

だから俺は、慌ててその場から立ち上がり、だるんだるんの部屋着を脱ぎ捨て、私服のズボンとセーターに着替える。


「は?なんだいきなり。柚瑠来んの?」

「うん、今から来れるって。」


急いで洗面所へ行き、乱れていた髪を整え、ピアスをつけたりしていたら、タケが「そんなに慌てるなら最初から着替えとけよ。」って笑っていた。


柚瑠が来てからは少しだけタケと三人で過ごしていたが、途中で気を遣ってくれたのかタケは「じゃあ俺はそろそろ帰るわ〜」と帰っていった。


「健弘良いお年をー。」

「良いお年をー。」

「おう、お前らも良いお年をー。」


一年が終わる最後の日も、俺は好きな人と過ごせて幸せだ。来年も、たくさん柚瑠と、幸せな時間を過ごせますように。


真桜とタケの大晦日 おわり



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