3. 航とるいのクリスマス [ 155/163 ]

※ S&E futureとfutureUのあいだのおはなし

〜 大学1年 冬 〜


去年は友人たちとるいの家でクリスマスパーティーみたいな事をしたけど、今年は俺と二人でクリスマスを満喫するとるいはやたら張り切っている。

家には雑貨屋で買った小さなクリスマスツリーを飾り、その横にはいつのまにかサンタやトナカイの置物まで並んでいてクソ可愛い。サンタやトナカイの置物が可愛いのではなく、俺が言う『可愛い』はるいのことである。


「なにこれ、いつの間に?」ってその置物たちに突っ込みを入れると、「100均で売ってたからつい買っちゃった」って話するいがやっぱり可愛い。


「ふぅん、可愛いな。」

「だろ?」

「いや、お前がな。」


俺の言葉にるいは「うん?」と首を傾げていたから、それ以上はもう何も言わずにるいを見ながらクスクス笑った。


24日のクリスマスイブにバイトの休みを入れたけど、25日は遠慮して休みを取らなかったから夕方からバイトの予定が入ってしまった。しかしそれはるいも同じだったようなので、24日にクリスマスを満喫しようとその日は午前中のうちからるいとお出かけする。


クリスマスの飾りやイルミネーションでキラキラしている街をるいと共に歩くが、手を繋ぐのを我慢するようにるいはちょこちょこと数秒置きに俺の手に指を絡めてくる。…いや、『我慢するように』っつーか我慢はできてねえな。

もういっそのこと繋ぐか?って手を差し出したら、るいは躊躇うことなく俺の手を握ってきたから、その繋がった手をるいの着ているコートのポケットにズボッと突っ込んだ。あったかい。

どうせ俺たちが付けているマフラーが色違いだから、そもそも付き合っていることは傍から見ればバレバレかも。これは昨日るいがクリスマスプレゼントに、ってくれたお揃いのマフラーだ。肌触りがかなり良いから、るいのことだからきっと奮発してくれてそうだ。

でも俺が紺色で、るいが黒。暗い色だからじっくり見ないとお揃いだと気付かれることはないかも。

口元が埋もれるようにマフラーを巻いていた俺をジッと見つめて、手を繋いでない方の手で「航くん可愛い。」って乱れていた髪を手櫛で直してくるから、そもそもるいがそういう言動を取る時点でマフラーがお揃いだとか関係なくアウトである。

街中の行き交う人たちから、チラチラと向けられる視線を感じてしまった。

いいよ、もう。これだけ人がいっぱいいたら知り合いに会うことも無さそうだし、思う存分外でイチャイチャしちゃいましょうか。


まずはるいが珍しく自分からケーキを食べたがったため、クリスマス限定メニューがあるケーキ屋の列に並ぶ。少し待てば中に入れそうだ。しかし男二人で並んでるの俺たちだけだな…ってちょっと恥ずかしくなってしまった。クリスマスの日に男友達とケーキ食べに来る奴とか居ねえのかよ。


数分待てば店内へ案内してもらえたから、冷えた身体を温めるためにケーキと一緒にホット紅茶も注文した。

頼んだケーキはクリスマス限定でツリーをイメージするようにフルーツなどが乗せられ、その上に星形のチョコも乗った可愛らしい見た目をしていたため、運ばれてきたケーキを見て「おぉ、可愛いな。」という感想を漏らす。

すると目の前のるいはそんなケーキには目もくれずケーキを眺めていた俺にスマホを向けてきた。


ハッとして顔を上げれば、るいがこっちを見ながら「航くんにこっ?」って言ってきたから、その掛け声に釣られるようににこっと笑みを作れば、その瞬間の写真を撮られる。


「お前べつにケーキ食べたかったわけじゃねえだろ。」

「あ、バレた?航くんと可愛いクリスマスケーキの2ショット撮りたかったの。ほら見て?超可愛い。」

「うん、可愛いな。ケーキ。」

「うん、航くんの方が可愛い。」

「もう分かったから早くケーキ食おうぜ。」


そう言ってフォークを持てば、るいもスマホを置いてフォークを持ったから、その隙を見て俺はポケットに入れていたスマホを手に持った。

そしてるいがパクッと口の中にケーキを入れた瞬間、「るい」と名前を呼ぶとこっちに目を向けてくれるるい。そんなタイミングを狙ったように俺はカシャッと写真を撮ると、るいはケーキを食べてるところの写真を撮られてしまい、恥ずかしそうにしながらモグモグしていた。るい可愛い。


「ほら見て、超可愛い。」

「…うん、可愛いな。ケーキ。」

「るいの方が可愛いよ?」

「…もういいから早く食えよ。」

「お前が言うな。」


ふっと笑いながら再びフォークを持ち、可愛くて美味しいケーキを味わった。べつにそこまでケーキを食べたかったわけではなさそうだったけど、食べ終わったるいはかなり満足そうだった。


ケーキを食べたからと言って腹が膨れるわけではなく、適当に街をぶらついたあと「昼ご飯は何食べようか?」と飲食店を見て回る。


『クリスマスを満喫する』って張り切ってたから夜はディナーでも行きそうな勢いなのに、るいは「イルミネーション見たら帰ろうな」って言ってくるから、夜はさっさと家に帰って何がしたいのかバレバレだ。まあナニっていうか、アレだけど。


ディナーを食べない分美味しいランチを食べようと、わくわくした様子で洒落たお店の中に入っていくるいの後をついて行く。るいが楽しそうで俺も楽しい。


そして昼ご飯の時もケーキの時と同じように俺にスマホを向けてくるるい。恐ろしくてとても見ようとは思わねえけど、一体るいのスマホの中には何枚俺の写真が入ってるんだろう。

『次スマホ買い替える時はギガ数多いやつにしよ。』って言ってるのを聞いたことがあるから、きっと何百枚も撮られてそうだ。


「あ〜っ今日の航まじ可愛いな。」

「え?いつもじゃねえの?」


『いやいつもと変わんねえよ。』と心の中で突っ込みを入れながらもそんな冗談を返すと、るいは「いつも可愛いけど今日はとびっきり可愛い。」と言い直してきた。るいの目はクリスマスフィルターでもかかっているのだろうか。

いやだからいつもと変わんねえよ。と思いながらも「それは良かったね。」ってにっこり笑って返すと、るいは「うん!」と嬉しそうに頷いていた。

お前の方が今日はいつも以上に可愛いけどな。

どうせ俺が言ったところで反応薄く『可愛くない』って否定されるだけだろうから口には出さない。


美味しいランチを味わった後は、膨れた腹を休めるためにのんびりと散歩する。クリスマスの雰囲気漂う街中は歩いているだけで楽しい。隣に大好きなるいがいるからっていうのもあるけれど。

そうしているうちにだんだん日は沈んでいき、イルミネーションの灯りがキラキラと輝き始めた。


るいは嬉しそうに俺の手を握りながらそんな風景を見渡しており、俺は正直イルミネーションはそこまで興味あるわけではなくて、るいの横顔ばかり見ていた。でもチラチラとるいもこっちを見てくるから、お互い様のようだ。


大きなツリーの前に辿り着くと、るいは「二人で写真撮ろう。」ってスマホを取り出し、自撮りをしようと俺の頬に頬をくっつけてきた。


写真を撮って、確認し、嬉しそうに口元を緩ませるるいに、俺も自然にるいを見ながら笑みが浮かぶ。


るいと過ごす幸せなクリスマス。

こんな日が来年も再来年も、何年経っても訪れるといいなって、俺は心から願ったのだった。


航とるいのクリスマス おわり


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