1. 柚瑠と真桜のクリスマス [ 153/163 ]

※ 真桜の春完結直前あたりのおはなし

〜 高校1年 冬 〜


冬休みに入ってすぐの12月24日も25日も、クリスマスとか関係なく普通に部活があった。でも子供がいる顧問の方が早く帰りたいからか、25日の部活が終わるのはいつもよりかなり早く、午前中に体力トレーニングだけして終了した。


「おい!彼女居ない寂しい野郎共みんなで飯行くぞ!!」


そう言って、男バス部員にご飯に誘っているのはタカで、俺もとりあえず腹が減ったから頷く。彼女がいる奴はさっさと帰っていったが、いない奴らで昼食を食べに行った。

食後にボーリングだの誰かの家でゲームしようだの誘ってくる奴も居たけど、俺は真桜と約束してると言ってその輪から抜け出した。まだ昼の1時になる前だったから真桜とゆっくり過ごせそうだ。

『イケメン高野でも男友達と過ごすクリスマスって聞くと元気出るな。』などと言っている奴が居たけど、真桜が好き好んで俺と過ごしてることはまあ知られなくてもいい事だ。『そうだな。』なんて返事をしながら、内心こっそりと笑った。


「柚瑠待ってた。今日会えて嬉しいな。」


そう言って、俺をあたたかい家の中に招き入れてくれる真桜。クリーム色の暖かそうなセーターを着ていて真桜によく似合っている。ぎゅっと俺にハグしてくる真桜が嬉しそうに顔を綻ばせるから、そんな真桜が可愛くて髪を少しだけ撫でた。


俺に触れたくてうずうずしたような態度を見せる真桜は、様子を窺いながらチラッと俺の目を見てチュッと口端に一瞬だけキスしてくる。

キスした後もチラッと顔色を窺われていて、今のだけじゃまだ物足りないんだろうなぁと勝手に真桜の気持ちを想像して、「クリスマスプレゼントあげよっか。」と真桜に話しかけた。


「クリスマスプレゼント?」


首を傾げる真桜に、俺は真桜の後頭部に手を添えて真正面からチュッと真桜の唇にキスする。

1、2、3秒ほど触れ合って、ゆっくり離すと真桜は恥ずかしそうに顔を赤くしながら下を向いた。


「どうだった?クリスマスプレゼント。しょぼい?」

「う、うれしい…。俺もプレゼントあるから来て…。」


めちゃくちゃ照れながら真桜はそう言って俺の手を握り、自分の部屋に続く階段を登っていく。『しょぼい?』なんて聞きながらも真桜が喜んでくれると分かっててやったけど、予想通りの反応が返ってきて俺も嬉しい。

…え?てかプレゼントあるんだ?俺なにも用意してないけどなんか買った方が良かったかな…。


真桜とは両想いでありながら付き合ってはいないという少々微妙な関係で、俺にとって今日は普通に友達と過ごす普通の日っていう感覚だった。でも真桜は違ったかも…、とクリスマスプレゼントとか言いながらキスしたことをちょっとだけずるかったかな?とか思ったりして、申し訳なくなってきてしまった。


真桜の部屋に入り絨毯の上に座ると、真桜は部屋に置いてあった紙袋を手に取り、その中からラッピングされた袋を出して俺に差し出してくれる。


「気に入るか分かんねえけど、良かったら使って…。」

「うわ、いいの?…なんかごめん、俺なんも用意してねえや…。」


照れ臭そうにプレゼントを差し出してくれる真桜は俺の言葉にふるふると首を振る。


「違う、俺が柚瑠にあげたかっただけだから…。それにさっきキスしてくれたので十分嬉しい…。一番貰って嬉しいプレゼントだった。」


本当に真桜が心からそう思って言ってくれてるのが伝わってきて、俺まで照れ臭くなってしまった。


「開けていい?」って聞くとコクリと頷いてくれた真桜は、その後ラッピングのリボンをほどく俺の手元をじっと見つめている。ちょっと落ち着きなさそうに手をもじもじといじっていて可愛い。


袋に手を入れプレゼントに触れると、柔らかい布のような何かで、なんだろう?と気になりながら中身を取り出すと、スポーツブランドのワンポイントが入ったネックウォーマーだった。


「おぉー!すげーいい!!毎日使えるやつ!!」


この季節、チャリを漕いでる時でもランニングの時でも使えるものだ。さっそく頭からズボッとネックウォーマーを被って首につけると、真桜は嬉しそうににこっと微笑む。


「真桜ありがとう、俺も何か返したいなぁ。今から買い物行かないか?」


そう真桜に提案すると、真桜はほんとにほんとに嬉しそうな表情で頷いてくれた。真桜からは俺と過ごせること自体が嬉しい、って様子なのが見ていて伝わってくる。

そんな真桜を見ていると俺まで自然に顔が綻び、サラッと真桜の髪に触れながらまたチュッと一瞬だけキスをした。


キスもハグもするけど、付き合ってはいないただの友達という関係である現状に、俺の心にはぐらぐらと揺れ動くものがあるのを感じる。

“恋人”って呼べる関係に、なってみても良いかもしれないな、って。

今日の真桜と過ごすクリスマスという日が、臆病な俺の背中を少しだけ押してくれたような気がした。



その後真桜を外に連れ出し、俺は手持ちのお金で買える真桜へのプレゼントを探す。あんまり高価な物は買えないけど、手頃な値段のアクセサリーショップを見つけてすぐにピアスが目についた。


「真桜、こういうピアスはどう?つける?」

「柚瑠が選んでくれたものはなんでもつける。」

「じゃあこれにしようかな?クリスマスのプレゼントだから雪の結晶のピアス。真桜ならなんでも似合いそうだもんなぁ。」


ちょっと女性向けっぽいかなぁ…?と思いながらも、俺が気に入ってしまったため、雪の結晶の形をしたピアスを真桜に贈った。

でも真桜はやっぱり、どんな物を身に付けても良く似合う。暖かそうな冬服を着て、雪の結晶のピアスをつけて照れ臭そうに笑う真桜が可愛いくて、俺の胸はキュンとときめく。


「うん。やっぱり真桜はなんでも似合うな。」


そう言って真桜を褒めると、真桜は嬉しそうに俺を見つめながらまた照れ笑いする。

恋人関係ではないけれど、真桜と一緒に過ごすクリスマスは、暖かくて穏やかで、心ときめく素敵な一日となった。

こんなに素敵な一日を過ごせるのなら、真桜と“恋人関係”になってみるのも良いかもしれないな。


柚瑠と真桜のクリスマス おわり


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