2. 拓也は大体把握してる [ 138/163 ]

【 拓也は大体把握してる 】


俺、黒瀬拓也ははっきり言ってめちゃくちゃモテる。顔が人より整っている自覚も、頭も運動神経も良い自覚まである。人から『欠点が無い』と言われるくらいの俺から見て、自分の欠点って言ったら、そうだなぁ…

そのイメージ通りの自分を見せたいがために、完璧な自分を求めようとすること…とか?実は全然完璧なんかじゃなくて、ただのかっこつけな男だったり。

だから正直高校時代、航が俺の告白にはまったく揺れずに矢田に惚れた時は内心めちゃくちゃ悔しかったな。この俺が失恋するなんて、って自尊心も強くて困る。

後にも先にもこれほど悔しい失恋をすることはもうないんじゃねえか、くらいに思っている。

…と言っても矢田もモテるからなぁ…うん。この場合は相手が悪かった。…って内心一人で言い訳もした。


そんな俺は今、自分と同じくらいモテる男と同居している。腹を出して汚い寝相で眠っている同居人の姿を見たらとてもそうは思えねえが、服着て歩いてたらやっぱりモテる。


「おいりと起きろよー今日1限からだろー」

「ン、ギェッ!!!」


りとの部屋に落ちていた孫の手で腹をくすぐったらりとはじたばたと暴れながら起床した。こいつはズボラなやつだから、布団の上で寝転んでいる時に遠くのものを引き寄せるために孫の手を愛用しているに違いない。


「5分以内に支度できたらパン焼いてやる。」


りとにそう声をかけたら、りとは素早く洗面所へ走っていった。慣れたら扱いやすい奴だ。


朝食を食べた後、行く先が二人とも同じなため曜日によって時間が合う日は共に家を出て大学に向かう。最寄駅から電車に乗ると、今日も“よく見かける”女子高生が電車の入り口付近に立っていた。


彼女はチラッとりとのことを見上げて、ササッと前髪を整えていた。俺から見れば彼女の片想いはモロバレだった。そして片想いの相手が俺ではなく、りとであることも。


車内はそこそこ混み合っているため、りとが女子高生の側に行くように少しスペースを空けて電車に乗り込むと、「拓也もっと向こう行けよ」とりとは肘で俺の身体を押してきた。

残念ながらりとと女子高生の間には20センチほどの距離ができてしまったがまあ仕方ない。俺は横目でこっそり女子高生の様子を窺っていたら、彼女は頬を赤らめてりとの方を見ないようにするために俯いていた。

名前も知らない大学生に片想いJK、可愛いなぁ。告白はしねえのかな?喜べ、りとはフリーだぞ。って、俺は基本自分に向けられることが多い恋心を分かりやすく俺ではなくりとに向けているこのJKの観察が朝の通学の楽しみだったりする。

JKからしたら、俺はもうおっさんに見えるかな。なんて一人心の中で自虐してみたり。


「ああねみー学校だりー」


JKの隣で堂々と大口開けてあくびするりと。JKの目線が上を向き、りとは大あくびしているところをガン見されている。なんか見ててこっちが恥ずかしいな…お前少しくらい視線に気付け。


「お前のあくびJKにガン見されてるぞ。」


俺はコソッと横からりとにそう声を掛けると、りとはチラッと目だけ動かして横を見る。するとJKはサッとまた下を向いた。


「拓也キモ、JKジロジロ見てんなよ、通報されんぞ。」


また今にも欠伸をしそうな眠そうな声で、憎たらしいりとは俺にそう言ってきた。失礼な!!別にジロジロ見てはいない。…ただ少しだけ、……JKの片想いを観察していただけである。


その後、JKは俺たちより先に電車を降りた。最後まで恥ずかしそうに下を向いたまま電車を降りて行った。

…まあ、この手のタイプは告白はしなさそうだな。と想定しながらJKが居なくなった車内で俺はりとに「今のJKどう思う?」なんて問いかけてみると、りとに「は?」と邪険な態度で聞き返されてしまった。お前相変わらず生意気だぞ。


「うわ、拓也ひょっとしてJKに興味あるタイプ?」

「おい変な勘違いするな、どう見てもあのJKがお前に片想いしてそうだから聞いてんだよ。」

「ああ、前からやたら見られてると思ってたわ。悪りぃけど全然興味ない。」


…おお、りと見直したぞ。お前も気付いてたんだな。どうやら俺と同じくらいモテる同居人も、俺と同じようにモテる自覚がちゃんとあるようだ。


「おお…!だからわざと嫌われようとあんな大あくびを堂々とJKの隣で…!」

「は?そんな理由でわざわざあくびなんかするわけねえだろ。眠いんだよ俺は!!」

「…あ、…うん。そうだな、すまん。」


どうやら俺は、睡魔に耐えることで必死なりとにくだらないことを言ってイラつかせてしまったようだ。

いつもだいたいのことは把握している俺だけど、りとの心の中までは把握しきれませんでした。すまん。


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