3. 拓也と楽しい同居生活 [ 139/163 ]

【 拓也と楽しい同居生活 】


「拓也って大学卒業したらどうすんの?」


スーパーで買ってきた惣菜をりとに分けてやりながら一緒に夕飯を食べていたら、唐突にりとは俺にそう問いかけてきた。


「ん?一応大学院行くつもり。」

「まじ?じゃあまだ暫くはこの家居る?」

「そうだなぁ。今のところお前が大学卒業するまでに出てく予定は無いけど?」


りとの問いかけにそう答えた瞬間、りとは「おぉ」と声を出しながら笑みを見せてきた。もしかしたら俺が大学卒業する頃に自分もこの家を出て行かなければいけなくなるかも、とか心配していたのかもしれない。


「なんだよ、めちゃくちゃ嬉しそうだな。この家気に入ったか?」

「うん。快適。」

「それは俺の方が多めに家事してやってるからじゃねえの?お前洗濯すぐサボるし食器洗いも結構溜めるし。」

「俺がサボってるんじゃなくて拓也がせっかちなんだよ。」

「ぁあ〜?俺がせっかちだと?」

「俺は溜めてドバッとやる派だから。」

「お前なぁ、そうやって溜めるの虫湧く原因だぞ?お前の大嫌いなゴキブリだって気ぃ抜いたら匂いに釣られてすぐ寄ってくるぞ?」


俺がせっかちだと言われたのと、溜めてドバッとやる発言に納得がいかず反発したら、りとは分かりやすく嫌そうな顔をしながら口の中に入れかけた唐揚げをべーと口から出して皿の上に戻した。


「飯食ってる時に気持ち悪りぃ名前出すなよ!俺の美味しい唐揚げを返せ!」

「うわぁ…すまんすまん。唐揚げの味は変わんねえから安心して食え。」


まさか食べかけたものを出すとは思わず、適当に唐揚げを擁護すると、りとは渋々唐揚げを再び口に入れもぐもぐ口を動かした。こいつのゴキブリ嫌いは相当だな。単語一つ出すだけでそんなに嫌がるか。


「お前良かったなぁ、こまめにやる派の俺と一緒に暮らしてて。二人とも溜めてドバッとやる派だったらこの家虫だらけになってたぞ。」


虫だらけっつーか、まあ…言いたいこと分かるだろ。ってりとの顔を見ながら言えば、りとはチラッと俺の目を見返してコクリと頷いた。

いや、なんのコクリだ。なんか言えよ。…って思ったが俺の言葉を最後にそんな話はそこで終了した。


食後はいつも食器を放置しがちでスマホをいじっているりとだが、今日は珍しく自分からシンクに食器を運んでいる。俺はそんな珍しいりとの様子を酒を飲みながら観察していたら、俺の分の食器も自らシンクに運んですぐに食器洗いをし始めた。


もしやこれは、『二人とも溜めてドバッとやる派だったらこの家虫だらけになってた』という俺のした発言が効いているのかもしれない。


自分の言動に成果が出ると嬉しくなる。甘やかすと矢田に怒られるから、りとがちゃんと家事をやっているという姿に、よしよし。と満足する。


そして食器洗いを終わらせたりとは、振り返り、腰に手を当てて仁王立ちで一言。


「どや??」

「お、おう。素晴らしい素晴らしい。」


自分から褒められるのを待っているようにドヤ顔で俺の前に立っているりとに、パチパチと手を叩いてやる。今日だけじゃなく、これが毎日続けば良いんだが。


「これで俺が多少家事サボっても虫湧かなくて済むな。」


ここでもう一息、効果がありそうな言葉を口にすると、りとは「じゃあ湧いたらちゃんと拓也が駆除してな?」という俺の想像していたものとは違う返しをされた。

せっかく褒めてやったのに、りとが動く理由は虫湧かないようにするためで、なんか褒めて損した気分だ。

ちょっと膨れっ面になってりとを睨みつけたら、りとはそんな俺のマネをして小馬鹿にするような態度でぷくっと頬を膨らませてくる。生意気なやつめ、お前の兄貴は俺をめちゃくちゃ慕ってくれているというのに。


「あーそう。そういう態度取るんだ。へえ、ふぅん。あっそう。はぁ、……俺もう一人でここから引っ越そっかな。」


もちろんそんな気はさらさら無いが、俺がもし引っ越したらりとはどうする?っていう反応を見たくて言えば、りとは膨らましていた頬をしぼめて真顔で「嫌です。」と言ってきた。

ぶふっ…、嫌なんだ。
りとのくせにそこ素直なのすげーウケる。


「俺が大学卒業まで居るんだろ。」

「さぁ?気が変わったら出てくかも。」

「ダメだって。」

「じゃあお前、俺が忙しくて全然家事やれなかったりしたら代わりにやってくれる?」

「うん、やるって。てか俺一応今もそこそこやってんだろ!?」

「ククク…ッ、…まあ、そうだったな。」


こいつがまったく家事やってない、っていうことは無かった。必死に弁明してきたりとに頷いてやると、「ふぅ」と安心するように息を吐いている。


「じゃありと頼むぞ?俺今後勉強とか忙しくなってまじで家事に手が回らなくなったりするかもしんねえし。俺もお前に迷惑かけるかもしんねえし。」


互いに理解し合い、協力し合えないと他人同士の同居生活はとても難しいものだと思う。俺はりとに今後の事を少し話したら、りとは真面目な顔して頷いてくれた。


「…分かった。まあ、やれる範囲でちゃんとやるから。」


生意気だけど、やんちゃな奴だけど、根はこいつも結構真面目なところがあって、矢田は心配していたけど俺はりととの同居生活はそこそこ上手くいっていると思っていて、引き受けて良かったとも思っている。


「おう、頼りにしてるわ。」


多分りとは俺のことを頼りにしているだろうけど、逆に俺からそんな言葉をりとに言うと、りとはちょっと反応に困りながら「うん」と小さく頷いた。



しかしまあ、それからすぐにりとはいつもの調子に戻っているんだが。放置されている食器を見て『あ、虫湧く』ってぼやいたらすぐに食器洗いをするくらいには、進歩したのだった。


何気に仲良しなふたり おわり

2022.04.28〜05.31
拍手ありがとうございました!

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