1. 黒瀬拓也には壁がある [ 137/163 ]

【 黒瀬拓也には壁がある 】


同じ学部のイケメンモテ男の黒瀬 拓也のことは、連絡先も知ってるし、飯にも行くし、一緒に講義も受けるしで俺は普通に友達だと思っているがどこか距離を感じることが多い。


「うわ〜次の給料日まで金ねえ〜!!!拓也ちょっと昼飯代貸してくんね?給料入ったらすぐ返すし。」

「わりぃ、俺人に金貸さない主義なんだわ。」


それは今行ったやり取りが良い例で、ほんの数百円くらい貸してくれれば良いものをバッサリ断られてしまった。別に借りた金くらいちゃんと返すのになぁ。と浮かない気持ちで学食のメニューの中で一番安いきつねうどんを注文する。


拓也の周りには人が自然に集まってくるから、置いてかれて座る席が無くならないように早足で拓也の後を着いていき、拓也の正面の席を無事確保した。


「あっ!拓也くん見つけた〜!ここ空いてる?座っていい〜?」

「おう、空いてる空いてる、どうぞー。」


ほらな、もうすかさず女が拓也の隣の席を埋める。キャッキャと嬉しそうに女から話しかけられているのに、拓也は男女で態度は特に変えず、いつもクールに受け答えしている。

ていうか多分、俺は拓也を友達だと思ってても、俺も、女も、他の周りの奴らも、拓也にとっては大勢の中の一人なんだろうなぁ…と思いながら俺は女と拓也の会話を聞きながらうどんを啜った。

そりゃ大勢の中の一人一人に金貸してたら誰に貸してたか分かんなくなるよな、…って勝手にそう結論付けた。


しかしその数日後、拓也がある人物に対してはあからさまに大勢の中の一人とは違う扱いをしている光景を目にする。


「あぁ〜っ、拓也くんはっけぇん。」

「おいなんだ、きもちわりぃぞ。」


男が一人、拓也の元へにこにことわざとらしい笑みを浮かべて歩み寄ってくる。やたら顔立ちが良いがちょっと悪そうな男だ。この男とはどういう関係なんだろう?と俺は拓也の横で二人のやり取りを観察する。


「これガチな話なんだけどさ、俺今日財布忘れたんだよ。だから拓也か兄貴居ねえかなってダメ元で学食来て良かったわ。」

「は?真面目に言ってんのか?」

「大真面目。昼飯抜きとかまじ無理、腹減って死ぬぅ…。」


男はそう話しながら、拓也の肩に馴れ馴れしく手を置いて項垂れている。


「そりゃ大変だな。で?何食うんだよ?」

「天津飯!!!」

「天津飯だな、買ってくるから席取っとけ。」

「あざ〜!!!!!」


男を先に席に向かわせ、二人分の飯を注文している拓也に俺は唖然としてしまった。

え、そこ普通に金出すんだ?って、俺との対応の違いに驚かされる。


「…え、今のやつ誰?」

「ん?…あー…後輩の弟?つか、同居人?」


同居人?そりゃ対応が違うのも納得だ。

『友達』っていう返事が返ってこなかったことに内心ちょっとホッとした。もし普通に友達にこの対応してるなら、俺は拓也の友達とはいえない立ち位置だと自覚させられてしまう。


カウンターで二人分の飯を受け取った拓也は、おぼんの上に天津飯を乗せ、席に座ってスマホをいじっていた男の元に歩み寄った。


「お〜い、りと頼んできてやったぞ。」

「うぇ〜い、サンキュー。この恩は食器洗いで返してやるよ。」

「一週間な。

………おい、無視すんな、一週間だぞ。」


男は拓也の発言をスルーしてガツガツと天津飯を食べ始めた。コツンと軽く男の頭をグーで叩いたあと、拓也は男の正面の席に座る。


「俺こいつと食うわ。」

「え?…あ〜、了解。」


「またな」と拓也にひらりと手を振られ、俺は渋々他の空席を探した。

近くに居た友人が俺に気付き、「あれ?拓也は?」と辺りを見渡している。


「あー…なんかあっちで知り合いと食べるって。」


拓也が座っているテーブルを指差しながら友人にそう知らせると、友人は拓也の方を見ながら「あ〜りとくんかぁ。」と言って拓也と一緒に居る男のことを知ってるようだった。


「お前あの男知ってんの?」

「え?お前知らねえの?矢田るいの弟だよ。朝も一緒に通学してて超仲良いじゃん。」

「え?あー…仲良いんだ?」


友人の話を聞きながら、再び拓也の方に視線を向ける。何の話をしているのかは分からなかったが、いつも男女ともに態度を変えずクールに受け答えしているいつもの拓也とは違い、目尻を下げて笑っていた。


あれが“仲良い人”に見せる態度なら、やっぱり俺や他の奴らは、拓也にとって友達とも思われてねえのかもな。って、俺は拓也と周りの奴らの間にある壁を感じたのだった。


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