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「てかりとその弁当で足りんのかよ?」


むっすりした顔でお弁当を食べ続けている矢田りとくんに、黒瀬拓也氏がチラリと目を向け話しかけた。

ツンとした態度で何も言わない矢田りとくんに、黒瀬拓也氏はクスリと笑って自分が食べていた唐揚げ定食の唐揚げを2つ、お弁当の中に放り込んだ。


「矢田の言う通り、食事は大事だぞ?」


兄貴肌だ…、イケメンすぎる…と近くに居た学生たちに憧憬の眼差しを向けられている。


「会長優しすぎますよ!会長の唐揚げが減っちゃうじゃないすか!」

「え?俺は別に足りてるし。」

「ダメです!会長は優しすぎます!おいりと、俺はゲームに課金するなって言ってるわけじゃねえよ?弁当で節約するのは良いことだしそれで足りるならそれでいいけどお前会長に弁当作らせただろ?お前のゲーム課金が会長に迷惑かけてるって分かった以上俺は止めるしなんならゲーム削除して、「あああああもううるせーな!!!!!」…は?お前の声のがうるせーよ。いてっ」


矢田るいくんの話の途中に、遮るように声を上げた矢田りとくん。テーブルの下では、弟が兄の足を蹴っている。


「分かったよ!ほどほどにすりゃいいんだろ!ほどほどに!!」

「うん、ほどほどにな。分かれば良いんだよ。」

「チッ…兄貴いちいちうるせーんだよ。」

「あ、せっかく俺もトンカツ分けてやろうと思ったのにそういうこと言う奴にはやんねー。」


兄弟の間で険悪な空気が流れていると思いきや、矢田りとくんは兄の言葉を聞き、ムッとした顔のまま『ドン!』とお弁当箱を矢田るいくんのお盆の近くへと移動させる。


「すみませんでした。トンカツください。」

「ぷぷっ、トンカツには敵わねーってか。」

「お前のそういう性格良いと思うぞ。」


矢田るいくんの顔には笑みが浮かび、黒瀬拓也氏も笑いながら矢田りとくんの頭に手を伸ばし、ぐりぐりと頭を撫でている。

和やかな雰囲気になったことを察した私たちは、いよいよミスターコンの勧誘をするために彼らの元へと向かって行った。


「あの、こんにちは!ちょっとだけお邪魔してもいいですか!?」

「私たち、ミス・ミスターコンテスト運営のものなんですけど!」


私たちの登場に一番に反応を見せてくれた黒瀬拓也氏が、「よっ」と片手を挙げてくれる。

しかし目的の人物、矢田兄弟はまったくの無反応で、それどころか矢田りとくんに至ってはこちらを少しも見ることなく、兄から貰ったトンカツをご飯と交互に夢中で頬張っている。


「矢田るいくんは今年も是非、」

「あ、俺もう出る気ないんで。」


にこりと作り笑いのような笑みを浮かべながら、ズバッと断られてしまった。分かっていたことだ、この人に出場してもらうことが簡単じゃないってことくらい。


「そこをなんとか!去年もすごく盛り上がったのは矢田くんのおかげなので!!」

「いえ、もう出ません。」


クッ…!揺るぎない…!
去年よりも勧誘が難しそうだ。


そこで一旦矢田るいくんの勧誘を中断し、もぐもぐもぐ、と口を動かしていた矢田りとくんに目を向ける。


「あの、矢田るいくんの弟のりとくんですよね!?すごくかっこいい!りとくんも是非ミスターコンに、」

「は?嫌。」

「うっ…」


即答…。兄よりズバッと…心が折れそう。

しかも機嫌悪そうに顔を顰められ、ちょっと怖い…。

けれどもう一人の運営の子は挫けることなく熱意をぶつけた。


「こんなにかっこいい兄弟が出ないなんて有り得ませんよ!お二人が出たら盛り上がること間違いなしです!ミスターコン運営注目のお二人なんですよ!?出ないなんてもったいないです!そのかっこよさは多くの人達に見てもらうべきですよ!」

「ミスターコンってあの不特定多数の人が見れるサイトに顔写真載せられるやつだろ?兄貴も載せられてたやつ。絶対嫌。じゃあ俺のところno imageにしてくれるか?」

「え?ノ、ノーイメージ…?いや、それはちょっと…」


サイトに載せる顔写真は出場者にとって大切なものだと思うのだけれど…まさかのそこから嫌がられるとは思わず狼狽えていると、「ミスターコン出場者の顔写真がno imageの奴なんか見たことねえわ。」と黒瀬拓也氏が笑っている。


「俺もno imageにしてもらったとしてももう二度と出たくない。」

「そんなぁ!!!そう言わずに!!!」

「黒瀬くんからも何か言ってよぉ〜!!!」

「ん〜…、りとは物で釣ったらいけそうだけど矢田はなぁ〜…。」

「は?さすがに釣られねーわ。クソデカ対価がねーと無理。」

「ちなみにりといくら貰ったら出る?」

「100万。」

「ククッ、たっけー。絶対無理じゃん。」


兄のるいくんが弟の言葉に呑気に笑い声を漏らしているが、私たちはまだあなたを諦めたわけではありませんよ!!!


「まだまだ時間はたっぷりありますからね!覚悟しておいてください!矢田兄弟、あなたたちには何が何でもミスターコンに出てもらいます!!!」

「「出ません。」」

「うう…っ。」


息ぴったりな兄弟の断りの言葉に私の心が折れそうになったところで、ひとまず今日は諦めて退散したが、私たちの勧誘はまだ始まったばかり。

去年、何度断られても矢田るいくんの勧誘には成功したため、今年だって諦めない!!!


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