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今年で大学3回生になる俺、黒瀬 拓也。
二度のミスターコン出場で、二度のグランプリを獲得。

正直三度目は出てくれと頼まれたら出てやってもいいけど、別に俺としてはもういいかなって言うのが本音である。

去年矢田と一緒に出て俺自身はもう十分満足したし、三度目となると『またこいつかよ』と思う人間もいるかもしれない。いや、二度目の時点でもう居たかも。

人の目に晒される場に出る以上、負の感情を向けられる覚悟も持って出なければならない。そんなのはもううんざりなので、今年は観客側で後輩の出場を応援するのもいいな。なんて話をつい最近ミス・ミスターコンの運営には話していたところだ。


矢田に仁、それに今年から古澤とりとも入学してきたし、運営にはしっかり彼等を推薦しておいた。


けれど俺の目の前にいるこのやたら目立つイケメン兄弟は、運営からの誘いを二人揃ってバッサリと断りやがった。

二人が出たら絶対盛り上がるのに…と俺さえ思うものの、こいつらが喜んで出たがるようなタイプではないことはよく分かっている。特に矢田は去年でもう懲り懲りだろうな。


「矢田はさておきりとは出ろよ。ニューフェイスなんだから。」


運営が立ち去った後、りとにそう話しかけると、予想通りの嫌そうな顔をされた。


「なんで俺がそんなめんどくさそうなやつ出なきゃなんねえの?」

「お前がかっこいいからだよ。」

「りと、やったじゃん会長に褒められたぞ。」

「おい、だから矢田にも言える事だってば。」

「…俺は、柄じゃないんで…。」


矢田はりとに話を振るとノリノリで乗ってくるのに自分に振られるとサッと引くような態度を取る。


「じゃあ今年も航に頼んでもらおっかな。」

「あっそれは無しっすよ!もうその手には絶対乗りません!!」


とか言って、航に頼まれたら断れないくせに。

いつの間にか航の尻に敷かれまくっている矢田を見ていると笑えてくる。


「お前ら出てないミスターコンとかぶっちゃけ盛り下がると思うぞ〜?」

「拓也出るんだろ?応援してやるよ。グランプリ取ったらお祝いに焼肉な。」

「お前の奢り?」

「兄貴の奢り。」

「おい言い出しっぺがおかしいだろ!俺、ら、の奢り!!」

「いや俺そもそも出る気ねえし。」

「えぇ!?なんでですか!?」


ここで矢田が、俺の出る気ない発言に残念そうな顔をして肩を掴んで揺さぶってくる。


「4連覇目指してくださいよ!!!」

「俺はもう2連覇で十分なんだよ。次は矢田の番。せっかく同じ大学なんだから兄弟対決しろよ。」

「舞台上で兄弟喧嘩が起こりかねません!」

「ははっ、それも面白そうだけどな。」


「絶対嫌です!」と何を言っても拒否をされ、やはり矢田の気持ちを揺さぶれるのは航だけだなと思った。


「じゃありとには焼き肉奢ってやるから出ろよ。」

「俺がなんでもかんでも飯で釣れると思うなよ?」

「お前が飯で釣れない事ってあるんだな。」

「うん、さすがに無理。」


今まで飯で釣りまくってきたであろう矢田の言葉に、りとはしっかり頷いている。

矢田は航で釣れるとして、見るからにめんどくさがり屋なりとの方が、勧誘に苦労しそうだ。



【 矢田とりとにミスターコンの勧誘してるんだけど全然頷いてくれん。なんか良い方法ねえか?ちなみにりとは焼き肉でも釣れなかった。 】


さっそく俺は、航にそんなラインを送ってみる。


【 焼き肉で釣れなかったら無理じゃね? 】

【 るいはな〜、これ以上人気になられても困るかも。 】


おい、まじか。

航からの返信を見て、俺は二人の勧誘を早くも諦め、スマホをそっとポケットにしまった。


運営さんたち、頑張ってるとこわりぃけど、矢田兄弟の出場無理かも。


ミスターコン勧誘失敗 おわり

2021.09.28〜11.08
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