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ミス・ミスターコン運営を務める私たちの活動は、4月…新入生が入ってきた時点で既にもう始まっていた。
「今年はなんと!昨年準グランプリの矢田るいくんの弟が入学してくるらしい!」
「えぇ!?それまじ?誰情報!?」
「黒瀬拓也氏!!!」
信憑性のある人物からの情報提供に、私たちは大盛り上がりだ。
ミスターコン二連覇しているイケメンの中のイケメン、黒瀬拓也氏はもはや運営側と言っていいくらい近年このイベントを盛り上げてくれる。
彼には是非今年も出場してもらってイベントを盛り上げて欲しいという気持ちはあるものの、そうすると他の出場者は彼が強敵すぎるあまりに意欲が下がってしまうかもしれないから、と今年は出場者としてではなく運営として携わっていただこうか。なんて意見が出ていたところだった。
これはありがたい情報だ。準グランプリの弟となるとそれだけで期待値が高まる。
私たちはわくわくしながら、広いキャンパス内でその人物の姿を探した。
「あ!もしかしてあの子じゃない!?るいくんの弟…!しかもみんな一緒に居るからすごく目立ってる!」
「ほんとだ!!みんな仲良いのかな!?」
噂の弟くんは、昨年のグランプリと準グランプリである目立つ2人と一緒に居たから、という理由もあるけど、その整った顔立ちに一目見ただけで彼が矢田るいくんの弟だと確信した。
系統は兄とは全然違う、ヤンチャ系のイケメンだ。
「やばい!これは絶対に声かけなきゃね!!」
「でも出てくれるかな…?去年るいくんに結構嫌がられたよね。」
「あー、嫌そうだったー。でもこの兄弟出てくれたら今年も大盛り上がり間違いなしじゃん!」
「だね。頑張って声かけよ!」
私たちは、今年のイベントも盛り上げさせるために、やる気に満ち溢れていた。
けれど突然話しかけるのも気が引けて、日々声をかけるタイミングを探していた時、黒瀬拓也氏、矢田るいくん、それからその弟、矢田りとくんが3人揃って学食のテーブルに座っているのを見つけた。
これはまたとないチャンスだ。
私たちは、そっとゆっくり、彼らに話しかけるために近付いた。
「お前珍しいな。なんで今日弁当なの?」
「節約。」
「まじ?偉い偉い。自分で作ったのか?」
「卵焼きは朝拓也に焼いてもらった。あとは夕飯の残り拓也に貰った。」
「は!?お前会長になにやらせてんだよ!!!」
「ハハッ。しかも節約の理由教えてやろうか?」
「おい!やめろよそれ言うなって!」
「なんだよ、言えねーことなのかよ?」
「ゲームで課金しすぎたからだってよ。」
「おい!!!拓也!!!」
「はぁ?課金だと〜!?」
矢田りとくんの手元にはお弁当箱。
3人はそれに関する会話をしているようで、私たちは彼らの会話をこっそり聞きながら、話しかけるタイミングを見計らった。
「お前ほどほどにしろよ。ゲームに課金なんてなんも残らねえのに。学食の飯好きなくせにそれ我慢してまですることかよ。」
「分かってねえなあ兄貴は。ゲームと飯、残らねえのはどっちも一緒だろ?だからより好きな方に金使ってるだけ。てかゲームだったらデータ残るし。」
「ゲームと飯は一緒じゃねえだろ。ゲームはやらなくても生きていけるけど食事は必要不可欠だろーが。データは残るっつーけど、そんなのいつサービス終了するかわかんねえぞ。」
ご飯を食べながら、イケメン兄弟の会話はなんだかだんだん討論のようになってしまっている。
互いに考え方が違うようで、意見を述べることに熱くなり、2人の声は徐々にボリュームが上がっていき、2人の言い合いが周囲にまで注目され始めてしまっていた。
「それはゲームやらねえ兄貴の価値観だろ!俺は好きでやってんだよ!そんなこと言ったらゲーム作ってる人とか運営の奴らはどうなるんだよ!それで生計立ててんだぞ!兄貴がもしそっちの立場のこと考えたら俺の課金は止めれねえはずだ!」
「まあお前みたいにほいほい課金するやつは良いカモだろうな。俺が運営だったらそりゃ止めるわけねえだろ、身内だから止めるんだろーが。なにバカなこと言ってんだよ。」
「うるせーよ!!!好きなゲームに課金して何が悪い!?課金する奴がいねえとサービスも終わっちまうだろーが!」
「なにもお前が課金しなくても人気なら続くし不人気なら終わる。サービス終了したときお前の手元にはなにが残る?」
「何も残んねえよ!!!!!」
「だろ?だからほどほどにしろよっつってんの。分かった?」
「………。」
矢田るいくんの言葉を最後に、弟のりとくんは口を閉ざしてしまった。
まるで親に叱られた子供のようだ。
ムッと不機嫌そうな顔をして卵焼きをパクッと口に入れるりとくんに、黒瀬拓也氏が一人その場で笑い声を漏らす。
「勝負あったな。」
「ちなみに会長どっち派っすか?」
「俺?んー、どっち派って聞かれたら矢田と同じほどほどにしろよ派?てか派もクソもねえだろ。」
「ははっ、まあそっすね。」
黒瀬拓也氏と矢田るいくんが親しげに会話する前で、弟のりとくんはずっと不機嫌そうにお弁当を食べていた。
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