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「どうしたら信じてくれんの?」


柄にも無く泣きそうになっていると、兄貴が心配するように近付いてきて頭を撫でようとする。だから触んなっつってんだろ!!!


ここで俺が航の姿で泣きそうになると兄貴が近付いてくるから不都合すぎることに気付き、必死でむっとした顔を作って兄貴の手をはたき落とした。


「もおー、痛いなぁ。航くんいい加減にしないとほんとに怒るよ?」


キ、キモイ…。口調が優しいから中身が俺だってことを全然信じてねえのが丸わかりだ…。


どうしたら信じてくれるんだろうと必死に考えた結果、俺は航が知らなさそうで家族しか知らないような話をしてみることにした。


「んー…じゃあ、えっとなぁ…、あっ!中学ん時兄貴の靴がいきなり無くなって探しまくってたことあったよな!?」

「靴…?あー、そういやそんなことあったかもな。」

「あれ俺が、あっ、りとが間違って履いていってしまって、雨の日にサッカーして泥だらけになったから捨てたのずっと黙ってたんだよ!!!」

「は?なにその話。りとから聞いたの?」

「違うって!だから中身俺だって!りと!ずっと謝れなかったから丁度良かった!今謝るから!!!」


今まで兄貴に黙っていたことを話し、両手を合わせて必死に謝罪までするが、兄貴はまだ疑うような目で見てくる。


「へえ?りとが?黙って俺の靴捨てたんだ?」

「うん!そう!!!!!」

「へえ、じゃあ次りとに会ったらあいつが隠し持ってる貯金箱から靴代として金抜いとくかな。」

「はっ!?やめろよ!!!」

「えーっと、確かクレヨンの箱だったかな。」

「なんで知ってんだよ!!!!!」


あまりに驚きすぎて、大声を出してしまった。

まさか俺の秘密の貯金箱を兄貴に知られてるなんて。

その取り乱し様がリアルだったからか、兄貴がジッと俺を見ながら「え、まじで中身りとなの?」と信じかけてくれている。


「不本意ながらな。だから今俺の身体の中には航が入ってるかもしんねえしそれを確かめに行きたい。」

「…まじで俺の靴りとが捨てたんだ?」

「…それは…うん…ずっと悪いと思ってた。」


あの頃は必死に靴を探している兄貴を見ながら『兄貴の靴神隠しに会ったの?』とか言って笑っていたが俺はずっと罪悪感を持ち続けていた。


ちゃんと反省して謝ると、「ふぅん、分かった。」と頷く兄貴。チラリと兄貴の目を見ると、兄貴は俺を見てにっこりと笑った。


「…あの悪ガキめ、時効だとか思って航に話したのなら大間違いだからな。次会ったらまじで覚えてろよ…あいつが中学の頃はそれはもうひどい荒くれ野郎だったからそんなことだろうと思った。航もわざわざそんな話まで出してきてつまんねー冗談やらなくていいから。」


ぜっ…全然信じてくれてねえ…。

次会ったらって、だから今目の前にいんのがその弟なんだって…。

俺はもうまじでこの奇妙な出来事にだんだん泣きそうになってしまい、ガッ、と壁を殴った。


「だから…っ俺が今りとなんだってば…っ」


両手でぐしゃぐしゃと髪を掻きむしり、ガン!と近くにあった洗濯物が入ったカゴを蹴飛ばすと、ジロジロととそんな俺を観察するように兄貴が視線を向けてくる。


「…じゃあさ…、俺も今までずっと黙ってたこと言うけどさ、…お前が実家のリビングで大口開けて寝てた時、りとの口の中にゴキブリ入っていって「はあぁああ〜!?!?んなっ、そっ、まっ、まじで言ってんのかよ!?」…ってのは嘘だけど、」

「…あはぁんもうまじむりぃ…あぁ〜ん…」

「…えぇ、嘘だろ…。まじでりとなのかよ…。」


この不可思議な現象、さらには兄貴に嘘か本当かわからないゴキブリ話を持ち出され、まじで俺の目からは涙が溢れてきた。


「航はそんな間抜けな泣き方しねぇよ…。」


暫く戸惑うような引いた目で俺を見ていた兄貴は、ようやく中身が俺だと信じてくれたようで、「じゃあ、航の中身どこいったんだよ…。」と今度は兄貴が泣きそうになっていた。



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