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俺たちのテーブルには、全員分のビールと先輩が適当に頼んだ料理が続々と運ばれてきた。
先輩は完全にこの場を仕切っていて、すげえ目立とうとしている。まあ存分に目立ってくれたら良いと思う。
「りとくんは何歳なんだっけ?」
「…じゅう、…あ、」
「ゲッ…!お前ビールっ、…ぶっ!」
ビールの方を見ながら「あ、」と固まるりとに俺はハッとしながら口を開こうとするが、おしぼりでべしんと顔を叩かれた。こいつ何を考えてやがる!
「一杯だけなら大丈夫だって。」
そう言いながらビールのグラスを持ってしまったりと。
「やめろって、俺がお前の分飲むから。」
「いや、俺が飲む。飲みたい。」
「ダメだって。」
「お願いお願い、一杯だけ。」
りとの手からビールのグラスを取り上げようとしたが、りとはギュッと両手でグラスを握って離さなくなってしまった。
そんな光景を不思議そうに女性陣に眺められてしまっている。
「おい!そこ二人なにやってんだよ、乾杯すんぞ!」
「いや、先輩、…こいつ未成年なんすけど。」
「あ、そうだっけ?まあいいじゃん!ほら、グラス持って。かんぱ〜い!」
よくねーだろ!!と思いながらも、皆ノリノリでグラスを掲げた。
「うえ〜い。」
ってお前もノリノリかよ!!
俺の隣に座るりとが、やたら嬉しそうにビールのグラスを手に持ち、ゴクゴクッとビールを飲んでしまった。
「ックゥ〜!これこれこれ!!!」
「おい!!!お前ビール飲むのさては初めてじゃねえな!?」
「せんぱぁい、飯いただきやーす。」
「俺お前の先輩じゃねえんだけど。てか俺の奢りみたいな言い方すんなよ!お前も金払うんだぞ!?」
りとに声をかけられた先輩が、ギョッとした顔でりとに言い返したが、りとはそんな先輩をスルーして目の前のおつまみに箸を伸ばした。
「…おい、拓也なんなんだよ矢田の弟…なんとかしてくれよ。」
…俺に助けを求められてもな。これに懲りたら先輩はもう矢田を合コンに誘わなければいい。この兄弟が合コンに来たら、高確率で合コンの雰囲気はぶち壊されると思っておいた方が良い。
「ふふふ、りとくんおもしろ〜。りとくん休みの日はいつも何してるの?」
「部屋に引きこもってゲーム。」
「え、引きこもり?」
ナースの卵ちゃんからの質問に答えるりとだが、嘘偽り無く答えすぎていてナースの卵ちゃん少し引いてんじゃねえの?
「休みの日に引きこもらねーでいつ引きこもるんだよ。」
「…確かに。」
「おいりと、もっと愛想くらい良くしろ。」
せっかくナースの卵ちゃんがお前に興味持ってんだぞ、と俺は横からボソッと口を挟むと、りとはおつまみに伸ばしていた箸をパクッと口に入れた後、「これうめえ。拓也追加注文して。」とまったく関係の無い返事をされてしまった。お前の性格はブレねえな!!
「先輩…、これ何てメニューですか?りとが追加注文してほしいらしいっす。」
「はあ〜?もうなんなんだよさっきから矢田の弟はよお!ちょっとは空気読めよ!」
「兄貴の代理でーっす。せんぱぁい兄貴が毎回無理矢理合コン誘われるってキレてたぞー。」
「は!?ちょっバカ!今そんなこと普通言うか!?まじ空気読めよ!」
「今言わなきゃいつ言うんすかー?」
ゴクッゴク、とビールを飲みながら話すりとに、間に座っていた俺はヒヤヒヤしてしまった。ちなみに女性陣は先輩の方を見て皆苦笑いだ。
面目丸潰れな上に気になっていたナースの卵ちゃんはりとに興味津々。俺が先輩ならりとをひどく恨むだろう。
「りと、その辺にしとけ。それ頼んでやるから。」
メニュー表を手に取りながらりとにそう言うと、りとはグラスに口をつけたままニマニマとした笑みを浮かべた。お前誰よりも早く一杯目飲み終えそうだな。俺は少しりとの将来が心配になった。
「…ビールももう一杯飲みたぁい。」
「バカ、なにぶりっ子してんだよ、頼むわけねーだろ。オレンジジュースでも飲んどけ。」
俺の肩に腕を乗せてわざとらしいきゅるんとした上目遣いで見上げてきたりとの手を振り払った。目の前では女性陣が俺たちを見てクスクスと笑っている。
「拓也くんとりとくんって仲良いんだね〜!」
「拓也くんりとくんのお兄ちゃんみた〜い!」
「ハハハ…あ、ほかに欲しいものあったらついでに頼むけど大丈夫?」
「…ビール。」
「だからお前のは頼まねえっつってんだろ!」
ビールビールって、いつからビール好きになってやがるんだ!矢田に絶対チクってやるからな!
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