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そして合コン当日の土曜の夕方、バイトも休みで一日中部屋に篭って万年床の布団の上でゲームをしているりとに俺は呼びかけた。


「りとー、もうちょいしたら行くし着替えろよー。」


りとは俺のその声に、めんどくさそうにむくっと起き上がり、もそもそと着替えを始める。

ちなみにりとには合コンとは言ってある。しかし飯代を払うのは嫌だと言われてしまったので矢田にそれを話すと、さすが矢田。数千円ではあるが弟にポイと渡す気前の良さだ。

まあ矢田の代わりに行ってくれるようなものだから矢田からしたらありがたいのかもしれない。おまけに弟に彼女ができれば万々歳。


着替え終えたりとを見ると、とても合コンに参加、とは言い難い緩い普段着だったがまあ顔が良い事には変わりない。服装は見逃してほしいところだな。


「ナースの卵が来るんだってよ。りとはどういう子がタイプなんだよ?」

「飯代払ってくれるやつ。」

「それ自分の兄貴だぞ。」


お前矢田から金貰ってただろ。と言う目でりとを見ると、りとは何も言わずにそっぽ向く。


「つーかお前女の子相手に多めに金払うとかいう考え皆無だろ。」

「なんで俺が多めに払わなきゃなんねえの?」

「男の方が多く食うだろ。」

「女の方が大食いだったら俺の分払ってくれるんだろうな?」

「…いや、まあその時は、…その時だ。」


やべえ、こいつドケチだな。すまんが俺にはりとに彼女ができる未来がまったく見えない。

女の子の話題をりとに振るのはやめて、先輩との待ち合わせ場所へ向かうと、髪型はばっちりキメキメに、洒落込んだ服装で気合い十分の先輩がすでに俺たちを待っていた。


「お!来た来た!」

「早いっすね、先輩。」


先輩の目の前まで行くと、先輩はさっそくジッと俺のすぐ後ろにいたりとに目を向けた。


「…おぉ、これがあの写真の矢田の弟?起きてたら普通にイケメンだな。」

「はい?」


あ、やっべ。クソ寝相わりぃりとの姿隠し撮りしてたのがバレちまう。

先輩に聞き返してしまったりとの気を逸させるように、「矢田にすげえ似てるでしょ。」と俺は先輩に話しかけた。


「ん〜…矢田よりかなりやんちゃそう。」


先輩はりとの足元から胸元までジーと観察するように眺めたあと、言いにくそうにボソッとそう口にした。

やっぱりりとの服装が気になったのか?先輩の反応は少し微妙そうだ。矢田の服でも適当にりとに着せてくりゃ良かったな。


先輩は先に自分の名前で予約しているらしい店内に入っていき、俺とりともその後に続いた。


「なにあいつ、すげえ気合い入ってんな。」

「ん?あぁ、ナースの卵の子が気になってるらしいぞ。」

「どうせ拓也に全員持ってかれるのに負け試合じゃね?」

「…まあ、俺は勉強忙しくて今は彼女作る気ないって先輩に言ってるし。」

「お〜い、席こっちだってよ〜。先に座って待ってようぜ。」


先輩はウキウキで俺たちに呼びかけ、席に案内してくれる店員の後を歩いて行った。


そしてそれから数分後、「はじめまして〜!」と綺麗に着飾った3人の女性が俺たちの前に現れ、先輩は「うわぁ!みんなすげえ綺麗!可愛い!今日はよろしくね〜!」とさっそくはしゃぎはじめた。


それを白けた目で見ているりと。
お前は少しくらい愛想良くしてみたらどうなんだ。


先輩が自己紹介をした後、俺が「黒瀬拓也です。」と名前を言ってから、次にお前の番だぞという意味を込めてりとの肩を肘でトン、と押すと、りとは無言でチラッと俺を見てきただけだった。


結局俺が「こいつは矢田りとです、りとって呼んでやってください。」とその場を取り繕うように笑いながら言うと、「りとくん可愛い〜シャイなの〜?」と女性陣はりとに興味津々だ。


勿論、先輩はそれをおもしろくなさそうにりとを見ている。そしてさらに、女性側の自己紹介で「看護学校通ってま〜す!」と言ってきた子が、りとの目の前に座っていた子だった。


「あ、ナースの卵。」

「えっ?あはは、そうそうナースの卵!」


『ナースの卵』と言ってその子を指差したりとに、笑顔でその子から返事が返ってくる。それを見た先輩が口を挟みたそうにその場から立ち上がった。


「とりあえず一杯目みんなビールで乾杯しますか〜!」


…あれ?もしや、りととナースの卵ちゃん…

良い感じなんじゃね?

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