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「拓也ぁ!矢田ぁ!合コンすっぞ!!!」
いつもいつも、俺と矢田を合コンに誘ってくるバイト先の先輩が、たまたま全員バイトの出勤日が被ったその日の退勤後、逃すまいとするようにガシッと俺と矢田の肩に腕を回し、張り切った様子でそう言ってきた。
「行きませんって。俺付き合ってるやつ居るって言ってんでしょ!」
何度も誘われては断り、を繰り返している矢田はさすがに少しキレ気味で、普通は諦めるのにこの先輩は少々しつこい。何故ならこの先輩は、俺と矢田の写真で可愛い子を釣っているらしいからだ。
「いや、言い方が悪かったな。飯行こう!」
「合コンという名の飯に行くわけねえだろ。」
「矢田生意気だぞ!ナースの卵に興味ねえのかよ!?しかも美人!」
「興味ありません。」
「向こうは矢田に興味有り有りなんだぞ!?つーかもう連れてくって言ったし。」
「困りますって!他の人誘ったらどうですか!」
「お前らレベルのイケメン連れてかねえと可愛い子来てくんないしキツイ。じゃあ代わりのイケメン誰か紹介しろよ。」
「んなの居ませんから。」
「……いや、待て矢田、丁度良い男一人居るだろ。」
矢田と先輩の押し問答が繰り返されるのを聞いていた俺は、身近に一人、休日にいつも自室でぐーたらしているイケメンが居ることを思い出した。
「え?モリゾーすか?」
「は?違うに決まってんだろ、りとだよ、りと。あいつなら彼女も居ねえだろ?顔もだいたいお前みたいなもんだし。」
「おぉ!それは良いっすねぇ!!」
俺の提案に、矢田はグーと親指を立てて、いい笑顔で頷いた。
「先輩、俺の弟なんてどうすか?顔は多分、俺をちょっと眠そうにした感じっすねぇ。」
「へ?まじ?矢田の弟?写真ねえの?」
「えぇ…、りとの写真あったかな。最近撮ったのは女装の写真しかねえや…会長は?」
「腹出してクソ寝相わりぃ寝方してるこれならある。」
「は?わかんねーよ!!寝相悪すぎだろ!つか全然矢田と似てねえじゃん!!これのどこがイケメンなんだよ!!」
…うわ、見せる写真ミスっちまったな。芸術的な寝相の悪さだったからつい写真撮ってしまったやつなんだけど。
「ふふ…、なんすかその写真俺にも送ってくださいよ。」
「おう、いいぞ。」
矢田にもその写真を送ってやっている間、先輩はまだ矢田を諦めきれてないように矢田の肩を掴んでいる。
「ナースの卵ちゃんが来てくんなかったら矢田の所為だぞ?」
「は?知りませんって。りとでいいでしょ。歳は俺の一個下、大学一緒、顔もそこそこ似てる方、俺と大差無いしあいつなら飯って聞くと喜んで行きますよ。」
「…え、まじ?大学も一緒…?お前らって超エリート大じゃなかったっけ…。」
「先輩、心配しなくても先輩よりりとの方がイケメンっすよ?」
「おい拓也!その言い方むかつくぞ!!どうせ俺だけじゃ可愛い子は連れねえよ!!じゃあ分かった、それでいい、その矢田の弟絶対連れて来いよ!!?」
こうして、本人の知らないところでりとの合コン参加が決まったのだった。
「りと良かったな〜、ナースの卵の彼女ができるかもしれないぞ。」
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